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生命保険文化センタートップページ>学校教育活動>教育の現場から>教育の現場からINDEX>web.03
平成30年度夏季セミナー東京会場 基調講演
これからの生活設計教育とリスク管理
web.03
(2018.11)
日本女子大学家政学部 家政経済学科教授
天野晴子 先生
 

機ヽ惱指導要領の改訂と生活設計教育

●学習指導要領改訂のポイント
講演の様子  昨年3月、幼稚園から中学校までの学習指導要領の改訂が告知され、今年3月には高等学校の改訂が告知されました。
 今回の改訂で特に重視されているのは「問題発見・解決能力」です。これまでも「課題を解決する能力」という記述はありましたが、今回は「問題を発見する」ことも強調されています。
 そして、「現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成」があります。また、アクティブラーニングのような「主体的・対話的で深い学び」、「職業教育の充実」もいっそう重視されました。
 「主権者教育、消費者教育、防災・安全教育などの充実」もポイントになっています。これらの背景には成人年齢の引き下げ、SDGs、グローバル化、IoTなどが挙げられます。

 

●中学校(家庭分野)の例
 現行の学習指導要領は「販売方法の特徴について知り、生活に必要な物資・サービスの適切な選択、購入方法および活用ができること」となっていますが、新学習指導要領では、これがより具体的に、詳しく示されています。

新:
ア−(ア)購入方法や支払い方法の特徴が分かり、計画的な金銭管理の必要性について理解すること。
(イ)売買契約の仕組み、消費者被害の背景とその対応について理解し、物資・サービスの選択に必要な情報を活用して購入について考え、工夫すること。
イ 物資・サービスの選択に必要な情報を活用して購入について考え、工夫すること。

 また、現行の学習指導要領では「自分や家族の消費生活が環境に与える影響について考え、環境に配慮した消費生活について工夫し、実践できること。」となっているところは、全体に関わる方針が反映され、自分や家族の消費生活の中から問題を発見して課題を設定するところから重視していくという姿勢がみられます。

新:ア 自分や家族の消費生活の中から問題を見出して課題を設定し、その解決に向けて環境に配慮した消費生活を考え、計画を立てて実践できること。

 また、新しい動きとして「C 消費生活・環境」では「クレジットなどの三者間契約についても扱うこと」が入りました。

●高等学校(家庭基礎−生涯の生活設計)の例
 現行の学習指導要領では「生涯を通した自己の生活について考えさせるとともに、主体的に生活を設計できるようにする。」となっている部分が、改訂版では深く丁寧になっています。「多様な生き方を理解する」が新たに入り、また、ワークライフバランスが重視されています。

新:
ア 人の一生について、自己と他者、社会との関わりから様々な生き方があることを理解するとともに、自立した生活を営むために必要な情報の収集・整理を行い、生涯を見通して、生活課題に対応し意思決定をしていくことの重要性について理解を深めること。
イ 生涯を見通した自己の生活について主体的に考え、ライフスタイルと将来の家庭生活および職業生活について考察し、生活設計を工夫すること。

 さらに、生活設計の取扱いが変わりました。
 現行の学習指導要領では、わかりやすく言うと、「生活設計は単独で成立するものではないので全体を通して最後に総括するような形で行いましょう」という方向でしたが、今回は、「初めと最後の両方やりましょう」としています。初めに子どもたちに学びの道筋が見えるようにしておいて、最後にもう一度総合的に考える、ということだと思います。

新:
生活の中から問題を見出してその課題を解決する過程を重視すること。また、現在を起点に将来を見通したり、自己や家族を起点に地域や社会へ視野を広げたりして、生活を時間的・空間的な視点からとらえることができるよう指導を工夫すること。

 記述内容も具体的になっています。

内容のAの(1)(注:生涯の生活設計)については、人の一生を生涯発達の視点で捉え、各ライフステージの特徴などと関連を図ることができるよう、この科目の学習の導入として扱うこと。また、AからCまでの内容と関連付けるとともにこの科目のまとめとしても扱うこと。

