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教育の現場から
No.04

夏季セミナー大阪・名古屋会場 基調講演「生活設計とリスクマネジメント」

大阪教育大学 教育学部教授 鈴木 真由子 先生

Ⅰ 学習指導要領の改訂を踏まえて

●育成すべき資質・能力の三つの柱
今回の学習指導要領の改訂では、この三本柱がポイントになります。

2018.12

図の左下の「何を知っているか、何ができるか」は、これまでの「コンテンツベース」といわれていた時代の学習です。しかし、これからは、「何を知っているか」はそれほど重要な意味を持たない可能性があります。インデックス機能さえあれば、その場ですぐにスマホで調べて正確でタイムリーな知識や情報が手に入るからです。そのような時代に、「知っているかどうか」が学力の中心になるような学習では通用しません。個別の知識・技能だけではだめだということです。

今、固定電話を持っていなくて不便と感じることはどれくらいあるでしょうか。例えば、タイの山間部では固定電話のインフラ整備が進む前に、モバイルフォンが普及しました。世の中の進歩は、いくつかの段階を経て現在に至るのではなく、途中のプロセスを飛ばして、そのときの社会が最も便利で合理的だと考えたものからスタートします。そうなると、固定電話時代の人が一生懸命身に付けた知識や技能が、スマホ時代からスタートする人たちには意味のないものになってしまうのです。

このようなことを前提とすると、「何を知っているか、何ができるか」が学力の中心に置かれていては、日本は国際社会から置き去りにされてしまいます。すでにそういう部分はたくさん報告されており、「ICT」とこれだけ言われていても、海外の教育現場に比べて日本は遅れています。

現在は、図の右下「知っていること・できることをどう使うか」に重きを置くようシフトしてきています。いわゆる「活用力」といわれる力です。例えば、いくら栄養学の知識があっても、乱れた食生活をしていては意味がないわけです。家庭科が求めるのは知識を身に付けることだけではなく、健康的な食生活を営むこと。健康を考えて食品を選び、実際に食べることができているかが問われます。

次に、図の上の「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」につながっていきます。ここで言われているのは、知識・技能中心の教育から脱して、この3つのバランスがとれた教育を目指しましょうということです。
ただし、知識が不要と言っているわけではありません。知識は、あったほうが選択肢も広がります。でも、そこがゴールではないということが強調されているわけです。

「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力・人間性等」の3つを合わせて「資質・能力」であり、「コンピテンシー」といわれています。新学習指導要領の基本コンセプトは、「コンテンツベース」から「コンピテンシーベース」への転換です。単語の穴埋め問題ができることを目指すのではなく、その知識をどう活かしてどのように生きていくのか、どうやって社会に向き合う力につなげていくかまで含めて、「資質・能力」として育てるというのが今回のコンセプトです。

2018.12

●家庭科における見方・考え方

基本コンセプトと合わせて出てくるのが「教科における見方・考え方」です。

2018.12

家庭科では「協力・協働」、「健康・快適・安全」、「生活文化の継承・創造」、「持続可能な社会の構築」の4つが示されました。この表現は教科によって異なり、家庭科はかなり価値を含んだ表現がされています。例えば、「健康」といっても私が考える健康と、みなさんが考える健康には違いがあると思いますし、生活文化の捉え方も、「文化とは何か」の線引きは単純ではありません。したがって、家庭科で扱おうとしている見方・考え方は、捉え方に幅があることを前提に、絶対的な基準は置きにくいというのが1つの特徴であると思ってください。

それから、「協力・協働」では特に家族のところに大きい丸が付いていますね。大きな丸は中心的に扱ってほしいものという意味です。家族や家庭生活が協力的であるというのは、目指したいことではあっても、それが前提になってしまうと、しんどい子どもたちが出てきてしまいます。そうではない環境で育っている子どもたちの存在を決して忘れないようにしたいものです。でも、将来的にはそういう家族や家庭を目指してほしいと思います。「協力・協働」において家族・家庭生活は、「共生」の考え方とともに扱っていただきたいと思っています。

●新学習指導要領
高校の「家庭総合」では、「A 人の一生と家族・家庭及び福祉」で、最初に「(1)生涯の生活設計」が登場し、3つの柱について具体的にどうするべきかが書かれています。

(1)生涯の生活設計
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

  • (ア)人の一生について、自己と他者、社会との関わりから様々な生き方があることを理解するとともに、 自立した生活を営むために、生涯を見通して、生活課題に対応し意思決定をしていくことの重要性について理解を深めること。
  • (イ)生活の営みに必要な金銭、生活時間などの生活資源について理解し、情報の収集・整理が適切にできること。

