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夏季セミナー(大阪会場)基調講演
消費者教育の視点から見る
リスクマネジメント
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(2017.11)
大阪教育大学教授 大本 久美子 先生

はじめに 〜本日の講演内容〜

大本 久美子先生 本日は、これまでにも家庭科で重視してきたリスク管理と生活設計の学習について、消費者教育の視点から次期学習指導要領と絡めながらお話ししたいと思います。

・消費者教育の推進の背景
・消費者教育体系イメージマップの高校生期の達成目標
・教育現場の消費者教育の現状
・次期学習指導要領における「リスク」の扱い
・従来の生活設計の視点に時間・健康・人など「見えない」資産管理・
計画を加え、 生涯を見通した生活管理ができる学習の積み重ねを!  

“人生100年”の時代に

毎年9月に国民生活センターが『くらしの豆知識』を発行しています。今年で45冊目になりますが、内容が非常に充実しており、家庭科の副読本にもなるのではと思っています。昨年発行された2017年版では、「長寿時代のリスク管理」が特集されました。その内容を一部ご紹介します。

・老後に必要な額を知り、資金計画を立てる
・定年後も働くときのポイント
・高齢者向けの住まいを検討
・将来の医療費への備え
・介護は一人で抱えない
・運転免許証を返納する

長寿を「リスク」ではなく「恩恵」にするためには何が必要でしょうか。私たちは、“人生80年”ととらえて生活設計をしてきた世代です。しかし今は、“人生100年”という時代を迎えようとしています。実際、90歳代でも元気に、現役で活躍されている方もいます。これからは“人生100年”を見通して生活設計しなければならない時代になったのだと実感しています。

今までのリスク管理・生活設計は、老後のお金や資産など、金銭管理を中心に考えてきましたが、今はそれだけでは足りないとみなさんもお気づきになっていることと思います。金銭に加えて、時間・健康管理も併せて考えていきたいテーマであると思います。

そもそもリスクとは?

リスクとは何か、広く捉える場合と狭く捉える場合があり、様々に定義されています。一般的には、予測できない危険、予想どおりにいかない可能性などがリスクと考えられています。
現代社会は「リスク社会の到来」ともいわれ、そのリスクとは、社会全体が持続可能ではなくなってきている、個人が思い描く人生を送れなくなってきているというリスクなのかなと思います。

では、今、高校生の日常生活にはどのようなリスクがあり、高校卒業後の生活の中で彼らはどのようなリスクと出会っていくのか。それを考えることが、高校生にとってリスク予見・リスク回避ができる消費者教育につながると考えています。そして、これは結論になりますが、従来、家庭科でやってきた生活設計教育が、まさにこれにあたるということです。

新しい内容を加えるのではなく、そういう意識を持って家庭科教育に取り組んでいただくと、リスクマネジメントに対応できる消費者教育になると考えています。

消費者教育推進の背景

消費者を取り巻く環境が変化するなか、消費者教育の意義・重要性が増大しています。学習指導要領には1990年代に「消費者教育」という文言が登場していますが、当時は教科書の最後のほうに消費者の権利や消費者トラブルについて触れられている程度だったかと思います。

平成24年12月に「消費者教育の推進に関する法律」(消費者教育推進法)が施行され、翌年6月、「消費者教育の推進に関する基本方針」が閣議決定されました。各都道府県・市町村では「消費者教育推進計画」が作られ始め、各地域で消費者教育をどうしていくかという検討が行われているところです。

これまで、「消費者教育とは」についての定義がなかなか共有できませんでした。消費者教育は金銭教育だったり、消費者問題を考える教育だったり、人によって違っていたわけです。しかし、この法律ができたことによって、「消費者教育」「消費者市民社会」の定義が明確になりました。理念が整理され、地域における活発な動きがあり、学校においても消費者教育を重要視する機運が高まってきました。

求められる消費者市民としての自覚

消費者教育推進法では、被害に遭わない賢い消費者の育成が大事なことはもちろんですが、持続可能な社会の発展に積極的に関与できる構成員(消費者市民社会の形成者)の育成に重点が置かれています。

