少子高齢化から考える社会保障制度の持続可能性
日本の65歳以上の人口が総人口に占める割合(高齢化率)は、2024(令和6)年10月1日時点で29.3%にのぼります。欧米諸国と比較しても、日本の高齢化率は最も高い水準です。
一方、2024(令和6)年の合計特殊出生率は1.15と過去最低を更新しました。出生数は約69万人となり、前年より4万人以上減少しています。
少子高齢化がこれからの社会に与える影響は、多くの人が注視している問題でしょう。
今回は、少子高齢化の進行と密接に関わる「社会保障制度」を起点に、高齢者の就業率と健康寿命の延伸について考えてみます。
高齢者の就業率増加
社会保障制度とは、病気・ケガ・老齢・死亡・出産・失業・介護・障害・貧困などに対し、国や地方公共団体などが一定水準の保障を行うことで国民の生活の安定を支える制度です。社会保障給付費の財源は約6割が保険料、約4割が公費(税など)でまかなわれています。
社会保障給付費は高齢化に伴って増加傾向にあり、2021(令和3)年度には約138.7兆円で過去最高となりました。この増加に反して、財源の半分以上を占める保険料を納める現役世代が減少しているため、社会保障制度の持続性を不安に思う人もいるかもしれません。
社会保障制度の持続性を高めるために様々な取組みが行われていますが、ここで一つ知っておきたいのは、高齢者の就業率が増加していることです。65歳以上の就業者数は21年連続で前年度を上回っています。
- 年平均の値
資料:総務省「労働力調査」
<内閣府「高齢社会白書(全体版)」/令和7年版>
70歳未満の会社員や公務員などが加入できる厚生年金※や公的医療保険・公的介護保険の保険料などが所得に応じた負担であることを考えると、高齢者の就業率が増加することにより、現役世代の保険料負担の増加を抑制することが期待できます。
※70歳以上でも一定条件を満たすことで、任意加入が認められる場合もあります。
年齢に関わらず、就労により収入を得る期間が長くなれば、ゆとりある老後を過ごすための大きな助けになるといえるでしょう。
健康寿命の延伸
高齢者の就業率増加の背景には、「健康寿命」の延伸が関係していると考えられます。
「健康寿命」とは、健康上の問題で日常生活に制限のない期間を指す言葉で、2022(令和4)年時点では男性が72.57年、女性が75.45年となり、年々延伸傾向にあります。高齢になっても、日常生活に支障なく健康に過ごせる期間が長くなりつつあります。
一方、平均寿命も同様に延伸傾向にあります。次の図のとおり、男女共に平均寿命と健康寿命との乖離は約10年あるため、この差をいかに縮めていくかが今後のポイントです。この差を縮めることにより、QOL(生活の質)の向上や就労者の増加が見込めるだけでなく、高齢者の医療費や介護費の抑制が、社会保障給付費の抑制につながり、財政面でのメリットも期待できます。
<厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」/令和6年12月24日>
健康寿命の延伸は、要介護状態になる年齢を遅らせることにもつながります。
現在、要介護認定を受けた人が公的介護保険施設への入所を希望しても、定員制限で入所待ちとなり、入所までの期間は介護サービスを利用しつつ家族が介護するといったケースをよく耳にします。現に、厚生労働省の2022(令和4)年度の調査データによると、特別養護老人ホームの待機者数は、27.5万人といわれています。介護をする家族が、別居で働いている場合などは、介護サービスや介護休暇(休業)を利用しつつも、様々な事情によりやむを得ず会社を退職することもあるかもしれません。それにより、家計に影響が出たり、介護疲れによるストレスを抱えてしまう人もいます。
介護と仕事の両立ができるよう社内の制度を見直す会社は増えてきているため、介護者にとって働きやすい環境に変化していくことと思いますが、介護者の負担軽減のほか、高齢者自身が長く健康に過ごすためにも、「いかに健康寿命を延ばすのか」をよく考え、対策を実践していく必要があります。
おわりに
厚生労働省が策定した「健康寿命延伸プラン」では、2040(令和22)年までに健康寿命を男女ともに75歳以上とすることを目指しています。
まずは「適度な運動」「適切な食生活」「健診・検診の受診」を意識して、取り組んでみましょう。例えば、「一日30分、ウォーキングをする」「毎日3食、バランスよく食事をとる」「定期的に歯科検診に行く」といった具体的な目標を立ててみるのもおすすめです。このほか、精神面の健康も忘れてはいけません。生きがいや趣味をつくり、適度にリフレッシュしましょう。
また、心身の健康とともに、生きがいや趣味に使うことのできるお金を準備することも考えると、就労と事前の経済的備えをセットで考えておくと安心です。
国の政策や会社の制度改定に期待を抱きつつも、まずは自分の意識や行動により変えられることから取り組むことが大切ではないでしょうか。
関連項目
「老後の生活費はいくらくらい必要と考える?」
「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
「介護離職者はどれくらい? 介護離職をしないための支援制度は?」