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ESSAY エッセイ
消費生活相談

どうする!どうなる?18歳成人  ―自立した大人になるために必要な消費者教育とは?―

法政大学大学院政策創造研究科准教授  公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員 柿野 成美

18歳成人で何が起こる?

 問題 店で買い物をする時、契約が成立するのはいつ?

 ① 商品を受け取ったとき

 ② 代金を払ったとき

 ③ 店員が「はい、かしこまりました」と言ったとき

 

 

 

 

 

 

このクイズは、消費者庁が成年年齢引き下げに向けて、全国の高等学校で活用することを目的に作成した教材「社会への扉」の最初に登場する問題です。正解は③で、消費者の申し込みと店の承諾という双方の合意よって契約が成立することを問うものですが、残念ながらこの問題の正答率は日本人全体的に低いのが現状です。

18歳から成人となり、一人で有効な契約ができるようになっても、契約の基本的な理解がなければトラブルに巻き込まれる可能性が高まります。現状でも、知識や経験が不十分な成人になったばかりの人たちが狙われ、被害にあっているのです。有効な契約ができる、ということは、いったん結んだ有効な契約を簡単にやめることができない、つまり未成年者には認められていた「未成年者取消権」が18歳で使えないことを意味します。高校3年生の教室で消費者被害が広がることを防ぐために、今後どのような対応が必要なのでしょうか。 

高校生には自分ごと化した課題を外部とのつながりで深める工夫を

第一に、高校生本人が18歳成人に向けた心構えや知識を身に付け、その知識をもとに実生活の中で活用できるよう学びを深めることです。徳島県では全高等学校で上記教材を活用し、授業前後、1年後、2年後に追跡調査を実施しました。問1の正答率は授業の前後で飛躍的に上昇しますが、2年後の調査ではその半分以下となるという結果が出ています。

202107-1

(出典)徳島県における「社会への扉」を活用した授業の実施効果に関する報告書(平成 29 年度~令和元年度総括)

この結果から、高等学校の授業で契約を扱う場合、知識の習得を目指すだけでなく、生徒の主体性を高め、課題を自分ごと化する工夫が必要だと言えそうです。そこで筆者が注目するのは、平成19年度から埼玉県で続く「不当表示広告調査」の取り組みです。県内の高校生や大学生が身近な広告から不当表示に該当するものを調査し、県が違反事業者に対する是正指導を行うというものです。このような学校外との連携した取り組みにより、消費者市民としての資質が育まれ、自立した消費者へと近づけるのではないでしょうか。

小中学校でのさらなる消費者教育の充実を

第二に、高等学校での学習のみならず、小学校から契約を中心とした消費者の学習を発達段階に応じて実施することです。令和2年度から小学校、令和3年度から中学校でスタートした学習指導要領では、18歳成人を受けて消費者教育の内容が充実しています。特に、小学校では「売買契約の基礎」が学習内容として位置付けられ、上記クイズと同じ内容が小学校家庭科の教科書に分かりやすく図解されています。発達段階に応じた学習環境は整ったとも言えますが、実際には児童生徒の実態に迫った学習がどこまでできるのかが課題と言えるでしょう。

教員、保護者を含めた日本国民全員が契約についての理解を深めよう

最後に、18歳成人がスタートするに当たり特に重要なことは、高校生やその関係者だけでなく、日本国民が幅広く契約についての理解を深め、自立した消費者になるため学びの機会をもつことだと思います。教員の理解が広がれば、授業だけでなく、それ以外の場面でも児童生徒に消費者として意識を向けさせることも可能でしょう。また保護者の理解が広がれば、家庭内や買い物の場面で実践的な消費者教育も期待できるでしょう。このように、18歳成人の実施においては、国民全体の意識の高まりが不可欠であり、そのための学びの機会を広げていくことが肝要だと考えます。

 

<リンク先>

消費者庁「社会への扉 ―12のクイズで学ぶ自立した消費者―(高校生(若年者)向け消費者教育教材 生徒用教材・教師用解説書)」

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/teaching_material/material_010/

埼玉県「学生・生徒と連携した不当表示広告調査」

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0310/30keihyouhou-gakkourennkei.html

プロフィール

法政大学大学院政策創造研究科准教授  公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員 柿野 成美(かきの しげみ)

法政大学大学院准教授、公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員。博士(政策学)。
消費者の行動で未来を変える消費者市民教育を推進するため、全国で講演を行う。
文部科学省消費者教育推進委員会委員、東京都消費生活対策審議会委員。
主な著書に『消費者教育の未来―分断を乗り越える実践コミュニティの可能性』法政大学出版局などがある。