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教育の現場から
No.02

高校公民科授業実践報告「社会保障と民間保険に関する授業実践報告」

 東京都立目黒高等学校 加藤 春彦 先生

今日はタイトルにありますとおり、社会保障と民間保険に関する授業実践について報告をさせていただきます。

私の授業では毎回冒頭に、生徒が時事問題について5分程度のスピーチを行う活動を実施しています。スピーチで日本人の平均寿命の伸びについて触れる生徒もいますが、長生きできることはとても嬉しく喜ばしいことではあるが、老後の生活がちゃんとやっていけるか不安だとか、年金がちゃんともらえるのか分からないとか、不安な声や意見を持っている生徒もいます。そういった不安な気持ちを持っている生徒は少なからず多いという印象を持っています。

そういった状況も踏まえながら、そもそも社会保障制度とは何か、そして現行の社会保障制度の現状や課題をしっかりと理解したうえで、その先の持続可能な社会保障制度の在り方をどのように考えていくのか、そういったことが大事ではないかと思っています。

それでは、まずは公民科における社会保障教育の現状について見ていきたいと思います。学習指導要領における社会保障教育の位置づけとして、「内容とその取扱い」ならびに「考える視点」の2つにカテゴリー分けして説明させていただきます。学習指導要領にどのように書かれているか、本校の実態を踏まえながらお伝えしたいと思います。

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まずは公共の科目になります。「内容とその取扱い」について、疾病や失業など様々な原因により発生するリスクがありますが、そのリスクを取り除いて、人間としての生活を保障すること、それが社会保障制度の意義や役割であるということを、しっかり理解させることがまず大事になってきます。また、医療や介護、年金などの社会保険制度に見られる課題を通して、社会保障制度について理解し、議論させることがとても大事だと思っています。理解がないと薄い議論になってしまう可能性がありますので、しっかりと理解させることが大事だと思っています。社会保障に関わる受益や負担、世代間の公平性にも触れています。

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「考える視点」としては、高福祉・高負担、低福祉・低負担の視点や、現役の世代と将来の世代の話にも触れます。「考える視点③」のとおり、リスクというのは自分自身で対応するだけではなく、近隣住民や行政による対応が必要だという視点を元に、今回の指導要領の一つのポイントかと思いますが、そこで貯蓄や民間保険などにも触れていきながら、自助・共助・公助が最も適切に組み合わせるようにするにはどうすればいいのかということを多面的・多角的に考察します。

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次は政治経済の科目における社会保障教育の位置づけです。本校の場合、公共だけではなく、政治経済も必修としていますが、政治経済では探求の視点が多いため、公共で社会保障を学んだという前提のもと、政治経済でもう一度社会保障制度を扱っていきます。政治経済では、社会保障制度は最初生活における必要最低限度の保障であったが、広く国民に対して安定した生活を保障するものに変化しているという点について触れます。公的医療保険や公的年金保険などの社会保険をはじめとする、社会保障費の財政負担も大きな問題となっているという点についても触れていきます。社会保障というのは、財政と切っても切り離せない関係になっています。政治経済の場合、教科書の配列でいうと、財政問題を扱ってから最後に社会保障という形になります。既習事項である財政問題を使いながら、社会保障について考えると深みが増してくると思います。

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「考える視点」としては、先ほども言った世代間での公平性、また世代内での公平性という視点もあります。社会保障というと、どうしても高齢者向けの話ととらえてしまう生徒が多いですが、子育て支援や教育費という視点も入れると、もっと深みが増してくると思います。また自助としての医療保険や、生命保険の私的な年金保険など民間保険の役割について触れることで、より広い視野から見ることができます。自助・共助・公助における社会保障の考え方と私的な保障を対照させて、持続可能な福祉社会の実現に向けて探究していくのが政治経済になります。

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やはり取り扱う内容は盛りだくさんというのが正直なところです。学校の現状を踏まえて考えて見ると、本校の現行のカリキュラムでは、政治経済の中で社会保障に関する単元を確保できたとしても2~3時間程度になります。やはり必修であっても受験対策は避けられません。そうなったときに、定期考査や大学入試で必要な基礎的な知識を習得するためには、1~2時間必要になるかと思います。そういった意味で、なかなか主体的・対話的で深い学びにつながる授業時数が確保できないというところが課題のひとつです。