 まず“導入”として扱い、家族や衣食住、保育、福祉、消費生活すべてを含めた内容と関連付けるとともに“まとめ”としても扱うことになりました。

 今回の改訂では生活設計がある面ではより重視されるようになりましたが、そもそも生活設計とは、生き方や暮らし全体に関わるものです。かつて生活設計は将来のライフイベントに合わせた資金計画を準備するといったものがおおかったのですが、それだけでなく、生き方や自分の人生をどうしていくかに関わる課題として広くとらえ、社会も環境も含め、主体である生徒が設計をしていくというところもポイントだと思います。

供THE 100-YEAR LIFE

●過去のモデルは役に立たない
 2016年に発売された本「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著)が注目されています。家庭科の先生からすれば、ずっと授業で言ってきた内容と重なる部分が多いかもしれませんが、一般書として世に出ると注目されるようです。

 この本は、まず「過去のモデルは役に立たない」と述べています。
 人生100年時代、長寿社会になると人々の生き方が変わります。ただ寿命が延びるだけでなく、社会環境もまったく変わるからです。
 例えば、第2章「過去の資金計画」では、「教育・仕事・引退モデルの崩壊」とあります。教育・仕事・引退の3つを中心に考えていく人生設計、生活設計は、もう役に立たないということです。著者は「3ステージ型仕事人生に別れを」と述べています。

 第四章「見えない『資産』」にはかなりのページが割かれています。見えない資産とは「お金に換算できないもの」、まさに家庭科で「多様な資源」として扱っているものです。お金だけではなく、時間や人間関係、見えるもの・見えないもの、いろいろな資産があり、人生100年時代ではこれらがとても重要になってくると述べています。
 この本では、見えない資産を大きく3つに分けています。
\源裟資産(スキルと知識、仲間、評判)
活力資産(健康、バランスの取れた生活、自己再生の友人関係、無形の資産、3ステージの人生で失われるバランス)
J竸隼饂此兵分についての知識、多様性に富んだネットワーク、新しい経験に対して開かれた姿勢)

●かつての生活設計のベースであった「典型モデル」
 先日、昭和に使われていた家庭科の教科書を開いてみました。生活設計のページには、「結婚、出産(子ども2人)、夫○歳、妻○歳のときに第一子が小学校に上がり、子どもたちは小学校から大学まで進学、就職、結婚し、夫の退職後、老後の年金生活が始まり、夫、妻の順に死亡」というような横一直線のライフコースと、それぞれの時期にどのようなお金が必要になるかが書かれており、これをモデルとして準備していきましょうとされていました。

 このような生活設計がされるようになったのは、そもそも家庭科が原因というわけではありません。日本で生活設計の必要性が広く認識されるようになったのは高度経済成長期、雇用労働者世帯の増加を背景に将来の生活に備えた資金準備を考えるゆとりができ始めた頃でした。その時代は終身雇用や定年退職などの企業制度があり、それに対応して、サラリーマンのライフサイクルに合わせて住宅、教育、老後という3つの資金計画を中心に立てていく生活設計がなされるようになり、それを受けて学校教育でも生活設計が取り上げられるようになりました。

 この“典型モデル”によるライフプランが暗黙のうちに前提としていたのは、”徂悗隼劼匹癸何佑粒鵬搬伽ぢ咫↓夫のみが働き、子育てが一段落した頃に妻が家計補助的にパートをする、0堕蠅靴織薀ぅ侫魁璽垢伐搬牡愀犬任后

 1960年の総務省家計調査では、夫婦と子ども2人の4人で構成される世帯のうち、勤労者が世帯主一人の世帯に限定したものを「標準世帯」と定義していました。
 1980年の国民生活白書を見ると、「環境変化の中での生活設計」という項目では、子どもが男女各1人の勤労者世帯をモデルとして、世帯主が33歳のとき長男が、2年後には長女がそれぞれ幼稚園に入園、その後長男は大学まで、長女は短大まで進学するものとされています。

 このようなモデル家庭の条件は、国の社会保障や税体系が設計される際のベースとなり、諸々の政策が進められてきました。しかし時代とともに世帯構造や家族のあり方は変容していき、生活設計の典型モデルからはずれる多様な家族が出現していきます。

