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教育の現場から
No.03

夏季セミナー公民科授業実践報告 「社会保障制度や民間保険に関する授業実践報告」

東京都立蒲田高等学校 淺川 貴広 先生

2020.02

1.公民科で社会保障制度や民間保険制度を扱う過程での課題

社会保障制度や民間保険を公民科で扱う上での課題は、ぼんやりとした不安や不信感が生徒だけでなく教える側の教員にもあるということではないかと思います。

その典型例が「2,000万円問題」です。正確には「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を金融庁が出したのですが、この報告書をご覧になった先生はいらっしゃいますか?おそらく多くの方が報告書を読んでいらっしゃらないのではないでしょうか。ですが「2,000万円問題」を知っていますか?と聞くと「なんか年金ヤバいんでしょ?」というような答えが返ってきます。これは生徒も一緒です。「なんか年金ヤバいらしい」ということはわかっているんです。報告書は50数ページあるんですがよく見ると2,000万円不足する、というのはあくまでも導入部分の内容で本論はその後です。年金受給額も含めた自分の状況を見える化して世代ごとの心構えを持って資産寿命を延ばすことが大事ですよ、と書いてあったり、金融機関に対しては金融機関の制度改善などのサポートも重要で、特に高齢顧客保護、認知症の方への無理な勧誘をしたりですとかそのようなことが無いようにサポートしていく必要がありますよ、という内容なんです。ぼやっとした不安があるがゆえに、事実が明らかになったときに国民の不安が高まっていくという悪循環が起きているのだと思います。

公民科の授業では「自助・共助・公助」のうち「共助」の部分を多く取り扱い「自助」、「民間保険」にはあまり触れていないのが現状です。政治経済の学習指導要領では「国民の自助努力による福祉の考え方等を対照させて」とあります。公民科の先生に「社会保障教育で何を教えますか」と聞けば、ほぼすべての方が「年金」と答えます。「年金がこれからどうなっていくか」という話で終わります。「自助」についても触れますが、「共助」「公助」といった「社会保障の概要と少子高齢化を踏まえた持続性」が授業の中心となります。教科書には自助の「自」も民間保険の「民」も出てこないのが現状です。社会保障制度は授業で扱うことが多いのですが社会保障そのものの意義や民間保険などの自助を含めたライフプランなど、俯瞰的に社会保障を考える授業が少ないのが現状かと思います。

2.授業実践報告 ~社会保障人生ゲームを一例に~

現状を踏まえて私は「社会保障人生ゲーム」を作りました。まず1時間目は習得の時間、社会保障の意義や仕組みを学習させます。その際には教員自身の体験談を交えながら話します。私は「止まれ」の道路標識に自家用車で衝突し破損させてしまったことがあるのですが、その際自動車保険を契約していたので、約10万円の保険金で修繕費を賄うことができました。このような話を交えながら保険の考え方も学習します。

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2時間目は活用の時間として「社会保障人生ゲーム」を通じて「共助(社会保険)」と「自助(民間保険)」の必要性を理解します。この2時間で社会保障の基本を身につけ、アクティビティを通じて理解を深める内容にしていきます。

「社会保障人生ゲーム」の目的は、人生における社会保険の重要性を理解させるとともに、公的保険だけではなく、民間保険等による自助の必要性を理解させることです。社会保障制度だけでなく、民間保険等による自助の考えを取り入れ、人生を疑似体験できるアクティビティで自らのライフプランを見据えた理解を深められるようになると考えています。家庭科の授業でも十分活用可能かと思います。

今日は先生方に実際に「社会保障人生ゲーム」を体験していただきます。この会場にいらっしゃる先生方を3つのグループに分けます。①「保険」に全く加入しないグループ ②公的な保険制度(社会保険)にのみ加入するグループ ③公的な保険制度(社会保険)と民間保険のどちらにも加入するグループです。ワークシートを使って取り組んでいきます。25歳から75歳までを10歳刻みでの6ターンとして人生ゲームを行います。場合によってはイベントが起こることもあります。学校ではサイコロの出た目で決めるのですが、今日は私とのジャンケンで決めたいと思います。ワークシートに「収入」「支出」「公的保険料」「民間保険料」「貯金残高」とありますのでそれぞれのグループごとに記入をしていきます。公的保険料は①グループの方は記入しなくて大丈夫です。②、③グループの方が記入します。つまり、①グループは一生保険料が掛からないということになります。民間保険料は①、②グループの方は記入しなくて大丈夫です。③グループの方が記入します。

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【ターン①】

25歳です。収入20万円、支出10万円、公的保険料2万円、民間保険料1万円だと、③グループの方は貯金残高が7万円になります。働きはじめて医療保険に加入したため、民間保険料は1万円です。①、②グループの方もそれぞれご自身の貯金残高を計算してください。ここから、グループごとにさらに差が出てきます。

【ターン②】

35歳です。結婚し子どもができたあなた。結婚しなくてはいけないという訳ではなく、あくまでも一例として使っていきたいと思います。家族のために頑張る毎日です。収入30万円、支出15万円、公的保険料4万円、民間保険料2万円です。医療保険に加えて、自動車を購入したので自動車保険に入ったため、民間保険料は2万円に増えています。ここで私とジャンケンします。ジャンケンで私に負けた場合、草野球の試合で骨折したため、治療費として10万円の支出です。②グループの方は医療保険により3万円、③グループの方はさらに民間の医療保険で無料です。