消費者教育はこれまで、「賢い消費者」や「被害に遭わない」など、個人のための教育に思われがちでした。しかし法律には、個人のための教育を越えて「社会のあり方」に関わる社会の形成者として求められている資質を身に付ける消費者教育にするということが示されています。消費者市民としての自覚や、消費者市民としての諸能力の育成を意識した消費者教育が求められています。

持続可能な開発目標(SDGs)

SDGsは、2015年9月の国連総会で採択された新しい国際目標です。貧困、環境、男女平等、持続可能な消費と生産などの17の目標と169のターゲットが盛り込まれています。すべての国が2030年までに目標達成を目指すということで、子や孫に安心して渡せる経済・環境・社会に、地球レベルで変えていこうという取り組みです。ですが、まだ多くの人には知られていないため、今後どのように広めていくかが注目されます。

目標の12番目に、「つくる責任 つかう責任」として、持続可能な消費と生産パターンの確保が掲げられています。例えば食品ロスの問題では、日本をはじめさまざまな国で食品ロスが出る一方、栄養失調で亡くなる子どもが9人に1人という現実があり、世界規模で食品ロスの問題を考えましょうということが提案されています。
消費者の責任だけではなく、つくる側の責任、生産者の責任も合わせて掲げられており、「社会を変えていこう」という柱の一つに消費者教育が位置づけられているということです。

国際連合広報センター http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

消費者教育の体系イメージマップ

消費者庁は「消費者教育推進のための体系的プログラム研究会」の検討成果を表した「消費者教育の体系イメージマップ」を平成25年に公表しました。
自立した、消費者市民社会を形成する消費者になるために、どのような時期に、どのような内容を身に付けていくことが求められるのかを一覧できるようにしたものです。

消費者教育の体系イメージマップ
「消費者教育の体系イメージマップ」(消費者庁平成25年1月)
http://www.caa.go.jp/information/pdf/130122imagemap_4.pdf

マップでは、四つの重点領域(‐暖饉垰毀閏匆颪旅獣曄↓⊂ι陛の安全、生活の管理と契約、ぞ霾鵑肇瓮妊ア)と10の項目、目標が掲げられています。
例えば「消費者市民社会の構築」領域では、「消費がもつ影響力の理解」、「持続可能な消費の実践」、「消費者の参画・協働」となっています。
まさに家庭科でやっている内容がこの体系イメージマップの項目として挙がっているということが見て取れます。

高校生期に注目すると、まず高校生期の特徴として、「生涯を見通した生活の管理や計画の重要性、社会的な責任を理解し、主体的な判断が望まれる時期」とあります。まだまだ高校生は主体的に判断できない人が多い年代ですが、主体的に判断できるような力を身に付ける家庭科教育が求められていることが、このマップからも読み取れます。

今回の講演に直接関連する内容は、「商品等の安全」・「生活の管理と契約」あたりの
・安全で危険の少ないくらしと消費社会を目指すことの大切さを理解しよう
・トラブル解決の法律や制度、相談機関の利用法を知ろう
・適切な意思決定に基づいて行動しよう
・契約とそのルールの活用について理解しよう
・主体的に生活設計を立ててみよう
・生涯を見通した生活経済の管理や計画を考えよう
の6つです。

高校生期の達成目標として、今までは、これでもよかったのかもしれません。ですが、成人年齢が18歳に引き下げられた場合、18歳になった高校生は社会人と同じとみなされ、未成年者取消権なども使えなくなることを考えると、この目標だけでは足りないことがわかると思います。

契約した内容について、自分で判断し、責任を持つことになりますので、もっと踏み込んで、中学3年生の段階で実践力につながるところまで教えていくべきだと私は思っています。高校に進学しない生徒や、途中で退学する生徒もいます。彼らも被害に遭わないよう、義務教育の中3までに契約概念や消費者市民社会の一員として知っておくべきことを一通り学習し、高校生期で熟成していく、そんなイメージで取り組んでいかないと、このまま何の手立てもなく、成人年齢が18歳に引き下げられてしまうと、ますます被害に遭う若者が増えるだろうと推測できます。そうならないように、どのような中学生・高校生に育て、卒業させるか、学校教育での取り組みが今まで以上に重要になると思っています。

