社会が必要とする力−「基礎力」−-3

米国版「基礎力」とその効果

1991年4月、前ブッシュ大統領が「世界レベルの教育水準達成を目指す」という方針を出した。当時の連邦労働省長官の指導で、「必要なスキル獲得に関する労働省長官委員会」が、レポート(SCANS report)を発表した。その中で、今後50年、産業構造がどんなに変化しても必要になる職業能力を「基礎力」とし、5つのコンピテンシー(能力)と3つの基本スキルがその要件として定義づけられた。

5つのコンピテンシーには、Resources(資源)、Interpersonal(人間関係)、Information(情報)、Systems(システム)、Technology(テクノロジー)といった能力があり、3つの基本スキルには、Basic Skills(読み書き計算などの基礎スキル)Thinking Skills(思考スキル)、Personal Qualities(人間的資質)がある。

オレゴン州のある小学校では、Interpersonalの力をつけるための取り組みが行われている。教師はまず子ども達がぬいぐるみの取り合いをしている写真(紙芝居になっている)を見せる。ゆっくりと状況を説明しながら、このような状況になったときの解決策をクラスの中で話し合わせる。また、毎週月曜日に「問題解決委員」をクラスで一名任命する。「問題解決委員」は工事現場で着るようなユニフォームを着て、バインダーを持つ。児童の間で問題が起これば、まず問題解決委員に相談をする。委員になった児童は、自分で解決できる問題と、大人に相談する問題とに問題を切り分け、相談内容と解決策をバインダーにあるシートに記入して、一日の終わりに先生に提出する。この活動ではユニフォームを着た問題解決委員は得意気な様子で、教師は普段あまり発言をしない児童にこの役をやらせ、自信をつけさせることにも役立っている。

ノースキャロライナ州では、各基礎力を身につけるための授業案を小・中あわせて200程作成している。一例を紹介すると、情報のコンピテンシーを開発するため、生徒は意思決定のステップ(選択肢を明らかにし、メリットデメリットを見極め、選択する)を学んだ上で物語を読む。物語には、野球観戦と両親から頼まれた弟の世話との間で葛藤する少年が描かれている。生徒は先に学習した意思決定のステップに沿って、物語に書かれた情報を整理する。これらは英語(日本での国語)の授業の中で実施されている。

このように、SCANSレポートの発表後、各州の教育庁が中心となり、幼稚園から高校まで「基礎力」を少しずつ身につけるためのカリキュラムが開発され、学校現場で実際に運営されている。地域によっては高校の退学率が下がり、就職率が向上したという実績データもある。

米国では、SCANS委員会が作成したこのレポート以降、「基礎力」という概念が教育現場に少しずつ浸透している。(実際、現地の教育庁委員の方と話すと、基礎力を「SCANS」と呼び、共通言語化している。)

学校、企業、家庭、地域で「基礎力」を共有して対話を

日本でも、少しずつではあるが教育現場において「基礎力」を開発する仕組みや授業の開発が始まっている。「基礎力」が明確になれば、就職を希望している既卒の未就業者にとっては能力開発の指標となる。企業にとっては、今後新入社員として迎え入れる人材の保有している「基礎力」と不足している「基礎力」が明らかになり、各人に合わせた能力開発機会を提供できるようになる。家庭や地域においても「基礎力」を伸ばすことは可能だろうが、何より、子供たちが「基礎力」を身につける機会を大人が奪わないことが大切だ。子どもの意思決定の機会を奪わず、起こった問題はできるだけ子ども自身に解決方法を考えさせることである。

企業が教育現場で社会人講師をしたり、職場体験やインターンシップの受け入れをしたりする活動は年々盛んになってきている。企業と学校が協働する際には、生徒の活動目標(授業のねらい)をぜひ一緒に立てて欲しい。そしてその目標は「基礎力」をぜひうまく活用した目標であって欲しいものだ。

次の時代を担う子供たちが学校を卒業した後、社会の一員として存分に活躍できる環境を作るために、学校、企業、家庭、地域社会それぞれが、「基礎力」を共通言語に対話を進める必要がある。

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