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また内容面で言うと、高校生が人生における様々なリスクを「自分事」として捉えることがやはり難しいのかなと思います。成人年齢が引き下がったとしても、なかなかそれを「自分事」として捉えることができません。成人年齢が引き下がっても自分事として捉えられないのに、自分が年を重ねてからどういうリスクが起きるのかというのはさらに捉えづらいかなと思います。社会保障自体を「自分事化」して考えること、そしてこれからの豊かな社会を作っていくための持続可能な社会保障の在り方を考察することも難しく、内容面的にも量的にも難しいと感じています。ただやはり社会保障教育というのは大事な分野なので、そこをどのように生徒に伝えていくのかがポイントなのかと思います。

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厚生労働省のHPに、社会保障を教える際に重点とすべき項目が掲載されています。これを参考にしながら、すべてを網羅的に扱うのではなく、ポイントを絞って授業をしていくことも大事だと思います。ポイントは大きく分けて3つ、「社会保障の理念」「社会保障の内容」、そして「社会保障の課題」です。

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次に本校の家庭科における社会保障教育の取り組みについても、簡単にお話させていただきます。資料に載せているものは本校の家庭科で使っている社会保障の教材です。本校では、家庭科は2年生の必修となっています。3年生は選択科目になりますが、社会保障について、まとまって扱える時間は1時間程度しかありません。やはり調理実習や、家族のことなど扱う単元が多いので、そういった意味では社会保障制度はなかなか扱うことができないようです。社会保障に関連した新聞記事等を活用しながら扱っているという話を伺いました。

学習指導要領やこちらの資料を見ると、社会保障制度や社会福祉の基本的な理念である、共に支えあって生きる社会の考え方について理解するという点は、公民科と同じだと感じました。家庭科の教員と話し合ってみたときに、公民科と家庭科における社会保障教育をどのように棲み分けていくのか、教科間での連携は大事になってくるのではないかとあらためて感じました。ミクロ的な視点から家庭科が扱って、マクロ的視点から社会保障の在り方を公民科で扱うといった形で、医療保険については家庭科で扱い、年金保険については公民科で扱うといった棲み分けやアプローチを変えてやってみるというのも大事だと思います。最近では公民科の教員と家庭科の教員でタイアップして授業をしたりする実践が増えていると思いますが、そういった授業も大事だと思います。私はどちらかというと、日常的に連携を図って公民科で教えていることはこうで、家庭科で教えていることはこうだと、それを生徒の中でマッチングさせていくことが大事であると思っています。イベント的に一過性で終わらせるのではなく、日ごろから連携をとって、生徒自身に、この学びとこの学びは繋がっているということを、実感させることが大事だと思っています。

それでは今回のメインである公民科での社会保障の実践例についてお話をさせていただきます。今回実践事例として2つお話させていただきます。1つ目は社会保障全体像と年金制度について、2つ目は今回の指導要領にも組み込まれている、自助について触れながら社会保障制度について考えるものになります。

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今回使用した教材は2つです。1つ目は、厚生労働省が作成した「人生100年時代の社会保障を考える」という公共を対象としたテキストです。2つ目は、生命保険文化センターで作成している「自助・共助・公助について考えよう」というPowerPointスライド教材です。こちらの教材に私のオリジナルの資料をうまく組み合わせながら、授業を作っていきました。それでは、授業実践例①から見ていきたいと思います。

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導入で、生徒に社会保障をいきなり突き付けても、なかなか取掛かりづらいので、身近なところからリスクについて考えさせることを日頃から行っています。

今回使用した事例は、日常生活におけるリスクの中で天気予報を活用しました。「降水確率が40%だったら皆さん傘を持っていきますか」と投げかけを行い、理由も含めてペアワークをさせていきます。それぞれ答えが違ったりして、リスクに対応していくことはこういうことだと理解せさます。ただ、最近これを生徒に聞くと、意外と「何%でも折り畳み傘を持っています」という人が多く、そういう意味では、少ないリスクでも備えたいという気持ちがあり、意識しなくても自分たちは備えているという話から、リスクに対応するとはどういうことなのだろうかと考えていきます。今回で言えば、雨に濡れてしまうことが「リスク」ですが、人生には、それ以外にももっと大きなリスクがあること、例えばケガをしてしまうリスクや、もっと大きく言えば命を落としてしまうことなど、様々なリスクがあり、それにどのように備えていくのかを、これから社会保障で学んでいくことを切り口にしています。

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「日本人はどれくらい長生きしているのか」と投げかけて、平均寿命の話をします。さらに「何歳まで元気でいたいか」とか、「何歳まで働きたいか」など発問していく中で、平均寿命と健康寿命を比較させたりすると、寿命についての捉え方も変わっていくのかと思います。