●複雑化・多様化するライフサイクル
 従来の典型モデルと家族の実態が乖離していくなか、国土交通白書2013には新たなライフサイクルの図が掲載されました。

年代別の平均的なライフサイクルとその分化

 1950年生まれ、1980年生まれ、2000年生まれの3世代それぞれのライフサイクルを描こうとしたもので、最終的な世帯も単身、夫婦のみ、親と子どもに分かれていくという力作です。子どもを持つか持たないか、結婚するかしないかによって異なるライフスタイルになるため、複数のライフスタイルが並行して存在します。遅く生まれた世代ほど結婚や出産などのライフイベントの年齢がどんどん後ろ倒しになっています。

 これを生活設計と結びつける場合は、生活モデルが複数示されたから、この中のどれかを選択してその準備をすればよい、ということにはなりません。一生の終わりに自分の人生を振り返れば、数あるライフコースの1つに該当する人生であったかもしれませんが、結婚するかしないか、子どもを持つか持たないかが積極的な選択の結果であったかどうかは別問題と考えられるからです。

 私を含め教員のみなさんは社会の制度設計が典型モデルであった世代といえるかもしれませんが、今の生徒に典型モデルで描かれてきたライフコースで生活設計教育をしようとすると、いろいろな矛盾や問題が出てきてしまいます。
 そこで、次に典型モデルのライフコースを目指そうとしたときに生じる主なリスクについてみていきたいと思います。

掘‥儀織皀妊襪派舛れてきたライフコースを目指すリスク

●結婚に関わるリスク
 まずは結婚にかかわるリスクです。これを女性にとってのリスク、男性にとってのリスクに分けて見ていきましょう。未婚者の多くは、結婚を望んでいるが、していない人たちです。その理由の1つは経済的な問題が関係しており、収入の増加が見込めない職に就いている男性は選ばれにくく、女性は自分の期待以上の収入が見込める男性に出会えるかどうかがポイントになるとされています。

40歳未満の男性の収入
年収350万円未満:54%
年収500〜600万円:8%
年収600万円以上:14%
(総務省統計局「全国消費実態調査 2014年」より算出)

 もし男性にかなりの収入を期待するとなると、性格や相性を考慮する以前にこの時点で相当な激戦になりそうです。

 若い女性の中には、一生働きつづけたいという人がいる一方、高収入の男性と結婚して専業主婦になりたい人も多いのが現状です。男性に期待する収入設定を下げて共働きをするという選択もあるかと思いますが、日本では性別役割分業が諸制度や社会環境において根強く残り、ディーセントな共稼ぎやワークライフバランスが実現できていない状況があります。このため、実際には選択肢があまりない中で、そうした思考になっている面もあるのではないかと考えられます。

 例えば、子どもの出産前後で妻が就業を継続する割合は、2000年代はじめで27%、最新データでも38%です。日本では、「育休を取って仕事を続けるのが普通」と言える職場環境はまだ限られており、一般企業ではなかなか難しいといえます。
 先日、新聞で半数以上の女子が大学に進学するという記事がでていましたが、高等教育を受けていても、前述のように第一子出産前後で6割近い女性が無職になっているという状況があります。

 共稼ぎ世帯が片稼ぎ世帯を上回って久しい現在ですが、出産・子育て後の妻は非正規雇用が多く、パートで働く妻の収入が家計全体の収入に占める割合は、平均すると14%くらいです。夫のリストラや賃金カット、非正規雇用などによる世帯収入の減少に対し、世帯収入の14%では、家計の補助にはなっても抑止力にはならないのが現状です。

●晩婚化と高まる生涯未婚率
 今の生徒たちが生きていく社会の平均初婚年齢は、女性29.4歳、男性31.1歳です(「人口動態統計月報年計(概数)2017年」より)。失礼な話ですが、かつて女性の結婚適齢期がクリスマスケーキに例えられていた時代がありました。しかし今や平均が30歳にシフトしようとしています。
 未婚率についてもう少し詳しくみてみましょう。

女性
25〜29歳:61.3%
30〜34歳:34.6%
35〜39歳:23.9%

男性
25〜29歳:72.7%
30〜34歳:47.6%
35〜39歳:35.0%
(総務省統計局「2015年国勢調査」より)

 30代前半では、女性でも3割以上の人が、男性はほぼ半数の人が未婚となっています。
 かつて「パラサイトシングル」が注目された時代、親と同居している成人の若者というと優雅な独身貴族的な意味合いが入っていましたが、今は自立できなくて親と同居する若者が増えています。親と同居する35〜44歳の未婚者のうち、無就業・無就学と臨時雇い・日雇いの合計を足すと、1980年は5万人でしたが、2010年に75万人でピークとなり、2014年は下がっても62万人といわれています。非正規雇用化の流れは、安定した収入と雇用の維持という条件からはずれる若者を多数生み出しています。