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【ターン③】

45歳です。子どもも成長して、もうすぐ中学生です。一家の大黒柱として頑張る毎日です。収入40万円、支出20万円、保険料5万円、民間保険料5万円です。ここで私とジャンケンします。ジャンケンで私に負けた場合、病気になって入院したため、収入が0円となります。②グループの方は医療保険により収入が20万円となるので、働けなくなっても一定の収入は得ることができます。③グループの方はさらに民間の医療保険で収入が40万円となるので、働けなくなっても収入は変わらず得ることができます。ジャンケンで私とあいこの場合、自動車事故を起こしたため、修理費として20万円の支出です。③グループの方は民間の自動車保険により、修理費はかかりません。①、②グループの方はかかります。

【ターン④】

55歳です。子どもが間もなく20歳となり「成人式」を迎えます。大学生の子どもにお金もかかります。収入50万円、支出20万円、公的保険料10万円、民間保険料10万円です。ここで私とジャンケンを2回します。ジャンケンで私に2回とも勝った場合、昇進により50万円の収入を得られます。ジャンケンで私に2回とも負けた場合、会社が倒産して失業したため、収入が0円となります。②、③グループは社会保険の失業保険により、収入が半分の25万円です。ジャンケンで私に1回負けた場合、子どもが海外留学するため、留学費用として20万円の支出です。③グループの方は民間の学資保険により、留学費用はかかりません。①、②グループの方は留学費用がかかります。

【ターン⑤】

65歳です。いよいよ定年退職を迎える年齢です。これからは徐々に「老後」の人生が始まります。収入は、①グループの方は0円で、②、③グループの方は30万円です。支出20万円、公的保険料5万円、民間保険料5万円です。ここで私とジャンケンを2回します。ジャンケンで私に2回とも勝った場合、株式投資による収益で50万円の収入を得られます。ジャンケンで私に1回でも負けた場合、病気によって入院したため、入院費用として20万円の支出です。②グループの方は医療保険により6万円、③グループの方はさらに民間の医療保険で無料です。

【ターン⑥】

75歳です。いよいよ最後のターンです。多くの人が定年を過ぎ、老後の人生となります。収入は、①グループの方は0円で、②、③グループの方は30万円です。支出20万円、公的保険料5万円、民間保険料5万円です。ここで私とジャンケンを2回します。ジャンケンで私に2回とも勝った場合、株式投資による収益で50万円の収入を得られます。ジャンケンで私に2回とも買った場合以外、高齢者施設に入所したため、入所費用で20万円の支出です。③グループの方は民間の医療保険により、入所費用はかかりません。①、②グループの方は入所費用がかかります。

先生方、お付き合いいただき、ありがとうございました。結果はいかがでしたでしょうか。ワークシートに結果をまとめ、時間がありましたら、周囲の方と感想を述べていただければと考えております。

このアクティビティを通じて、社会保険(共助)の重要性、民間保険(自助)の必要性を理解することができ、生徒の目標達成の度合いも高くなりました。1時間目の習得の内容を、2時間目のゲームを通じた学習により深めることができました。本校のような物事を見通すことが苦手な生徒でも、この先の人生を見通しながら授業を受けることができ、自らのライフプランを意識した自助の必要性等についても理解させることができました。「社会保障人生ゲーム」を通じて、人生には不確実なことが多いということを感じてもらうことが大事だと思います。

本授業実践の発展例としては、「自助」の内容について、民間保険だけでなく、金融商品を加え、金融リテラシーの育成を目指すこともできます。「社会保障人生ゲーム」に、より多様な出来事を盛り込むこともできます。

3.結びに ~社会保障教育の“ユニバーサルデザイン”を目指して~

「公民科(公共)」の新学習指導要領においても、財政と社会保障を一体に扱うこと、従前の共助中心ではなく自助も扱い、「自助・共助・公助」のバランスを考えながら社会保障の在り方を考察することが盛り込まれています。社会保障教育のユニバーサルデザインを目指すために2つのことが必要だと考えています。①「自助・共助・公助」のバランスを意識した、今後の社会保障制度を考察させる授業の実践です。特に「自助」について、専門家等も活用したライフプランを見据えた金融リテラシーの育成が重要です。②家庭科や情報科等との教科間連携による、多面的・多角的な社会保障教育の実践です。教科間連携には4つの段階があると思っています。第1段階は授業内容の調整(重複する内容の整理等)。第2段階は授業内容、進度の調整(同一分野の同時期での実施等)。第3段階は授業内容、進度、教材の調整(共通プリントの作成等)。第4段階は合同授業の実施(教科横断型授業の実施等)。本校では「蒲田高校消費者教育week」と題して「成年年齢引き下げと『契約』」というテーマで公民科・家庭科・情報科の教科間連携による授業を行いました。教科間連携については無理のない範囲で実践していくことが必要だと思います。