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ESSAY エッセイ
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今の「家庭科」の内容を知っていますか。教科書を手に取ってみませんか。

埼玉大学教育学部教授 重川 純子

先日、学生時代の友人から最近の家庭科の内容について尋ねられました。日頃接している若い人たちの言動や様子から、家庭内での役割など男女で差が小さくなっていると感じており、家庭科での学習内容が気になったとのこと。

友人も私も家庭科の男女共修前に中学校や高等学校で学習した世代。小学校では、戦後の新しい教育体制の中で一貫して男女がともに5、6年生で学ぶことになっていますが、中学校では1993(平成5)年、高等学校では1994(平成6)年入学者から男女とも家庭科を学ぶことになっています。そのため、40歳代半ばより若い世代は、男女ともに家庭科を学習していると思います。

さて家庭科の内容ですが、衣食住、特に調理実習や被服実習の印象が強いのではないかと思います。現在の家庭科は、小、中、高等学校いずれも、大きく分けて「家族・家庭生活」「衣食住」「消費生活・環境」の内容を含んでおり、自立、協働・共生し、よりよい生活について考え、実践できる力を育んでいます。もちろん、現在も食生活や衣生活に関する内容も含まれていますが、共修前に比べると、家族・家庭生活や消費生活・環境に関する内容が大幅に増えています。

以下では、高等学校で普通教科として学習する家庭科について紹介します。「家族・家庭生活」では性別問わず働くこと(家事労働、職業労働含めて)や家族、現在の生活と将来の生活について考えたり、子どもの遊び・生活や発達、高齢期の生活など多世代の生活を取り上げたりしています。「消費生活」では、消費者問題や消費者の権利・義務など、消費行動や家計の構造、家計管理、生活設計や経済計画などを取り上げています。

現行の学習指導要領が実施された2022(令和4)年から、家庭科で「金融教育が始まる」「投資の教育が行われる」ということを耳にした方も多いと思います。金融庁金融研究センターに設置された金融経済教育研究会により、最低限身に付けるべき金融リテラシーとして「家計管理」「生活設計」「金融と経済の知識と適切な金融商品の利用選択」「外部の知見の適切な活用」の4つの柱が掲げられています。この中でも基本になるのが「家計管理」と「生活設計」ですが、これらは2022(令和4)年以前から家庭科では取り上げられてきていました。金融商品の選択で考慮すべき特徴(流動性、収益性、安全性)や、社会保険と民間保険、借入や多重債務のことなども2022(令和4)年以前から取り上げられていましたが、預貯金や保険だけでなく、株式、債券、投資信託といった金融商品の具体的種類を示し、資産形成という言葉が使われるようになったことで注目されました。教科書では、リスクやリターンなども説明されています。

お金を増やすことに焦点が当たりがちですが、「いつ何にどのようにお金を使う、あるいはお金がかかってしまうのか」といったお金についての意思決定をするためには、どのような生活をしたいのか、生活の中で何に価値を置くのか、時間の使い方や暮らしたい空間、家族との関係なども考える必要があり、家庭科の中でこのようなことを考えることになります。

家庭科では、幅広く、一人ひとりや家族にとって、また社会環境や自然環境にとってのよりよい生活を考え、実践につなげていける内容を取り上げていますが、多くの高等学校では3年間のうち1学年で週2時間(2単位)のみの学習になっているため、1つ1つに十分な時間をかけにくく、関係学会などでは4単位必須の要望を出しています。

あらためて生活事典ともいえる家庭科の教科書を開いてみませんか。各地の教科書を販売している書店で、数百円で手に入れることができます。

プロフィール

エッセイ2025年重川純子

重川 純子(しげかわ じゅんこ)

高等学校教諭、民間研究所研究員を経て、1998年より埼玉大学教育学部。家庭科教員養成のコースで「生活経済学」や「消費生活論」などを担当。