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ESSAY エッセイ
消費生活相談

暗号資産をめぐる新たなトラブルの増加 ~迅速な相談が二次被害を防ぐ第一歩に!~

公益社団法人 全国消費生活相談員協会 鮫島 友里恵

毎年6月に公表される「消費者白書」には、消費者被害・トラブル額の推計結果が掲載されています。2024(令和6)年度の消費者被害・トラブル額は約9兆円に達しました。
近年、商品・サービスの多様化が進んでいることもあり、消費者被害・トラブル額が増加しています。特に金融サービス分野ではデジタル化が進んでおり、新しい金融サービス、決済方法が開発されています。中でも暗号資産に関しては2010(平成22)年にビットコインの取引が開始され15年が経過しようというところですが、十分な情報を得ないまま取引に至るケースが多く、トラブルが増加しています。


暗号資産はインターネット上でやり取りされる電子データで、電子マネーと同じく決済手段として開発されたものです。しかし、電子マネーとは異なり、発行運営会社が存在せず、不正取引などの管理を行っているところもありません。国家や中央銀行によって発行された法定通貨ではなく、その価値は保証されていません。
また、暗号資産はブロックチェーンという技術を利用し、その取引はブロックチェーン上に記録され改ざんは困難です。取引履歴は追跡できますが、取引当事者である個人や組織の特定は不可能に近いといわれています。
暗号資産は、ビットコインの値動きに代表されるように株式などと同じような投資対象にもなっています。暗号資産交換業者における口座開設数は1,200万口座を超え、利用者預託金残高は5兆円(いずれも2025(令和7)年1月末時点)を超えています。しかし、新しい金融サービスゆえ、暗号資産に関する正しい情報を得る機会は少ないようです。


ロマンス詐欺について、お聞きになったことがあるかもしれません。
SNSなどで知り合った相手に恋愛感情を抱かせ、結婚資金などを口実に金銭をだまし取られてしまう詐欺です。相手から暗号資産の投資を持ち掛けられ、言葉巧みに「もっと増やそう」と繰り返し投資させられ、ある日相手や暗号資産の業者と連絡不能となり、暗号資産を法定通貨に交換できなくなったなどのトラブルが起きています。困った挙句、ネット検索で見つけた業者(多くのケースで探偵業者)に被害回復を依頼しても、暗号資産の取引履歴が分かっただけで返金にはつながらず、調査費用を負担させられたという新たなトラブルも起きています。ブロックチェーン上の取引を追跡するツールは存在しますが、取引履歴が分かるのみで暗号資産を取り戻すことは非常に困難です。それにもかかわらず、返金につながるかのような広告を信じ、被害回復どころか調査費用という名目で新たな費用を負担させられてしまいます。
また、最近のマルチ商法では、取引対象が暗号資産関連のNFT※1となっているケースが登場していますが、法適用の対象となるかが明確になっておらず、被害の拡大が懸念されます。


金融サービス分野に限らず、相談現場では日々新手のトラブルに関する相談が入ってきます。新しいサービスはその利便性に目を奪われがちですが、法の適用を巧妙に免れて、気付いた時にはトラブルに巻き込まれていることもあります。少しでも「いつもと違う」「おかしい」と感じたら、消費生活センター(消費者ホットライン188)へご相談ください。
暗号資産に関しては担当省庁が規制の見直しを検討※2しています。皆さんからの迅速な相談や情報提供が、二次被害を防ぐ第一歩となり、法改正につながります。


※1 Non-Fungible Token=ブロックチェーン上で発行される証票
※2 金融庁「暗号資産に関連する制度のあり方等の検証」(令和7年4月10日)

プロフィール

鮫島 友里恵(さめしま ゆりえ)

公益社団法人 全国消費生活相談員協会
関東支部