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ESSAY エッセイ
生活設計

思考のスキルとしての生活設計

大東文化大学(経済学部)非常勤講師 藤田 由紀子

「生活設計は、思考のスキル(技術)である。」と思っています。トレーニングの対象であり、トレーニングによってそのスキルを磨くことができるという意味です。問題は、どうトレーニングをしていくのか、どのような教材を用意できるのかということです。

生活設計は、自分の人生の羅針盤です。オリジナルなものですから、自分で作らないと意味がありません。しかしながら、生活を考える上で必要になる情報は多く、変化も激しいため、一人で羅針盤を作りあげることは容易ではありません。しかも、自分が想定できる事柄は限られてしまいます。

一方、有用な情報を提供し、生活設計を考えるための材料を提供してくれるものとして、生活設計ツールが開発されています。当然ですが、現在、それらの生活設計ツールは、「自分」の生活設計を考えることを前提としています。しかし、自分のこととなると、気恥ずかしさや、自分の詳細な情報をインプットすることにためらいを感じてしまうこともあります。そして、自分の人生にふりかかる災難はなるべく考えたくないという感情が働くこともあり、様々なリスクについて検討することは避けがちとなります。

しかしながら、人生にピンチはつきものです。しかも、想定外の出来事に見舞われるようなピンチは何回もやってきます。そのようなピンチのとき、つまり外的要因によって生活を変えざるを得ない時、自分の持っている様々な資源、経済的資源の他、家族や友人、自分の経験や能力などの非経済的な生活資源はどのくらいあるのか。それらにどれだけ頼れるのか。将来にどのような影響があるのか、等々冷静に分析できる人ばかりではないのではないかと思います。慌ててしまって冷静になれない。相談できずに一人で悩んだり、さらなる失敗を重ね、状況をより深刻にしてしまう。そのような場合もあるのではないでしょうか。何回も経験するピンチに、前回冷静に対処できたからといって、今回も冷静でいられるとは限りません。

困難な状況に直面した時にどう考え、対処していくのか、それを考えるのは、リスクマネジメントであり、生活設計のひとつの領域です。この領域の思考をスキルとしてとらえ、鍛えることができないものでしょうか。まさに、外からの圧力を跳ね返す力、という意味であるレジリエンス、それを鍛える方法です。

私達は、地震の多い日本に住んでいるため、地震が起きたときの行動は折に触れて学びます。避難訓練も行います。それらが実際に役立ったという話も聞いています。そのような訓練が、他のリスクにおいてもあってもよいのではないかと思うのです。

そしてその訓練は、自分の人生ではなく、例として挙げられる、「想像する誰かの人生」を考えることでよいのではないかと思います。自分の人生として考えると重いし、自分の災難はできるだけ考えたくないものでしょう。他人の、想像上の人生であれば、自由に様々な可能性を考えることもできます。その経験が、実際に困難に直面したときに役立つはずだと思うのです。

さらに、学校などであれば、皆で考えるという方法があってもよいのではないかと思います。「三人寄れば文殊の知恵」ということわざもあります。他人の考え方や自分では思いつかない選択肢を知ることは新鮮であり、自分の発想を広げてくれるはずです。

せっかく、多くの人がインターネットを利用して簡単に様々なシミュレーションが行える環境が整ってきている時代です。生活設計のシミュレーションが行えるツールからも、参考になる情報やデータが容易に入手できます。また、思わぬ「気づき」を得ることもあります。もっと自由な発想で、みんなでそれぞれの目的にあった方法で生活設計ツールを使ってみてもよいのではないでしょうか。

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プロフィール

藤田 由紀子

藤田 由紀子(ふじた ゆきこ)

奈良女子大学修士課程修了。元生命保険文化センター研究室主任研究員。
主に家計分析や、生活設計論等を担当。現在は、大東文化大学経済学部非常勤講師。
近著は共著で吉野直行監修『生活者の金融リテラシー: ライフプランとマネーマネジメント』朝倉書店、2019。