「消費生活と環境」及び「消費者教育」の教育現場の現状例

〜平成27・28年度の勤務校の取り組み事例のアンケート調査より〜

昨年、家庭科の先生方の研修会で講演をさせていただいたとき、参加された先生方に、平成27年度・28年度に実施された消費者教育について、内容や評価方法をお尋ねするアンケート調査を行いました。その結果の一部をご報告します。

■ 消費者教育の優先順位、重要度は高かった。

消費者教育に関連する内容を扱うときにはできるだけ新しい情報を提供すること、生徒の家庭環境に配慮すること、生徒に身近な事例、具体的な事例を扱い、教師の押し付けにならないよう工夫されていました。

■ 消費者教育の年間実施時間数は、学校差がある。

4〜8時間が最も多かったのですが、中には15〜16時間かけていると答えた先生も数名いました。

家庭科で実施された内容を、「消費者教育の体系イメージマップ」の4分野に分類してみました。

‐暖饉垰毀閏匆颪旅獣曚亡悗垢詢琉

・ゴミの問題
・フードマイレージ
・ダイヤモンド・ランキング
・商品の選択 など

⊂ι陛の安全に関する領域

・食の安全
・表示・デザインに関すること(食品表示)
・自分たちで作った野菜 など

生活の管理と契約に関する領域

・購入方法・支払方法、クレジットカード、金銭教育、収入と支出、奨学金
・消費者問題、消費者トラブル、消費者の権利、契約・消費者契約法

ぞ霾鵑肇瓮妊アに関する領域

・ネットトラブル
・個人情報

このように、高校家庭科の中で、時間数にばらつきがあるものの、さまざまな消費者教育が展開されていることがわかりました。

家庭科目の今後のあり方について

中央教育審議会 教育課程企画特別部会の下部組織である「家庭科技術ワーキンググループ」(平成27年)で、「家庭科目の今後のあり方について」という資料が出されました。

これをみると、「改善の視点」として次のことが挙げられています。
・生活者として自立し、社会に参画するために必要な知識や技術を科学的な根拠に基づいて身に付ける必要がある。
・問題解決的な学習において、「何を問題とし」「どう解決するのか」について、生徒の興味関心を踏まえた学習になっていない。
・将来を見通した生活設計に必要な生活の課題(就職・結婚、各ライフステージで想定される生活上のリスクへの対応方法など)についての内容を充実する必要がある。

つまり、高校の家庭科ですでに重要だとされてきたことを、さらに充実させましょうという内容になっています。

家庭科で育成する資質・能力としては、次のことが挙げられています。
・衣食住の生活文化の継承・発信
・消費・環境に配慮したライフスタイルの確立
・生活課題を解決するために必要な社会参画力、コミュニケーション能力
・子育て理解、高齢者の理解、生涯生活設計能力

検討の方向性としては次のことなどが挙げられています。
・生涯を通して、自他の生命を守る衣食住生活の実践力を育成
・食育の充実(例:生活習慣病を予防するために生涯を見通して食生活を営む力、災害時等の生活上のリスクに対応した衣食住の知識や技術など)

こうした内容が新しい学習指導要領に盛り込まれることが予測されます。

家庭科、技術家庭科(家庭分野)において育成を目指す資質・能力の整理

これも前掲のワーキンググループで出された資料です。

家庭科、技術・家庭科(家庭分野)において育成すべき資質・能力の整理(案)
平成28年5月11日教育課程部会 家庭,技術・家庭ワーキンググループ 資料8-1
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/065/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/10/1374886_08.pdf

小・中・高を「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「学びに向かう力・人間性」という3つの柱で見通したとき、高校家庭科(共通教科)の知識・技能では、「自立した生活者に必要な家族・家庭、衣食住、消費や環境等についての科学的な理解と技能」が求められています。詳しく見てみると「生活における経済の計画、消費生活や環境に配慮したライフスタイルの確立についての理解と技能」や、「各ライフステージに対応した衣食住についての理解と技能」となっています。

また、思考力・判断力・表現力においても、「生活の中から問題を見出して課題を設定し、生涯を見通して課題を解決する力」が求められています。

家庭科、技術・家庭科(家庭分野)における教育のイメージ

こうした教育を小・中・高がバラバラにやるのではなく、体系的にやることが大切ということで、幼稚園から高校までの教育イメージが示されています。
家庭科が登場するのは、小学校高学年ですが、低中学年も家庭科の学びにつながる内容を様々な教科で学んでいます。

