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ESSAY エッセイ
生活設計

レジリエンス‐ダメージからの回復力‐と生活設計

大東文化大学(経済学部)非常勤講師 藤田 由紀子

最近、しばしば「レジリエンス」という言葉を耳にします。漠然と、回復力を指す言葉と思っていましたが、改めて調べてみましたら、もともとは物理学で使われていた言葉とのこと。「外の力からのゆがみを跳ね返す力」という意味で、復元力、回復力と訳されています。昨今は心理学でも使われるようになり、「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」と定義されているとのことです。生活設計風にいうと、”ゆがみをもたらす外の力”とは、生活に様々なマイナスの結果、損失、ダメージをもたらす出来事であり、それらへの対処能力がレジリエンス、ということでしょうか。リスクマネジメントのひとつの能力ともいえます。

昨今、リスク社会といわれて久しいとはいえ、毎年様々な想定外といわれる出来事が起こっています。自然災害の規模も年々大きくなってきていて、生活リスクを想定しなおす必要性を強く意識するようになってきました。個人の生活でも、どんなに気をつけていても、病気、事故、怪我、大小の失敗など様々なダメージをもたらす出来事に遭遇してしまいます。マイナスの結果をもたらす出来事が発生することを完全に抑えることはできないのです。また、前回(第1回)のエッセイでも触れましたが、将来への計画が行き詰まったり、変更を余儀なくされることはしばしばあります。

つまり、私達にとって、実際に様々なダメージを経験したときに、どのように振舞い、どう行動したらよいのかを知ること。そしてダメージをできるだけ小さくし、くじけても立ち直るコツや能力、つまりレジリエンスを身につけることは大変重要なことですし、その重要性は高まっているといえます。

アメリカ心理学会は、「レジリエンスを築く10の方法」を提唱しています*。そのうちのいくつかをご紹介しますと、①親戚や友人らと良好な関係を維持する。②変えられない状況を受容する。③危機やストレスに満ちた出来事でも、それを耐え難い問題ととらえないようにする。④長期的な視点を保ち、より広範な状況でストレスの多い出来事を検討する。⑤不利な状況でも、決断し行動する。⑥損失を出した後には、自己発見の機会を探す。⑦現実的な目標を立て、それに向かって進む。⑧希望的な見通しを維持し、良いことを期待し、希望を視覚化する。等とあります。※執筆者にて順番を並び替え、ナンバリングを行った

これを読みながら、まるで自分が諭されているような気がしてしまいました。②~⑥の5つは、抗えない事柄、危機やストレスに直面した場合や、損失を出した場合の心構え、リスクのとらえ方です。大切さを増している、生活リスクへの対処において有効な考え方です。そして最初の①家族・親戚や友人との良好な関係は、信頼できる味方の存在がいかに大切かを説いています。生活設計でも家族や友人などは、重要な生活資源のひとつです。そして、⑦~⑧の2つは、長期的な視点、現実的な目標設定、希望をもつこと、まさに、将来を描くという生活設計の神髄の重要性の指摘です。

10あるレジリエンスを築く方法のうち、ここでご紹介した8つはいずれも、生活設計の基本的な考え方に深く関わってくる事柄なのです。レジリエンスを磨く方法の多くは、ダメージに直面したときの心構えではありますが、そのようなダメージを受けた時にも、将来を描くこと、つまり生活設計をあきらめないことがその能力を磨くために重要であるということです。レジリエンスは、生活設計に必要不可欠な要素といえますが、同時に、大変なときにこそ生活設計を考えることで鍛えられる能力でもあるようです。

*American Psychological Association.“The Road to Resilience”. American Psychological Association . 2014.
https://www.apa.org/topics/resilience, (参照2020-11-06)

プロフィール

藤田 由紀子

藤田 由紀子(ふじた ゆきこ)

奈良女子大学修士課程修了。元生命保険文化センター研究室主任研究員。
主に家計分析や、生活設計論等を担当。現在は、大東文化大学経済学部非常勤講師。
近著は共著で吉野直行監修『生活者の金融リテラシー: ライフプランとマネーマネジメント』朝倉書店、2019。