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人生100年時代として医療技術の発達によって長生きすることができるようになった一方、「人生におけるリスクが高まっているよね」と伝えます。その中で、これからの人生に起きるかもしれない困難・出来事、つまりリスクにはどういったものがあるかを生徒に考えさせて、ペアで議論させたりしています。そうすることで、卒業後だけでなく先のことをイメージしていく中で、リスクの自分事化を図っています。そうすると、病気やケガ、亡くなってしまうこと、仕事を失ってしまうことや老後の生活費が足りないというような意見が出てきます。この部分をペアで議論させることで視野を広げていくということを、日ごろから行っています。

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このように生徒から意見が出てきた後に、厚生労働省の教材「わたしたちの生活と社会保障制度」を使い、人生のライフステージに合わせてどのような社会保障制度があるのか、つまり、どのようなリスクに対応するために、社会保障制度が作られているのか見ていきます。生徒はそもそもライフステージすらイメージすることができないと思いますので、このように視覚教材を使用していくことで、生徒のイメージをより具体化させていこうと思っています。

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社会保障の理念を理解させるために、人生の様々なリスクに対して社会全体で支えあう仕組みが社会保障であり、その理念は日本国憲法第25条の生存権であると説明していきます。政治経済の場合、基本的には政治分野を学習した後に経済分野を学習していくため、政治と経済が切り離されて考えることが多いです。政治分野にその理念があって、経済分野でそれを具体化しているということも含めて授業で触れていき、政治と経済の関連性を高めています。ここまでが導入となります。

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展開に入っていきます。人生のリスクに対して備えるという考え方とは何か、3つの概念として「自助・共助・公助」について説明していきます。社会保障を学習するうえで、一番大事な概念だと思っています。この言葉自体は、災害対応とかで使われるかもしれませんが、一番理解して欲しいと思っています。これからの社会保障制度の在り方を考えるうえで、「自助・共助・公助」のどれを重視するかというのを生徒に考察させる実践例についてお話させていただきます。

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「自助・共助・公助」という3つの概念を理解したうえで、日本の社会保障制度の4つの柱について提示をして、生徒の理解を深めていきます。この4つの柱は「一人は万人のために、万人は一人のために」「One for all, All for One」つまり相互扶助であり、共助が中心だということを生徒に伝えています。

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「社会保険」が共助にあたり、残り3つが公助にあたると話をした後に、社会保険とは何か、図式化して生徒に伝えています。

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保険というのは、誰もが人生の中で遭遇する可能性のある様々なリスクに対して、人々が集まってお金を集め、保険料を出し合って、そのリスクに遭遇した人に対してお金やサービスを提供する仕組みであると伝えています。保険がないとリスクに対応できない人もいることから、こういった図を使って説明しています。

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共助と公助の違いとして、社会保険料をメインで運営しているか、それとも租税で運営しているかの違いだと説明します。

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次にこちらのグラフを使い、社会保障制度を支えている財政について、ペアを組むなどしてグラフを読み取らせながら考えさせます。

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こちらのグラフで、一人当たりの社会保障給付費が年々上昇していることを、この後に扱う少子高齢社会とリンクさせて触れてきます。社会保障は税金よりも保険料で多く支えられていることや、年金で全体の約5割の社会保障給付費が使われているとか、そういったことを知るのも大事だと思います。

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ライフサイクルから見た給付と負担のイメージです。こちらのグラフを見ると、人生の中で主に子供や高齢者のときが給付を受ける時期であり、生産年齢人口となっているときが主に負担をする時期となっていることがわかります。その違いを掴ませることで、負担をする人口が減ってくるからこそ、社会保障制度をどのように維持していくのか考えることが大事だと伝えていきます。

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いきなり年金とは何かから入っても、なかなかうまく授業はできないので、公的年金について理解や関心を高めるために、クイズを使いながら生徒に授業をしています。年金の意義として、いつから年金の保険料を払うのか、いつから年金をもらえるのか、もし途中で亡くなってしまった場合、それは払い損になってしまうのかなどのクイズをしています。また積立方式と賦課方式の違いを言葉で説明してもなかなかイメージできないと思うので、クイズを通して物価変動などを説明しながら、年金について考えさせています。

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やはり年金と聞くと生徒は、「老後に国からもらえるお金」というイメージが強くて、それは正確な理解ではありません。年金はそもそも何かというと、予測できない将来のリスクに対して備えるもので、老後や障害を負ってしまったとき、一家の大黒柱が亡くなってしまったときなど、予想できない収入の減少というリスクに対して備えるものだということを掴ませています。老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金があるということを正しく理解させていきます。

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日本の年金の構造は、3階構造になっていることだとか、人生の生き方や暮らし方、働き方などによって、入る年金が異なってくることなどを説明します。