家庭科、技術・家庭科(家庭分野)における教育のイメージ(案)
平成28年5月11日教育課程部会 家庭,技術・家庭ワーキンググループ 資料9-1
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/065/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/08/10/1374886_09.pdf

右端に、学びの「空間軸」と「時間軸」が示されています。
「空間軸」をみると、小学校の家庭科では家庭が中心であり、中学校の家庭科ではそれが地域に広がるイメージです。さらに高校では社会に広がります。つまり、こうした空間軸で家庭生活やライフスタイルを捉えるということになります。

「時間軸」をみると、小学校では現在やこれまでの生活をふり返りながら、例えば、これまで育ててくれた家族に感謝しながら、家族の一員として今何ができるのかということでこれからの家事分担を考えるというような学習をします。中学校ではこれからの生活に広がりをもたせ、高校では生涯を見通した生活が加わります。

この小・中・高における空間軸と時間軸のとらえ方を知っておいていただいて、高校の学習題材を考える際の参考にしていただけたらと思います。

防災教育を含む安全教育の今後の在り方について

中央教育審議会の「論点整理」の補足資料として出されたものです。

防災教育を含む安全教育の今後の在り方について(検討要素)
教育課程企画特別部会 論点整理 補足資料 文部科学省
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/09/24/1361110_2_1.pdf

高等学校の記述内容を見ると、
【公民科】安全・安心な地域作りへの参画や、防災関係制度に関する知識、現代的課題等の理解に関する指導の実施
【理科】自然災害の原因、地域における自然災害の予測、防災に関する指導の充実
【保険体育科】我が国の犯罪の現状と安全対策や、安全な情報の選択・活用による犯罪被害防止などに関する指導の充実
【特別活動】安全指導や避難訓練のさらなる充実、主体的に危険を回避する判断力の育成
とありますが、「家庭科」の文字がどこにもありません。

これだけいろいろな災害や事故・事件が起こっていますので、防災や防犯を含めた内容を家庭科ですでに実践されていると思いますが、文部科学省が考える防災教育、安全教育は家庭科でやっていると認識されていないのかなと感じました。

ただ、家庭科と書かれていないからやってはいけないということではありませんので、家庭科ではリスク管理を考える際に、例えば被災した時の衣食住生活や減災・防災の視点を入れた学習を行うべきだと思います。

そして将来的には、防災教育を含む安全教育を家庭科できちんとやっているということを発信できるような学習を積み重ねていくことが大切だと考えます。

家庭科、技術家庭(家庭分野)の学習過程のイメージ

今年6月、小・中学校版の新学習指導要領の解説が発表されました。
今、盛んにいわれているアクティブ・ラーニングですが、家庭科ではすでにやってきています。

生活の課題発見→解決方法の検討と計画→課題解決に向けた実践活動→実践活動の評価・改善、そしてそれを家庭や地域でどのように実践するかということを家庭科では大事にしてきました。

目指す資質・能力と学習評価の場面例で挙げられている「生活の中から問題を見出し、解決すべき課題を設定する力」、「生活課題について多角的に捉え、解決策を構想する力」、また、知識・技能で挙げられている「生活課題を解決するための根拠となる知識の習得」「生活課題を解決するための技能の習得」も、家庭科ではこのような知識・技能の習得を目指して授業を積み重ねています。

ただ、単なる知識・技能の習得ではなく、自らの生活課題が解決できる、助けになる知識・技能の習得が必要になります。知識や技能が実生活にきちんとつながらないといけないのですが、他教科も含め、学校で学んだ知識が生活に活きていないという学習が多々あります。そこは学校教育全体で見直す必要があると思っています。生活の中で活きて働く力を身に付けさせるために知識・技能が必要であることをおさえておきたいと思います。

学びに向かう態度も示されています。
小・中・高を通じて、生活を楽しみ、味わい、豊かさを創造しようとする態度、日本の生活文化を大切にし、継承・創造しようとする態度、とあります。

特に高校では、「相互に支え合う社会の構築に向けて、主体的に地域社会に参画し、家庭や地域の生活を創造しようとする実践的な態度」が求められています。実践できなければ意味がないということになります。