 また、生涯未婚率は、男性23.37%、女性12.06%といわれています。
 生涯未婚率というのは50歳までに結婚していない人の割合ですが、男性の場合は生涯結婚しないかもしれない人の割合が4人に1人近くに上っており、女性でも1割を超えています。

●雇用と収入の安定のリスク
 それでも結婚しない人より結婚する人のほうが多いのが現状ですが、結婚したとしても、その先にまた大きなリスクが待ち構えています。雇用と収入の安定という面で、非正規化が進んでいることがその一つです。

非正規化
・女性
正規の職員・従業員:1,114万人
非正規の職員・従業員:1,389万人
・男性
正規の職員・従業員:2,318万人
非正規の職員・従業員:647万人
(総務省統計局「労働力調査2017年」平均)

「雇用形態、性、年齢階級別賃金」

 非正規の何が問題かというと、賃金のカーブが正社員・正職員のカーブに比べ低いことです。男性は圧倒的に下回っていて、子どもが大きくなって教育費用などがかかる年代になっても、賃金はほとんど上がりません。
 女性も同様ですが、男女差に注目すると、特に女性は正社員であっても男性の賃金カーブの上昇に比べると低く、どちらかというと非正規に近いようなカーブになっています。一般的に男性の賃金を100とすると、女性の賃金は、近年上がったとはいえ70程度にとどまります。

●離婚のリスク
 生活設計教育で登場する従来のライフコースモデルでは、離婚や再婚が登場するのを見たことはほとんどありません。しかし今、離婚のリスクはどうなっているでしょうか。

2017年に結婚したカップル:60万6,863組
2017年に離婚したカップル:21万2,262組
(厚生労働省「平成29年人口動態統計調査」概数より)

 もちろん、この年に結婚した人がこの年にこれだけ離婚しているということではありませんが、数だけを比べると、1年間に結婚したカップルの3分の1に相当する数が離婚しているということになります。
 しかし結婚時に「離婚する」と思って結婚している人はほとんどいないわけで、つまり想定外のリスクがこれだけあるということです。
 実際には、今離婚しているカップルは過去に結婚したカップルなので、現在の推計では、2017年に結婚したカップルが離婚する割合はもっと高くなるだろうといわれています。

 「なぜみんなそんなに簡単に離婚するのか?」とよく言われます。我慢が足りないのではないか、と。家裁に申し立てをして離婚したケースの7割は女性からの申し立てです。理由は、男女ともに「性格が合わない」が最も多いのですが、男性の場合はそれ以外の理由はごく少ないのに対し、女性の場合は(配偶者が)「暴力をふるう」「異性関係」「精神的虐待」「生活費を渡さない」なども多くなっています。これを我慢するべきなのか、結婚の継続が必ずしも正しくないというケースが一定数あることが推測されます。

「同居期間別離婚件数の年次推移」

 さらに離婚はいつするかとなると、同居期間別の離婚件数をみても、いつ離婚するかはわかりません。同居5年未満が若干多いようですが、10年かもしれないし、20年以上もかなりあります。生活設計の視点から考えたとき、離婚するかもしれないし、それがいつかもわからない、さらに、結婚の時期も若いときだけではないし、離婚しても再婚するかもしれません。ライフコースのモデルは立てづらく、モデルから外れるケースが実際には多いことを示しています。

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●「核家族化」は本当か?
 世帯構造は大きく変化しています。ただし、よくいわれる「核家族化の進行」は本当でしょうか?

