#消費生活相談

第3回:この夏の思い出と消費者契約、
その共通心理について

公益社団法人
日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会
仲澤 悦子

この夏の思い出と言えば、とにかく暑かったことにつきるのではないでしょうか。私が住む京都では39度を何度も記録し、本当に参りました。

夏の暑さとともに、心に残ったことは、アツかった全国高校野球選手権大会。現地甲子園で34試合を観戦した野球好き消費生活相談員の私にとっては、暑さも、感動もひとしおでした。

ある試合を観ていたときのこと。先攻のチームが5対3とリードして迎えた9回の裏、あと3人を抑えれば勝利、というところで、これまで好投していた投手の球が甘くなっていく・・・。

「早く終わらせたくてストライクを取りたいのはわかるんですが、ここは丁寧にいきたいですね」とネット裏のラジオの解説者が言うのを聞き、「そうか、同じなのだ」と思いました。もやもやした不安な気持ちを早く払拭してしまいたいのは、スポーツでも、消費者被害の当事者も。

例えば、特殊詐欺。息子からの「会社のお金を落としてしまった」という電話に、早くなんとかしようと偽の息子の同僚に大金を渡してしまう母親。

ワンクリック詐欺で、業者に「身辺調査をする。給与の差し押さえをする」と言われ怖くなって指示通りにコンビニで端末を操作してしまう若者。

以前買わされた原野を「1,000万円で買い取る」と言う業者に、「税金対策」や「手数料」名目の金銭を要求され、疑いと不安な気持ちを持ちながらも「あと少しで終わる」と、大事な自分の資産がゼロになるまで金銭を渡してしまう年金生活者。

不要な着物を買い取りに来たはずの業者に「これでは値段がつかない。アクセサリーはないか」と居座られ、密室での恐怖を感じて言われるままに高価なアクセサリーを差し出してしまう高齢女性。

こうした被害者たちと、先の野球の投手の違いは何でしょうか。

投手には、頼りになる冷静な捕手や、声をかけてくれるナインがいます。それに対して詐欺などの被害者は、そのとき一人で不安を抱えてしまい、業者の意図の通りに行動してしまいます。契約する前に、金銭のやり取りの前に、知人や消費生活センターに相談してもらえれば良いのですが、それができにくい状況を業者が作っていきます。

公益社団法人 日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(通称NACS)では、今年度も消費者相談の「なんでも110番」を開催します。今年は11月3日、4日両日で開催し、テーマは「これって払わなくてはいけないの?不当請求・架空請求なんでも110番」です。寄せられた情報から関係省庁などへの提言を行っていきます。皆様からの情報提供を、ぜひお寄せいただきたいと思います。

さて、先の全国高校野球選手権大会、準々決勝で話題の東北のチームがサヨナラツーランスクイズを決めた試合を、私は現地内野スタンドで観ていました。あの試合は観客の多くが話題のチームの応援にまわり、特に9回は、相手チームバッテリーを、ナインを、甲子園を、話題のチームを応援する異様な空気が圧倒していました(個人的には高校生のスポーツに対して部外者のオトナがこんな圧力をかける行為は問題だと思っていますが)。

この状況から離脱するには、想像を超えるような強靭な精神力と経験が必要だったことでしょう。しかし、相手チームのバッテリーは飲み込まれてしまいました。

そのバッテリーは、後のインタビューにさわやかに答えていました。あの場面、自分たちの『間合い』を取れれば良かった、と。消費者契約の現場でも、相手業者の言動に飲み込まれることなく、自分の『間合い』を取って、一旦自分のペースに戻すこと、頭を冷やすこと、そして誰かに相談することの大切さを痛感しています。

早く不安から逃れて楽になる方法、それが早くストライクを取ることであり、早くスリーアウトを取ることであり、消費者は、お金を払ってしまうこと、契約をしてしまうことだと、その場の空気を支配した相手にミスリードされることがしばしば起きてしまいます。そこから離脱するために、日頃から情報を入れておくこと、自分の間合いを取れるスキルを持っておくことが必要だなあと実感した、暑いアツい夏でした。

プロフィール

樋口 容子

仲澤 悦子(なかざわ えつこ)

消費生活アドバイザー 消費生活相談員 NACS消費者相談110番担当運営委員 京都府消費生活安全センター相談員

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