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また高齢者になったときに、例えば国民年金しか加入してなければ国民年金のみが支給され、厚生年金に加入している時期があれば、国民年金に上乗せして厚生年金分のお金がもらえるというような話をします。

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また年金を考える上で、私が大事だなと思う言葉として、『公的年金保険は仕送りを「社会化」したもの』という言葉を生徒に伝えています。昔であれば三世代で家に住んでいて、介護も含めおじいちゃん・おばあちゃんを家族でサポートしていく、仕送りをするなどもあったかもしれません。でもそうしてくると、やはりいつまで生きられるかわからない、いつまでお金がかかるかわからないのと一緒で、なかなか仕送りが厳しいという状況があります。それを社会全体で賄っていく、『仕送りを「社会化」したもの』だということを生徒に伝えています。そのときには賦課方式の説明もしています。

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次に少子高齢化社会における年金制度について話をしていきます。この人口ピラミッドの推移を見たあとに、日本の高齢化についてクイズを出します。選択肢Dの約29%が正解ですが、7%、14%、21%の間違っている選択肢についても、ただ間違っているだけではなく、高齢化率を示す指標であるという話をします。知識をつけていくという形です。それでもなかなかイメージしきれないかもしれないので、教室全体を一つの日本だと考えた場合、教室は大体6列くらいありますので、2列は高齢者ですよということを言うと、生徒も実感がわくかと思います。こうした高齢化率を見ても高齢者が増えている現状の中で、少子高齢化が年金制度に与える影響は何だろうというところも、先ほどの人口ピラミッドの図を見せながら、クイズを使ってペアワークで考えさせていきます。そうすると生産年齢人口が減っていることや、先ほどのライフサイクルで見た給付と負担のイメージから、負担をしてくれる人が少なくなってくると一人当たりの負担する額が増えてくるのではないかとか、逆に言うと給付される額が少なくなってくるのではないかとか、そういった影響を掴ませます。

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少子高齢化が進む中で、長生きに伴うリスクに備えるためにはどうしたらいいのか、資料に掲載しているAとBの2つの考え方について個人で考えさせた後に、グループワークを行います。1つ目の考え方(A)は、税金や社会保険料を支払うことで、政府が中心となって対応すべきという考え方です。2つ目の考え方(B)は、税金や社会保険料を支払うのではなく、家族の間で助け合ったり、個人で努力したりするなど、家族や個人が中心に対応すべきといった考え方です。この2つの考え方をもとに、社会保障制度の在り方、これは年金制度がメインですが、生徒に議論をさせていきます。生徒にこういう話をさせると、2つ目の考え方(B)が多く、自分のことだから自分で何とかした方がいいのではないかという意見が多いです。ただこの段階で、自分で自分のことを何とかするというのはどういう対応なのかということ、つまり自助についてはここの段階ではあまり触れていません。民間保険の話もしていないので、自分で何とかした方がいいと言いつつも、どうすればいいかというところまでは、議論は進んでいない段階です。そこで次の話に繋がっていきます。

 

次に「自助・共助・公助について考える」ということで、自助についてメインで進めていきます。ここでは、生命保険文化センターで作成した教材を使っていきます。

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こちらの教材はとても分かりやすくてイラストも多いことから、どの学校のレベルでも使いやすいと思います。まずもう一度保険とは何かというところを再確認していきます。本来こちらの教材であれば100人の部員がいるサッカーチームを例にしていますが、私自身、野球部の顧問ということもあり、野球チームに変えて説明しています。このチームでは、毎年5人の部員が骨折していて、1人あたり治療にかかる費用は1万円です。チーム全員で治療費を準備すればいいのではないかということで、部員が100人いるので、1人あたり500円負担すればそれで対応できるよねというとことで、保険というのは相互扶助、「一人は万人のために、万人は一人のために」とまた伝えています。

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社会保険については、年金は取り上げてきましたが、それ以外にも主な保障内容について伝えていき、どういう事例や状況と関係があるのかという視点で理解を深めていきます。

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そして再度リスクに備える3つの概念「自助・共助・公助」について再確認し、共助については説明していますので、ここでは自助について考えていくという話をし、自助にはどんなものがあるのかを生徒に投げかけながら授業を進めていきます。

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自助については具体的な事例を用いながら説明していくことで、理解が深まるかと思います。自助が必要な事例として、入院・手術を伴う骨折の場合と一家の大黒柱が亡くなった場合を使い、必要となるお金から入ってくるお金を差し引いて、足りない部分として自助で準備する必要があるお金はどれくらいなのか見ていきます。そしてこの足りない部分をどのように備えていくのか話をしていきます。