イ 生涯を見通した自己の生活について主体的に考え、ライフスタイルと将来の家庭生活及び職業生活について考察するとともに、生活資源を活用して生活設計を工夫すること。

「ア」には、前述の三角形の左下、「知識・技能」がまとめられ、その中に(ア)と(イ)の2つが入っています 「イ」は前述の三角形の右下、どのように知識を使うか「思考力・判断力・表現力等」がまとめられています。 「ア」の(イ)は、生活の営みに必要な金銭、生活時間などの生活資源について、知識としては「理解し」とあり、技能としては「情報の収集・整理が適切にできる」とあります。 「イ」は「思考力・判断力・表現力等」ですから、活用力が求められています。それを表す表現は「考察する」と「工夫する」です。この2つは思考力・判断力・表現力を求めている文言であると理解してください。

このあと、後半部分にはこのような解説がされています。

C-(1) 生活における経済の計画のア(イ)には、生涯を見通した生活における経済の管理や計画、リスク管理の考え方について理解させてくださいと書かれています。
そして(イ)の取り扱いは、生涯にわたるリスクを想定して不測の事態に備えた対応について具体例を挙げて触れてください、と書かれています。

これに続けて、将来の予測が困難な時代におけるリスク管理の考え方について理解しなければならないこと、教育資金、住宅資金、老後の備えの他にも事故や病気、失業などのリスクへの対応策も必要であると理解しなければならないと示されています。

さらに、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット、デメリット)、資産形成の視点にも触れながら、生涯を見通した経済計画の重要性について理解できるようにする、と書かれています。この部分は公民分野で扱う内容とも大きく関わってきます。

これがイの思考力・判断力・表現力になると、社会保険制度との関連性という言葉も出てきます。
高校卒業後の進路や職業も含めた将来の生活設計と関連付けて考察する。その際、リスク管理の考え方を取り入れ、社会保障制度などとも関連付けて工夫することができるようにする、とあります。
これらは公民の同じ内容の部分と関連付けるべき学習内容であると想定されます。

Ⅱ 成年年齢18歳への引き下げとリスク

●成年年齢引き下げについて
生活設計の学習を進めるにあたり、ご理解いただきたいのが成年年齢の引き下げです。
私は、これが当面は大きなリスクになると思っています。特に若年層にとっての大きな経済的損失につながるリスクを孕んだ民法改正であると考えています。

現在の民法では「年齢20歳をもって、成年とする」と規定され、これが長らく続いてきました。また、「男は18歳に、女は16歳にならなければ婚姻できない。(父母の同意が必要/婚姻によって成年とみなす)」という規定がありました。
現行法では18歳・19歳は未成年であり、契約には父母の同意が必要で、親権のもとに保護されています。
それが改正法では18歳をもって成年とする、婚姻は男女ともに18歳にならなければすることができない、となります。18歳は成年ですから、親権の保護からはずれます。

この法律は2022年4月1日に施行されますので、現在の高校1年生は19歳で、今の中学3年生は18歳で法の施行を迎えます。今の中学2年生以下は、高校3年生で18歳を迎えると随時成年となります。今の中学2年生、3年生がこのことの意味をきちんと理解したうえで高校生になっていかないと、トラブルに巻き込まれる可能性が高い、そんな危機感を持っています。

新学習指導要領の移行について、中学校は2018年度からすでに移行期間に入っていますが、完全実施は2021年度です。つまり、次の中学1年生は、2年生まで現在の教科書・カリキュラムで進み、3年生になった段階で完全実施を迎えるわけです。学習内容の中には、高校から中学校へ移行されたものもありますから、高校が年次進行で新学習指導要領が実施される前に、中学校では移行措置として新カリキュラムの内容を押さえておかなければなりません。

このようなスケジュールになるので、民法改正案が施行されると何が変わるのかをきちんと把握しておく必要があります。

●民法改正案が施行されると、何が変わるのか
この改正法案が施行されるとどうなるか、気になるものを挙げてみました。

●様々な契約が一人でできる→18歳~
●結婚に父母の同意不要→18歳~
●養子の養親となることができる→20歳~(変更なし)
●喫煙、飲酒ができる→20歳~(変更なし)
●競馬、競輪、競艇ができる→20歳~(変更なし)