一般世帯に占める核家族世帯の割合
1995年 58.5%
2000年 58.3%
2005年 57.7%
2010年 56.4%
2015年 55.9%

 核家族化の進行はここ20年間にみられないだけでなく、1960年代でも6割前後でした。では高度経済成長期に核家族化が進行したのでしょうか? 実は、大正時代においても核家族の割合は54%くらいでした。統計的にみて、核家族化は進行しているとはいえません。

 ちなみに、大家族が多かったイメージの大正時代に、なぜ5割も核家族があったのでしょうか?その理由は、子どもの数です。兄弟姉妹が多かったので、親と同居する1人(もしくは家に残る子どもを含めても2人位?)を除いて残りの子は同居しなかった可能性が高いということです。ゆえに、この5割というのは子どもの側から見た「親と同居していない割合」であって、親の側から見ると、子どもと同居する割合は今よりはるかに高かったと思われます。
 今では大家族は高視聴率のテレビ番組になるほどです。1950年代は7人以上の世帯が20%を超えていました。4〜5軒に1軒が大家族なので、話題になることではなかったといえるでしょう。

●一人暮らし世帯の増加とその構造
 では、世帯構造は変化していないのかというと、そうではなく、大きな変化が起きています。
 何が変化したのでしょうか。まず、人口の増加に比べて、世帯数が大きく増加しました。

世帯総数(一般世帯)
1980年 3,582万世帯
2015年 5,333万世帯

 国の人口が約1億2,661万人(2018年2月現在)で、世帯が5,333万もあるのです。1世帯当たりの平均人数が減少し、小さな世帯が沢山できたということです。

1世帯当たりの平均人数
1980年 3.22人
2015年 2.33人

 1980年に最も多かったのは4人世帯ですが、2015年では1人世帯が最多になっています。
 1980年は多い順に4人、3人、2人、1人、2015年はまったくその逆になっており、きれいな逆カーブを描きます。

世帯人員別一般世帯数の推移

単身世帯の性、年齢階級別構成割合

 家族類型別にみると、平成17年までは「夫婦と子どもから成る世帯」が29.8%と最も多かったのですが、平成27年では単独世帯が34.6%と最も多くなりました。世帯構造の変化で何が起きているかというと、一人暮らしをはじめとする小さい世帯が激増したということです。

 では、一人暮らし世帯とは何歳くらいの人でしょうか。男女の年齢別にみると、男性は若い世代だけでなくミドル層にもまんべんなく分散しています。女性は特に高齢の一人暮らしが多くなっています。男女で比べると、50歳まではすべての年齢層で男性のほうが高く、60歳代以降は女性のほうが高くなります。女性では一人暮らしの半数が60歳代以上であるのに対し、男性は4分の1くらいと少なくなります。高齢男性の一人暮らしが少ないのは平均寿命の差と、生活スキルのなさが指摘されています。

●母子世帯、高齢者世帯の増加
 母子世帯も増えています。母子世帯になった理由は、死別8.0%、離婚79.5%、未婚の母子世帯が1割弱程度です。離婚後、親権を行う20歳未満の未婚の子のいる割合は6割となっています。

 高齢者世帯も増加しています。2015年の国勢調査によると、一般世帯のうち65歳以上の世帯員のいる割合は4割で、国勢調査のたびに増えてきています。また、65歳以上の男性の8人に1人、女性5人に1人が一人暮らしとなっています。

●母子世帯の家計とリスク
 ライフコースやモデルが大きく変化していますが、変化していることがリスクなのではなく、変化によって生活が立ち行かなくなることがリスクとなります。日本では母子世帯の8割が就労していますが、年間の就労収入は極めて低く、180万円くらいです。しかも就労している母子世帯の半数はパートやアルバイトで、その収入は125万円くらいです。収入階級でいうと100万円未満の母子世帯が半数近くに上ります。父子世帯に比べ圧倒的に母子世帯の貧困リスクが高いことがわかります。

母子世帯の貯蓄金額階級別の分布

 母子世帯の貯蓄額は、4割が50万円未満です。子どもがいて、これから大きくなっていくのに、収入は低く、家賃の更新時やいざというときの蓄えも少ないため、母子世帯は経済的に極めて厳しい状況におかれているといえます。

●高齢期の家計とリスク

65歳以上、男女単独世帯と夫婦のみの世帯の年間所得階級別構成割合

 65歳以上の男女単独世帯、夫婦のみ世帯の3つについて所得階級別に構成割合を比べると、女性の単独世帯は高齢になっても50〜100万円が最も多く、次に150万円まで、その次が200万円までと、かなり貧困リスクは高いといえます。

