2015年の相続税の税制改正から丸3年が経ちました。
基礎控除の4割減、税率のアップ、という大きな改正は、どのような影響をもたらしたでしょうか?
今回は、その影響について、客観的なデータの確認とお客様のご相談傾向という2つの側面からご紹介いたします。

相続税制改正の最も大きな影響は、基礎控除の引下げによる課税対象者の拡大でしょう。申告が必要になる相続案件の割合(課税割合)は改正前2014年(平成26年)の4.4%から改正後2015年(平成27年)には8.0%、2016年(平成28年)は8.1%と大幅に上昇しました(全国平均、表1)。中でも土地の価格が高い東京都を管轄に含む東京国税局では、その割合が12.8%(2016年、平成28年)となっています。亡くなられた方8人に1人の割合で相続税申告が必要となる計算で、「相続税は一部の金持ちだけの話」とは言えなくなったことがわかります。

表1 課税割合の推移(全国平均)

一方、相続税の税額についてはどうでしょうか? 相続税の税額は、改正前2014年(平成26年)が1.4兆円、改正後2015年(平成27年)が1.8兆円、2016年(平成28年)が1.9兆円です(表2)。改正により、税額はもちろん増えてはいますが、申告件数ほどの大きな伸びではありません。これは、課税対象者は大幅に増えたものの、実際の納税額はゼロもしくは少額、というケースが多いためだと思われます。つまり、ここでも「相続税の大衆化」が起こっているわけです。

表2 相続税の課税価格及び税額の推移(全国)

そして、もう一つ、贈与税申告のデータをご紹介します。贈与税については、教育資金や結婚資金の贈与の特例、直系尊属からの贈与に対する税率の特例など、少しずつ贈与を後押しする改正があったものの、相続税ほどの大きな改正はありません。しかし、相続税改正の方針が示された2013年(平成25年)に贈与税申告人数は49万人と、前年の43万人から大幅に増加し、その後、毎年、年間50万人を超えています(表3)。
これは、相続税対策として、生前贈与を行う方が増えているためだと思います。

表3 贈与税の申告状況(全国)

さて、これらのデータからすると、相続税の増税を避け、賢く生前贈与を行うようになった――と、思われるかもしれません。

ところが、お客様からのご相談傾向は少し異なります。
確かに生前の相続税対策を気にされる方は非常に増えています。実際、ここ4、5年で、ご相談の件数も大幅に多くなりました。
しかし、お客様のお話をうかがうと、思い違いや誤解と思われる内容が多く出てきます。例えば、相続で譲る方が有利と見込まれる財産を生前贈与したいというお話や、財産総額からすると不利だと思われる相続時精算課税制度を適用したいといったご相談などです。
また、実際に相続が発生した方の申告の場面においても同様です。最も手軽な相続税対策である「生命保険金の非課税枠」を使い切っていない方や、相続の直前(3年以内)に多額の預貯金を引き出し相続人に「かけこみ贈与」をしていた方などが多く見られます。「かけこみ贈与」は「生前贈与加算」という制度により贈与がなかったこと(相続財産に持ち戻し)とされてしまうため相続税負担の軽減効果はないのです。

このように、客観的なデータからの予想とは異なり、お客様のご相談傾向は、相続税対策をしたいとお考えの方が多い一方、かえって税負担が増えるような贈与をしたり、自己流であまり効果的でない対策を立てたりするケースも少なくないと感じています。

相続は、何度も経験するものではありませんので、なかなか「相続に慣れている」というわけにはいきません。お困りのときは、ぜひ税理士・弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

プロフィール

小倉 絵里

沓掛伸幸(くつかけ のぶゆき)

税理士法人TOTAL代表社員(税理士・医業経営コンサルタント・CFPR)。 一橋大卒、生命保険会社勤務を経て平成19年税理士法人TOTAL設立、平成24年より代表社員。税理士、司法書士、会計士、社会保険労務士等が属するTOTALにて、相続、医療機関向け、法人向けの三分野で税務、登記、労務等を融合させた総合サービスを展開。