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自助として2つの対応策があり、預貯金と民間保険があることを生徒に説明しています。預貯金と民間保険はどういったところが違うのかというと、預貯金は自分でお金を預け、好きな時に引き出すことができ、預貯金というのはリスクに対応するためだけに貯めているとは限らないので、様々な目的で使っていくことができます。ただ、預貯金はリスクが起きたときに必要なお金が貯まってない可能性もありますし、もしかしたらいつか足りなくなってしまうかもしれないというデメリットがあります。民間保険については、特定の損失やリスクに備えるための契約であり、あらかじめ保険料を払っているので、特定のリスクに対応できるという話をします。

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民間保険には生命保険と損害保険の違いがあることも伝えています。

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そして生命保険には様々な種類があって、死亡の保障、病気・ケガの保障など様々なものがあることを伝えていき、自助の種類として説明をします。

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ここまで自助について詳しく説明をした後に、もう一度日本の社会保障制度の在り方について考察し、グループワークをしています。内容としては、今の日本で社会保障制度を持続可能なものにするためには「自助・共助・公助」をどのように組み合わせればいいのか、特に一番大切だと思うものに〇を入れようということを、個人で考えた後にグループで話し合わせるようにしています。ただグループで意見を言うだけでなく、グループで1つの意見にまとめ、合意形成を図っていく形にしています。その際に参考となる資料として、AさんからCさんの各種意見の例を使っています。グループワークをすると、最初は自助が大切だという意見が多いですが、自助だけでは不安だという意見が出たりして、共助が増えたりします。ただ公助はなかなか増えないのが現状です。

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ここまで日本の社会保障制度について話し合ったけれど、海外はどうだろうということで、高福祉・高負担、低福祉・低負担の事例として、スウェーデンとアメリカを挙げたりします。私の授業は社会保障制度に限らず、基本的には個人で考え、ペアで考え、そして最後にグループで考えて終わりますが、ただ最後はやはり個人に立ち戻って欲しいという気持ちがあるので、この授業に関しては、最後に自分自身で今までの授業や友達の意見を聞いて、どのような制度が持続可能な社会保障制度になるのかというレポートを最後に課して、授業を締めくくっています。

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最後になりますが、今後の社会保障教育への提案という形で、いくつかお話させていただきたいと思います。まず、社会保障教育における重点すべき点として、1つ目は人生におけるリスクの「自分事化」、社会問題について自分事としてとらえるというのが一番大事だと思っています。そのいくつかの手立てとして、日常生活におけるリスクについて考えさせたり、リスクとはそもそも何なのか考えさせるようにしています。2つ目は「自助・共助・公助」による社会保障制度の考え方を比較・対照させることです。今までは授業の中で、共助をメインに扱っていたのかなと思うのですが、今回新学習指導要領で自助について触れることが書かれていますので、この「自助・共助・公助」という3つの考え方を比較・対照させることが大事なのかなと思います。3つ目は、真に豊かで「持続可能な社会保障制度」の在り方について考察することです。例えば4象限マトリックスなどをうまく使いながら、今回一番大切だと思うものに〇をさせたり、グラフを使いながら、自助・共助・公助があって、どの割合が多い方がいいかとか、そういうのを考えさせるのも1つかなと思っています。

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中堅進学校の立場として話をさせていただくと、やっぱり受験というのを意識すると基礎的な知識事項は網羅できません。例えば、政治経済で教えるべき内容の1つとして、世界の社会保障制度の歴史ということで、ベバリッジ報告やエリザベス救貧法など色々ありますが、そういったものは全く触れていないですし、日本の社会保障制度の歴史にもなかなか触れられていません。また、公的医療保険や雇用保険などは詳しいところまでやっていないため、公助の部分について学習が弱かったりします。そういった意味で本校では、公共と政治経済どちらも必修のため棲み分けが必要で、明確に内容を分けていくべきだなと思います。冒頭でも話したとおり、家庭科の先生との連携、家庭科・公民科ではどのように扱っていくかという視点があった方が複合的な学びができるのかなと思います。

社会保障教育というのは、オープンエンドな形で終わることが多いのかなと思います。生徒に在り方を考えさせて終わる形です。もちろんどのように組み合わせるのがいいのか考えることが大切だと話をして終わりますが、やはりオープンエンドな形で終わることが多いと思います。ただ最近の生徒は、よくすぐ答えを求めがちになってしまい、答えが無いことを調べ続けるのが苦手という印象があります。社会問題は答えが1つではないからこそ、1人1人が自分事として捉えて、それを主体的に考えることが、自分の人生における幸せにつながっていくということを話していきながら、生徒には授業の締めくくりとして伝えています。

今回の事例が少しでも参考になれば幸いです。

本日はご清聴ありがとうございました。