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ESSAY エッセイ
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家計簿をつけてみませんか。

埼玉大学教育学部教授 重川 純子

書店などに新年の家計簿が並ぶ季節になりました。スマートフォンの家計管理アプリやパソコンの家計簿ソフト、表計算ソフトにより管理することも増えてきていますが、現在も家計簿冊子がたくさん売られています。日本では年末にかけての風物詩ともいえる風景で、かつては日常的な家計管理が主婦の役割の一つとして意識され、主婦向け雑誌の新年号の付録の1つにもなっていました。この時期だけでなく、文房具店や100円均一の店などで年間を通じて家計簿を手に入れることもできます。

私は海外に出かける機会にその国の家計簿を探し、購入しています。手に入れた家計簿の費目立てから、その国の生活ぶりをうかがい知ることもあります。アメリカでは芝生の手入れ、スウェーデンでは育児という項目があらかじめ設定されています。なかなか家計簿を見つけることはできないのですが、最近、日本の家計簿を土台にしたKAKEBOやKAKEIBO(いずれも外国語のもの)が「Japanese art」(日本の方法)として売られており、海外の書店でみつけることもあります。

皆さんは家計管理をどのように行っているでしょうか。家計の改善を考えるときには、まず現状把握のため家計簿の記帳が有効です。

以前、20歳代から30歳代の1人暮らしの人を対象に、オンラインで1カ月間の家計簿記帳を2回(2回目は1回目終了の3カ月後)行ってもらうという調査を行いました(家計簿記帳により支出額や支出内容の把握だけではなく、収支バランスを考えた支出や予算立ての意識の変化が認識されました)。

この調査では、支出内容の費目分け区分の数について詳細と簡易の2つの記帳方法を設定し、比較を行いました。詳細に実態把握をした方が、効果が認識されると考えていましたが、予想に反して、簡易な区分でも一定の効果がありました(私が担当している授業の学生への家計簿の課題では、詳細な区分が有効な場合もみられます。課題として1カ月の家計簿記帳を課しており、この課題では食費を9区分、食費以外を11区分に分類して記帳させています。食費の中に「アルコール以外の飲料」という費目が含まれており、学生の中には1カ月の集計を見て、この費目の支出の多さに気づき、対応を考える人がいます。食費という大枠の設定ではこの気づきにはつながらないと思いますので、ライフスタイルに応じて費目を設定しておくことが必要といえます)。

家計に不満がある方は、予算を立ててみよう、あるいは以前より詳細に予算を立ててみようと考える傾向がありました。また、漠然とでも貯蓄目的をもっている方には、家計簿記帳の効果を認識する傾向がみられました。将来をイメージして貯蓄の必要性を意識する機会をもつことで、記帳により収支バランスを意識し、支出の仕方を工夫することで黒字が増え、記帳した効果を感じているのではないかと考えられます。効果を感じることは、記帳を継続しようと考えることにも影響します。必ずしもずっと記帳し続ける必要はありませんが、費目によっては1年間の中で変動するものもあるので、できればまずは1年間記帳してみるとよいでしょう。

調査では記帳継続のために行ったことを尋ねました。1回目の調査終了時に続けようと思っていて、実際に定期的に記帳した人たちには決まった時間に記帳する人が、そうでない人に比べると多く見られました。

家計のことが気になりつつ、そのままになっている方は、スマートフォンのアプリで、あるいは自作を含め冊子の家計簿で、自分なりのやり方で家計簿をつけてみませんか。

プロフィール

エッセイ2025年重川純子

重川 純子(しげかわ じゅんこ)

高等学校教諭、民間研究所研究員を経て、1998年より埼玉大学教育学部。家庭科教員養成のコースで「生活経済学」や「消費生活論」などを担当。