下の3つについては変更なしで、20歳からとなっています。

新しく成年を迎える人たちにより注意してもらいたいのは、もちろん「様々な契約が一人でできる」ことです。
どんな契約ができるようになるのかというと、例えばクレジット契約や預貯金の口座開設が自分でできます。これまで未成年は「お小遣いの範囲くらいの買い物」なら許されていましたが、成年になるとバイクや自動車などの高額な商品の購入もできるようになります。
また、借金ができるようになるので、ローンが組めます。それだけでなく、借金の保証人になることもできます。新たなトラブルの火種になりそうということで、弁護士や司法書士の方々からはここが一番問題だとの声が聞かれます。
さらに、賃貸借契約や、保険への加入、不動産売買、投資もできます。これらが18歳になったときからできることが前提とされる社会に変わろうとしているということです。

これまで未成年はいろいろなことから守られていました。これからも、もちろん未成年は守られるのですが、その期間が2年早まったということです。
未成年には「取消権」という権利があります。未成年が親の許可を得ないで契約したものに関しては、ほぼ取り消すことが可能です。悪徳業者も18歳の未成年は相手にせず、20歳の成年を狙います。

現在、消費者相談件数は、20歳を境に「マルチ商法」「ローン・サラ金」の相談が10倍以上に急増します。
サラ金とマルチがセットで出てくると、新たな“いじめ”問題に発展する可能性もあります。“恐喝”の被害金額が2桁上がるかもしれません。成年であれば、借金ができてしまうからです。借金の保証人にされてしまう可能性もあります。

これまで、高校卒業から20歳までの間は、モラトリアム期間として成年への移行準備をすることができました。例えばアパートの賃貸契約などの際に親が法定代理人として関わるなど、正規の契約のしかたを間接的に体験する機会があったのです。ところが高校卒業の時点で成年となると、そのようなやり方を社会から求められることもないため、消費者トラブルなどにも対応できる力を高校卒業までに身に付けなければいけなくなります。

消費者関連の法律を読み解く力、すなわち「コンシューマー・リーガル・リテラシー」も必要です。契約するとき約款をほとんど読まず「同意する」をチェックしていないでしょうか? 消費者として契約に関わる場合は、非常に読みづらい法律の条文を読み解いたり、訴訟の際などにそれを使えたりするようにならなければいけないわけです。

また、必要に応じて適切なところに相談する力も必要になります。「おかしい」と気づけること、「おかしい」と主張できることが必要です。クレームというと日本ではマイナスのイメージが強いのですが、クレームの本来の意味は「マイナスをゼロに戻す」ことです。正しい権利を主張し、法的に根拠のあることを正しく「そこに戻してくれ」と伝えるのが本来のクレームであり、これは消費者として必要な力です。

すでに教科書にも記載されている「消費者の権利」を正しく使って「消費者の責任」を果たせる、消費者市民としての力をつけてほしいと思います。いくらテストの穴埋め問題で満点を取れても、消費者の権利を知識として持っているだけでは十分ではありません。実際の生活で「これはおかしい」と気づき、主張できなければ意味がないのです。

まとめとしては、
●クリティカルに考えて、個人や家族の生命、権利、財産を守っていくこと
●持続可能な暮らしをマネジメントしていくこと
これが、これからの消費者市民には求められるだろうと思いますし、それができることが生活設計を考え、リスクを回避していくうえで大事な流れになっていくと思います。知識だけでは個人や家族の生命、権利、財産は守れません。アクションを起こすことが必要になります。センスを磨かなければ気づけないこともあります。そのような力を、授業を通して身に付けていくような働きかけが必要になってくると考えます。

持続可能な暮らしをマネジメントするというのは、家庭科の見方・考え方の4つ目「持続可能な社会の構築」にあたります。

SDGsで掲げられている目標は、実は家庭科と社会科とすべて関連があります。例えば貧困は深刻な問題です。自分がいつ貧困状態に置かれるか分かりませんし、実際に、相対的に貧困といわれる家庭で暮らしている子どもたちも少なくありません。健康や福祉も家庭科や社会科が大事にしている概念です。ジェンダー問題も重要です。毎年ジェンダーギャップ指数が発表されますが、2017年の日本の順位は過去最低を更新しました。日本では政治や経済の分野で女性が少ないことはよく知られていますが、教育も、高等教育になると決して高くありません。このような中で国の仕組みが成立しているということも見通したうえで、生活設計をしていく必要があります。

●SDGsについて紹介しているサイト
「外務省」  https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html
「国連広報センター」 2030アジェンダ
「SDGs.TV」 https://sdgs.tv/tg_mov/sdgs