自分の生活に、今どんな課題があって、それを解決するためにはどうしたらいいのか、それがきちんと解決できるような力を高校の家庭科の中で身に付けさせることになります。

家庭科の授業で重視したいこと

これまでのお話とも重なりますが、私がいろいろなところでお伝えしているのは、家庭科の授業で特に重視したいのは「質の高い判断力、意思決定能力の育成」ということです。

どのような行動をとるか意思決定する際の判断基準を「価値」ととらえ、「価値付け」→「意思決定」→「行動」という流れがあるとすると、よりよい意思決定をするためには判断力の質が重要です。そして、質の高い判断を行うには、ベースになる知識やスキルの習得が必須です。

視野を広げるための「多面的、複合的な視点」も、とても大事です。立場が違えば、物事の見え方も違ってきます。価値観が多様化し、背景にある文化や環境が違えば、自分の価値観が正しいというわけではないことのほうが多いということも知ってもらわなければなりません。

自分の家庭生活の中で学んだ知識や価値観だけではなく、視野を広げるために、「多面的、複合的な視点」を加えながら学習を深めていく必要があります。
授業では、主体的に高校生に判断させる学習機会を増やす必要があります。1回きりのトレーニングではなかなか身に付かないため、繰り返し、「自分ならどうするか」を主体的に考えさせます。その時々のケースによって導かれる答えが違ってくることも教えたいので、いろんな選択肢があり、その中から何を選ぶか、選んだ根拠は何かを自分の言葉で説明できるような、そんな学習機会を増やしていけたらいいのかなと思います。

具体的な学習事例をいくつかご紹介します。

● 卒業旅行の計画

多くの高校生・大学生は、卒業前に卒業旅行に行きますので、卒業旅行の計画を立てるワークです。早くから計画を立てていたら、安いパッケージツアーや飛行機の安い席を利用することが可能です。でも、あまり先の予定はわからないので、その日程で行けるかどうかわかりません。卒業前の忙しい時期に「絶対ここは空けられる」という人は早く計画して安く旅行ができますが、予定が定まらない場合は直前に決めるしかありません。直前だと価格は高くなります。そういった条件をわかって契約できるかどうかです。自分の状況に合わせるとこういう契約になる、ということをきちんと理解させることも大切です。もちろん、「予約方法(契約)」や「キャンセル」、「旅行パンフレット・契約書の読み方」などの学習が中心になるのは言うまでもありません。

● 海外旅行や留学時の保険

海外旅行だけではなく、海外に留学する人も増えていますので、留学中の保険をどうするかについて、実際のパンフレットや申込書を見ながら考えさせるのもいいかと思います。
海外では自分にどんなリスクがあるか、そのとき何に困るのかを考えて保険を選ぶというワークは、遠い将来の、まだよくわからない生命保険等の話よりも高校生にとって現実的なのかなと思います。

社会人になると、必ず保険の勧誘があります。私たちの世代には、よくわからず勧誘されるままに契約した人も多かったと思います。年齢とともに保険料が上がっていく契約をずっと続けている人もいます。

でも、高校生には自分の判断で、自分の意思でどのような契約をするか決定できる力をぜひ身に付けてほしい。誰かに勧誘されたからではなく、自分が納得できる保険を、自分で契約できる力を身に付けてほしいと思います。

これは私が実際に受けた相談事例です。
青年の運転するバイクと、高齢者の運転する乗用車がぶつかる事故がありました。乗用車がウインカーを出さず右折したことが原因で、高齢者はその場で「バイクを弁償し、治療費も払う」と謝罪したそうですが、後日、保険会社の交渉になると、10:0にはなりませんでした。そこで青年から「相手が悪かったと認めているのに、なぜ自分も負担しなくてはいけないのか」と相談されました。

事故に遭ったとき、保険に入っていれば保険会社が交渉などをしてくれます。でも、もし保険に入っていなかったら、交渉なども自分ですべてやらなければいけないのですが、若い人にできることではありません。そのようなことも含め、保険加入の意味を知らせることは重要ですが、自分に専門的な知識がないとき、このような相談をどこで誰にすれば解決してもらえるのかを知っていることも大事なことだと思います。