 昔から「一人暮らしは食べられないが二人暮らしは食べられる」といわれるように、夫婦のみ世帯は二人の収入を合わせられ、光熱費等の一人あたりの負担が減ることもあって、平均すると夫婦のみの世帯の方が貧困リスクは一人暮らしよりも低くなります。
 なぜこのような結果になるかというと、若い時期からの職の有無や就労形態が年金等にも反映される点が一因です。

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●リスクを知ることは、いたずらにリスクを恐れないことにつながる
 社会保障や税制度は、これまで典型モデルとして示された標準家族をベースに展開されてきました。その結果、典型モデルをはずれる多様なライフコースを生きる現実が自己責任化され、多様な家族がライフコースのどこかで排除される可能性が出てきています。

 現在の家族構造や結婚・離婚をめぐるデータからは、従来は生活設計の前提であった典型モデルのライフコースや安定した家族関係が通用しない現実が示されています。従来の生活設計では典型モデルのライフコース上で起こる不測の事態に備えればよかったのですが、これからは、モデルそのものが多様化しているならば、不測の事態とされてきたものを人生で起こり得るイベントの1つに読み替えていったほうがよいのではないかと思えます。
 それは決して悲劇ではなく、ネガティブに捉える必要もありません。多様な選択肢の1つ、人生で起こるかもしれないイベントと捉えれば、もしかしたら次の結婚は今の結婚より良いかもしれないわけで、そこに希望があるかもしれません。

 リスクを知ることは、いたずらにリスクを恐れないことにつながります。今の生徒たちには、私たちの時代にはなかったいろいろな選択肢があります。ただし、生徒の親世代のモデルは、一部の人を除き、あまり使えない、もしくは親世代のモデルのような生活ができない可能性があります。だから、リスク管理が必要になるのです。

●リスクとは何か
 リスクとは何か、また、リスクは何で測るのでしょうか。例えば「食」のリスクは健康への悪影響が生じる確率と程度です。経済学では、ある事象の変動に関する不確実性をリスクといいます。リスクは強さ×頻度で表されます。「リスクゼロ」はありえません。どんな分野でも100%安全ということはありえないのです。安全といわれる食品が喉に詰まらないとはいえないし、どんなことが危険につながるかわかりません。いろいろな可能性を想定しながら考えていくことが必要です。

 なお、「安全」と「安心」はことなります。安全は科学的基準に基づく客観的な概念です。これについても「100%の安全」はありません。一方、「安心」は主観的な心理状態で、個人の主観的な判断に大きく依存するものです。

●選択の可能性の広がり+ライフプランの見直し

1. プラン→不測のイベント
2. 当初のライフコースそのものを柔軟に変化
3. 貧困のリスクの回避
4. さまざまな資源の活用→見えない資産の活用
5. 情報のインプット→アウトプットへ

1.について:これは従来からのライフコースの決定におけるリスク管理です。
2.について:発生するリスクの多様性、リスクの可能性を自覚し、当初のライフコースを変更できるリスク管理が必要となります。
3.と4.について:社会や周囲にある制度を使うことは重要です。前述の「見えない資産」などさまざまな資源を活用すること、また資源を育てていくことも必要になると思います。人生100年時代のこれからの仕事の内容は、AIなどにより大きく変わっていくと考えられるので、人生の途中での再教育・学びなおしも必要になるでしょう。
5.について:これまでの教育は情報をインプットすることに重きを置いていました。「知というのは、本来、自分の中にため込むだけでなく、アウトプットし共有して初めて人類の知となると言われています。
 これからは、発信していく力も大切です。困ったときに「困った」と言える力もその一つです。個人や世帯で起こる困ったことを発信し、みんなで考えて解決していくところに、新しい世代の希望がみえてくるように思います。

 最後に、「生活設計にはいろいろな可能性がある」ということを、学校で知ることができなければ、個人の生活上で知る機会はなかなかありません。「家族のことを授業で取り上げるのは難しい」とおっしゃる先生も多いのですが、家族にいろいろなリスクが生じているからこそ、客観的に、現実社会でどのような問題が起きていているかを把握し、なぜその問題が起きるのか、パートナーシップとしての夫婦や家族はどのようにあるべきなのかを考える必要があると思います。それにより、たとえ今の自分の家族は絶望的であっても、将来自分が作る家族に希望を見出すことができるのではないでしょうか。それこそが学校教育の醍醐味であり、担わなければいけない責任でもあると思っています。

 

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