●キャッシュレス化について
キャッシュレス化について、簡単に紹介します。
日本はキャッシュレス化が進んだとはいえ2割程度で、国ごとの比較では高くありません。韓国は節税対策としてキャッシュレスを優遇しているため、キャッシュレスの割合がひときわ高くなっています。中国もここ5年間で急激に伸びています。

これから先、日本もキャッシュレス化を進めようとしています。東京オリンピックが迫る現在、貨幣価値の違う国の人たちがたくさん訪れるようになり、手数料を払っていちいち両替するのは面倒ということもあります。日本は紙幣や貨幣が信用されている国ですが、貨幣に対する安心感が低い国はキャッシュレス化が進んでいますし、買物で高額紙幣が使えないことも珍しくありません。

日本ではクレジットカードを使ったキャッシュレスが多いのですが、ヨーロッパは小切手社会なのでデビットカードが主流です。国によってキャッシュレス化の中身にはかなり違いがあることも知っておいたほうがいいでしょう。クレジット決済についても、日本の場合はマンスリークリアが多いのに対して、リボルビング払い中心の国もあります。新学習指導要領では、クレジットカードの仕組み(三者間契約)については中学校の学習内容になりました。

Ⅲ 生活資源とリスクマネジメント

●生活資源とは
「資源」というと「エネルギー資源」などを思い浮かべる人も多いかと思います。大学の講義で「あなたが活用できる生活資源は?」と問うと、ほとんどの学生がイメージできません。しかし、生活資源は生きていくうえで無くてはならないものです。また、人によって重要度や必要量の異なるものです。個人にとっても、今必要なものと10年後に必要になるものは変わります。また、増やそうと思えば増やすこともできますが、減ってしまうものでもありますし、なくなってしまうかもしれないものです。

例えば、ものやサービス、人、家族も生活経営の考え方では「資源」です。そして自分の資質・能力、資格を持っていることやコミュニケーション能力も資源の1つです。それから社会資源や社会システム、例えば市民限定で使える公の場所や施設は社会資源といえます。保育園の待機児童が多い地域とそうでない地域は、社会資源に差があるということになります。

生活資源は、自分が必要と思ったときに必要なものを活用できるように整えていかなければいけないものです。ところが生活資源の中には時間とともに減っていくものや、なくなってしまうかもしれないものがあります。これがリスクとなります。
特にお金、時間、情報の3つをマネジメントできるようにならないと、人として信用されません。生活設計には、この3つすべてが関わっています。

●リスクマネジメントについて

2018.12

 

リスクとは潜在的な危機のことです。起こってしまったことはリスクではなく、解決しなければならない「問題」です。リスクは起こる前の段階、潜在的な危機の可能性です。
リスクは、インパクト(影響がどれくらいあるか)×頻度(回数がどれくらいあるか)で決まります。そこで、インパクトと頻度に応じたリスクマネジメントが必要となります。リスクマネジメントによって、最少の犠牲・負担でリスクを回避、低減、分散、移転させなければなりません。

インパクトと頻度が高いものは、絶対に避けたいリスクです。でも、一人で対処できるものばかりではありません。自然災害や、この夏の命に関わるような暑さもそうで、インパクトは大きく、頻度も、これからは毎年のようにやって来るでしょう。そのようなリスクはみんなで回避する方向で動くことが必要です。地域全体、国全体でその回避に向けてどう税金を使うか、みんなに関わることだから、起こってしまうと回復が難しいから、最優先に税金が投入されなければならないものです。

一方、インパクトが小さい、頻度も少ないリスクは、影響もあまりないため「保有」しておくというのがリスクマネジメントの考え方です。
頻度は低いが一度起きてしまったら大変なことになるリスクについては、リスクを分散させたり、移転させたりします。「保険をかける」とは、この「移転」を指します。つまり誰かに肩代わりしてもらおうということです。すべて自力で解決するのは難しいため、「お互い様」の精神で、他の人にも手伝ってもらいましょうというのが保険(移転)の考え方です。

一時期、銀行のペイオフ問題で大規模マンションの管理費や修繕積立金をどのように分散させるかが問題になったことがありました。大きいもの・小さいもの、個人で対応できるもの・できないものをどのようにマネジメントしていくかがこれからのポイントになっていきます。そのリスクがどこに位置するものなのかをイメージすることはとても大切です。

家族の死亡は、頻度は少ないかもしれませんがインパクトは非常に大きいものです。経済的なインパクト、家族の暮らしをどう立て直していくかを考えるときに、このかけ算の図式のどこにあるリスクなのかを考えたうえで対応策を講じていくのがリスクマネジメントの基本です。

