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ESSAY エッセイ
消費生活相談

成年年齢引下げから1年が経った今、改めて必要な消費者教育とは?(2)

法政大学大学院政策創造研究科准教授  公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員 柿野 成美

2022年4月からスタートした18歳成人。18歳で未成年者取消権が使えなくなり、契約当事者としての責任が発生することから、消費者被害の増加を懸念して全国的に消費者教育が行われ、その結果、知識理解度が向上してきたことを第1回コラムで紹介しました。では、成年年齢引下げという約140年ぶりの大きな変化に対して、当事者である高校生はどのように感じていたのでしょうか?

公益財団法人消費者教育支援センターと公益財団法人生命保険文化センターが2021年に実施した「高校生の消費生活と生活設計に関する調査」では、全国の高校1年生と2年生約3,000人に対して、成年年齢引下げについての考え方について質問しています。その結果、約4割の男子が「特に何も思わない」と回答しました。一方、女子の約3割が「消費者被害にあうかもしれないと不安に感じる」と回答し、考え方には男女差が見られました。

さらにこの個別の回答結果の傾向から、回答者を成年年齢引下げに対してポジティブな回答群、ネガティブな回答群、ポジティブとネガティブの両方の回答が見られる混合群、無関心な群に分けてみました。その結果、ネガティブ回答群と無関心群が約3分の1ずつと高い割合を示し、ポジティブにとらえている高校生は1割強に過ぎませんでした。また、ネガティブ群もしくは混合群は女子の方が高い傾向であることや、2年生より1年生の方が高い傾向が見られました。

 成年年齢引下げに対する考え方(複数回答)

表_成年年齢引下げに対する考え方(複数回答)

注)ポジティブ群とは④,⑤,⑥のみに〇がついた人、ネガティブ群とは①,②,③のみに〇がついた人、無関心群とは⑦のみに〇がついた人、混合群は上記以外の人を指す。

<公益財団法人消費者教育支援センター・公益財団法人生命保険文化センター「高校生の消費生活と生活設計に関する調査報告書」より作成>

以上の結果から分かることは、当然ではありますが、成年年齢引下げに対する考え方は人によってかなり異なっているということです。そして、異なる考え方を持つ対象に同じ方法で消費者教育を実施することの難しさです。

国や地方自治体では、外部の専門家を講師として学校に派遣し、具体的なトラブル事例などを伝える啓発的手法を以前から展開しています。悲惨な消費者被害の実例を高校生に知らせ(ある意味で怖がらせ)ることで、問題について深く考えてもらう伝統的な方法でもあります。果たしてこのような手法によって、無関心群にどこまで当事者意識を持たせ、新成人としての責任を考えさせられるのでしょうか。さらには、ネガティブ群に至っては、恐怖心を煽り「怖い」という感覚を助長させることによって、社会の一員として自立した消費者市民としての役割を果たす消費者教育の目標とは一定の距離感が生まれてしまうのではないでしょうか。

前回のコラムで見たように、一時的に知識理解度は高まったかもしれません。しかし、消費者教育は知識理解にとどまらず、その知識を活用して、批判的思考力や問題に向き合い対応する力、さらにはよりよい社会の形成に向けてかかわる人間性の涵養(かんよう)など、より幅の広い継続的な取組みが必要となるものです。発達段階に応じて、学校や家庭、地域それぞれが役割を自覚し、効果的な連携によって自立した消費者を育むことが、我が国の重要な社会的課題の一つだと言えましょう。

(参考文献)
庄司佳子・小林知子・奥西麻衣子・河原佑香・柿野成美(2023),「18歳成人に求められる消費者教育の在り方についてー2021年度『高校生の消費生活と生活設計に関する調査』結果からー」『消費者教育』,第43冊,日本消費者教育学会

プロフィール

法政大学大学院政策創造研究科准教授  公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員 柿野 成美(かきの しげみ)

法政大学大学院准教授、公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員。博士(政策学)。
消費者の行動で未来を変える消費者市民教育を推進するため、全国で講演を行う。
文部科学省消費者教育推進委員会委員、東京都消費生活対策審議会委員。
主な著書に『消費者教育の未来―分断を乗り越える実践コミュニティの可能性』法政大学出版局などがある。