また、契約書に書かれている内容を、正しく、背景も含めて解釈できる力も必要です。

小学校の学習事例です。契約書ではありませんが、「500円以内で、ハロウィンパーティーの準備をすることになりました。あなたはどこで何をどれだけ買いますか?」と書かれた用紙とそれぞれ何がどこで売っているかの表があります。冒頭に「ハロウィンパーティーに参加する場合は、カボチャのお化けランタンを玄関に置いておくこと」と書いてあり、そこをきちんと読み取れていたら、持っているお金でお菓子だけでなくランタンも買わないとパーティーに参加できないことがわかります。こうした文章を正しく読み取らせることも、消費者教育には必要で、契約書を正しく読む力の育成につながるのだろうと思います。

まとめと今後の課題

「トラブル対策」の消費者教育から、「社会の形成者を育成」する消費者教育へ、消費者市民としての責任を自覚できるような教育への転換を図る必要があり、実際に変わりつつあります。

成人年齢の引き下げに伴い、契約概念の正しい理解や消費者トラブルの未然防止のための学習と、消費者市民としての自覚を促す具体的な学習の両者が大切です。「自分だけが被害に遭わなければいい」ではなく、社会全体の消費者トラブルをなくしていくことが、消費者市民としての自覚を促す消費者教育になります。

生活を設計・管理する力を育成することこそが本日の主題であるリスクマネジメントになります。商品安全の理解と、生活上の危険を回避する力を育む「安全教育としての消費者教育」も必要です。ここには防災教育も含まれると思います。

次期学習指導要領

● 各ライフステージで想定される生活上のリスクの対応方法には個人差がある

結婚しない人が増え、50歳未満の独身者の割合が高くなっています。今の高校生たちも、結婚しない、子どもを持たない(持てない)人生を送る人がでてくるでしょう。そんななか、結婚、出産、子育てというライフステージはあまり現実的ではないのかもしれません。また、今後退職金というものがなくなっていくかもしれないとなると、資金計画をどうするのかも考えなければいけません。時代とともに、個人差もかなりあるので、ここをどうするかは今後の大きな課題だと思っています。

● 生涯を通して、自他の生命を守る・衣食住生活の実践力を育成、食育の充実

生涯を見通して衣食住生活を営むことのできる知識や技術は、家庭科でずっと大事にしてきた学習であり、家庭科の本質です。これらの学習を大事にすることで、応用編としての災害時の対応につながっていくと思います。ここでは新たに何かをしなければならないということはなく、家庭科でやってきた内容をより充実させつつ、長寿をリスクではなく恩恵にするために、お金の教育も大切にしながら、時間・健康・人の管理を考えさせるような家庭科にしていく必要があります。
60歳で定年退職した後、100歳まで生きるとすれば、余暇時間が40年もある時代です。この余暇時間の使い方や、パートナーや子どもとの関係性、自身の健康状態をよりよい状態にしておくことを考えて、時間・健康・人の管理をすることも重要になります。

小・中学校の学習指導要領は「ABCD」の4領域から「ABC」の3領域に変わりました。Cの「消費生活と環境」は、中学校では「金銭の管理と購入」となり、「計画的な金銭管理の必要性の理解」「消費者被害の背景と対応についての理解」という今まで高校で扱っていた内容が入ってきています。
小学校でも、「買物の仕組みや消費者の役割がわかる」「売買契約の基礎について触れる」という、中学校でやっていた内容が入ってきています。
これらを小中高でどのように体系的にやっていくか、特に高校では中学との内容の住み分けが必要であると考えています。

教材紹介

最後に、授業ですぐに活用できる教材を紹介させていただきます。いずれもインターネットから入手できますので、生徒の実態に合わせてアレンジしながら授業づくりに役立てていただければと思います。

● 君とみらいとライフプラン〜「もしも」の備えと生活設計〜/生命保険文化センター(平成29年4月)
http://www.jili.or.jp/school/yokoku.html

● 社会への扉 12のクイズで学ぶ自立した消費者/消費者庁(平成29年3月)
http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/teaching_material/teaching_material_1.html

● めざそう!消費者市民/大阪府消費生活センター(平成29年2月)
http://www.pref.osaka.lg.jp/shouhi/keihatsu/kyouzai28.html

 

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