●リスクマネジメントが必要な背景 ~非正規労働者の増加
このようなマネジメントが必要な背景の1つに、非正規労働者の増加があります。

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2017年現在、日本の労働者のうち非正規労働者の割合は、3人に1人を超えて4割近くになっています。その比率の高さは、失業率を下げている半面の結果であると考えられます。日本のこの状況は、国際的にも非常に珍しい状況です。

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非正規労働者を構成する人は、男性の比率も上がってきていますが、相変わらず主に女性です。その女性の半分が、働き盛りの30代後半から50代です。ということは、非正規雇用の約3分の1が働き盛りの女性であるということです。
そして、非正規雇用のリスクは、やはり賃金格差です。

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時間給に換算すると最大1500円以上の賃金格差があります。社会保険や退職金制度などの福利厚生制度も、非正規労働者に対しては持っていない企業が圧倒的に多いのが現状です。

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教育訓練の機会は、非正規雇用の形で働いてから教育訓練を受ける機会があるかというと、計画的なOJTについては実施されている所も多いのですが、「何もしていない」という事業所が3割を超えています。

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このような状況のなか、高等学校での職業選択に関わるキャリアデザイン学習が不可欠で非常に重要であることがわかります。

Ⅳ 生活設計の授業で身に付けたい力

●生活設計の授業は「つまらない」?
学生たちに「生活設計の授業を受けましたか」と尋ねると、「覚えていない」という声が返ってきます。そして圧倒的に多いのが「つまらなかった」です。
その理由は、主に次のようなものです。
・リアリティがない。
・確実じゃないのに、やっても意味がない。
・「平均値」は自分の生活と違う。
・プランを立てても、どうせ実現しない。
・先のことなんて考えられない。
・目の前の受験や部活で手一杯。
・考えても無駄。

そして一番は、「いざとなれば何とかなる」と思っていることです。
しかし、何とかならない人がたくさんいるから、いろいろな問題が起きているのです。

●自立と共生の関係
大事なのは「自立」の力を獲得することで、これは家庭科が目指すゴールでもあります。
それから、「共生社会」が実現できているかどうかをしっかり高校生までに確認しておいてほしいですね。

自分一人でできること、誰かと一緒ならできること、社会の助けが必要なことを峻別できるようになりましょう。自分1人でできることもありますが、共生社会であれば、自分ができないことも他の誰かや社会が肩代わりしてくれます。家族がいれば、家族に協力してもらうことも考えられます。人、地域と関わることで、それらが可能になってきます。
社会保障や福祉の制度を使い、様々なサポートを上手に活用しながら自分のできることを増やし、助けが必要なときにはそれを主張する、社会とコミュニケーションをとっていくことが重要です。

●暮らしをマネジメントするために
生活設計(=ライフプランを立てること)は、あくまでも手段です。従来のライフイベントを中心とした学習では、ライフプランの作成時に、「私は結婚しません」、「子どもはいりません」という生徒は生活設計表に書くことがなくなってしまいます。
このさきの80年、その中で働くであろう50年、ここをどのように生きていきたいかを思い描けなかったら、そこから見えてくるものは少ないと思います。ぜひ、先を見通して不測の事態に対応できる「問題解決力」を家庭科で習得してもらいたいと思います。

生活設計学習の事例~2013年度夏季セミナー基調講演~
・身近な「生活資源」の確認から始める
・リアリティのある「私のプラン」を計画・実践・評価する
・少し先の「夢」を実現させるためのアクションプランを考える
・「○年後の私」を具体的にイメージする
・地域性・個別性を考慮したデータを活用する
・「平均値」にも意味がある
・フリーペーパー、専門情報誌、ウェブサイトを活用する
・その場で調べるなら「スマホ」が合理的

また、「ライフイベントそのものの見直し」や「テーマ設定を工夫すること」で、もう少し魅力的な生活設計表が提案できないかと思っています。ネーミングだけでもずいぶん違ってきますので、2013年度夏季セミナーの講演からは課題をどうやって見つけさせるか、先生方の工夫の跡が見えてくるのではないかと思います。

家庭科は“実践し続ける教科”です。毎日食べる、着る、人と関わる、社会で暮らす…これらはすべて家庭科で学べることなのです。自分の考える人生のイメージを実現させようと思ったとき、そのフィールドになるのは今の自分の暮らしです。
まずは先生方に、これから先のご自身のライフプランを、魅力的な生活設計表を描いていただきたいと思います。そこから子どもたちに対するメッセージの説得力にもつながってくるのではないでしょうか。