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2017.12 Essay vol.06

受給資格が10年になることで何が変わる?
誰に影響がある?

Written by 社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ 原 祐美子 Written by 社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ 原 祐美子

〜年金には入りたくない〜

いろいろな社長さんの相談を受けていると、入社した従業員さんが厚生年金に入りたくないと言っているがどうしたらよいかという話を聞くことがあります。理由を聞くと、「これまで会社勤めをしていなかったから」、「前の会社には厚生年金の制度がなかったから」など、本来は自分で国民年金保険料を払わなくてはならなかったけれど、これまで国民年金保険料を払ってこなかったので、いまからかけてももらえないから損になる、とのこと。

そのようなときに私は、「国民年金や健康保険の制度は、入りたい、入りたくないで本人が加入するかどうかを決めるものではなく、要件に当てはまったら入らなくてはならないものですよ。それに、年金というのは老齢のときの給付だけではなく、障害状態になったときや、死亡したときの遺族への給付もあるんです」というお話をしています。

〜年金制度はセーフティーネット〜

そもそも年金制度とは、国民のための互助制度で生活が困窮する立場になった人を助ける制度です。現在の日本の年金制度は、老齢、障害、遺族の3種類のセーフティーネットの役割を果たしています。例えば、生活が困窮する度合いが高いと思われる「障害者」や「遺族」については、過去直近1年間に年金保険料の未納期間がなければ、保険料を納付した月数にかかわらず一定の額が給付されるというありがたい側面もあるのです。

通勤途上で大事故にあって障害を負い、働けなくなってしまった知人がいます。知人は4人家族の大黒柱でしたが、労災や年金制度からの給付によってお子様たちの進学の道も閉ざされずに暮らしていけているそうです。年金制度は、自分自身だけのためにお金を積み立てる預貯金ではなく、世代間や働ける人と働けない人との間などで、相互に助け合う制度であるということを今一度思い出すことが必要です。

〜法改正で老齢年金の受給資格期間が25年から10年に〜

とはいえ、障害になったときの給付や死亡した時の遺族への給付があると知っていても、やはり年金といって一番に思いつくのは年齢が高くなったときの給付ではないでしょうか。改正が施行されるまでの現在の法律では、25年分の保険料を払っていなければ、老齢年金は1円ももらうことができません(免除の制度もあります)。強制加入の制度とはいえ、40代半ばや50代の方が、「定年退職までに25年は足りないし、いまから払い始めても年金をもらうことはできないのに払いたくない」と思う気持ちになるのは仕方ないともいえます。

しかし、平成29年8月1日に年金受給資格期間が短縮されることになりました。今回の法改正によって、これまで未納を続けていた40代や50代の方も、今から間に合わせることができます。また、これまで受給権のなかった人が年金を受給できるようになります。

〜法改正により老齢年金の受給権を得たAさん〜

現在50代のAさんは、10年ちょっと会社に勤めた後、30歳代前半に個人で起業しましたが、創業時は資金繰りが厳しく国民年金保険料を納付できなかったそうです。その当時は保険料免除の制度があることを知らず、知った後も、年を経るにつれ、何となくいまさら払っても25年に達しないだろうし、と考えて払ってこなかったそうです。彼は、まさにこの今年29年8月の改正によって受給資格を得ます。
今は、未払い分も後納することによって受給する年金の増額も考えているそうです。
「5年の後納制度」を利用して、平成23年分から払うとすると、遅れたことによる加算も含め、1か月分が約15,500円。5年分で合計930,000円。100万円近い金額がかかりますが、もらえる額も1年あたり1,625円×60か月=97,500円の増額です。
Aさんは、「65歳からもらいはじめて10年もらったら、元が取れるんだから、払った方がいいな」と考えているそうです。これまで無理だと諦めていた年金がもらえることになり、将来の不安が軽減されたと、とても嬉しそうです。

〜過去5年分の後納制度も〜

これまで一切、国民年金保険料を納めたことがないという方でも、平成27年10月から平成30年9月30日までは、過去5年分まで遡って年金保険料を納付できる「5年の後納制度」を利用できるため、過去分を納め、さらに5年納付を続ければ受給権を得ることができます。

〜65歳以上の無年金者42万人にとっても朗報〜

平成25年10月に厚生労働省が出した資料によると、65歳以上の無年金者(65歳以上のうち、今後保険料を納付しても25年の受給資格期間に達せず年金を受給できない人)は約42万人で、そのうち保険料納付済み期間が10年以上の人は約17万人(65歳以上の無年金者のうち40%)いるとのことです。この方たちは法改正の施行後に、年金を受給することができるようになります。いま10年の納付済み期間がなかったとしても、70歳未満の方であれば、過去分をまとめて納付して受給資格を得る道がひらける場合があります。

今回の受給資格期間の短縮は、50代のAさん、65歳以上の無年金者の方たちには、嬉しい改正となりました。では、老後の生活費は年金だけで足りるのでしょうか?

次回は、老後にかかるお金と自助努力の方法についてお話ししたいと思います。

プロフィール

原 祐美子

原 祐美子(はら ゆみこ)

特定社会保険労務士、社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズ東京事務所長
日本女子大学文学部卒業。外資系計測器メーカー勤務、国会議員公設秘書、個人事業主として10年の社会保険労務士事務所の経営を経て、平成28年から現職。
数十社の企業に顧問として携わり、労務相談・トラブル対応、社会保険手続、給与計算、助成金申請等に関する支援を行うほか、商工会議所でも窓口相談を行っている。
産業カウンセラーの資格も持ち「話を聞いてもらえてよかった、いてくれてよかった」と思われる関わり方をモットーにしている。

<著書>
「グチの教科書」(マイナビ出版)

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