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2012年度 夏季セミナー報告 (授業実践報告【公民科】)
おカネについて学ぶ〜消費者問題と金融〜
web.10
(2013.1)
東京都立戸山高等学校 髙橋 朝子 先生


髙橋 朝子 先生

当生命保険文化センターと(社)日本損害保険協会の共催で、高等学校の先生や教育関係者の方を対象とした夏季セミナー「くらしとリスク管理」を行いました。
セミナーの内容を4回にわたってご報告しています。1・2回「基調講演」、3回「家庭科の授業実践報告」に続き、今回、最終回は「公民科の授業実践報告」です。

INDEX

 

1. はじめに

東京都立戸山高等学校は旧府立4中という伝統のある高校で、場所は西早稲田にあります。平成13年度から進学指導重点校の指定を受けて12年目、難関国公立大学15人合格を目標に、進学指導の実績を上げることが命題となっています。受験科目である英・数・国に力が注がれる中、家庭科や社会科など受験に関係ない科目については、いかに生徒に興味を持たせるか、先生方も工夫されています。

また、文部科学省より認定を受けている「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」でもあります。平成16年度に指定校となり、磯の観察をしたり、大学の研究室を訪問したり、また、家庭科と化学・地理が例えば乳製品について授業をするというようなクロスカリキュラム等も行っています。

公民科のカリキュラムは、昨年度までは1年生が現代社会(2単位)必修、3年生で政経(2または4単位)、倫理(2単位)を選択していましたが、センター試験の難関校対策として、今年度からは1年生で倫理(2単位)必修、3年生で政経(2単位)必修へと変更しました。

 

2. おカネについての授業

私が生徒に学んでほしいことは、貨幣の役割を理解し、社会に出たとき重要となる金融について理解すること、そして、グローバル化の進行により、お金が動いているダイナミズムを想像してほしいと思っています。外国為替市場で1日5兆ドル(約400兆円)のお金が動いているといったことは、生徒たちには想像しにくいだろうけれども、世界で今お金が回っているんだということを学習してほしいと思っています。

しかし、本当にわかってほしいことは、お金は生かさなければいけないということ、お金で死んだらだめだということです。大学卒の就職が困難な時代、「どんな仕事に就きたいか」という話題がマスメディア等でもさかんに取り沙汰されますが、近年「ソーシャルビジネス」という言葉が普及するようになりました。

稼ぐだけではなくどう社会を変えていくか、つまり、みんながお金をどう稼いで、どう使うかによって社会が変わっていくかもしれないんだよ、だからお金を生かす生き方を考えてほしいと言っています。そして、消費者教育の後は、必ず「お金では死ぬな」と言っています。借金を抱えて自殺する人は後を絶ちませんが、どうにもならなくなったときの手段として「自己破産」についても紹介しています。

新学習指導要領では、「現代社会および政治・経済において金融、消費者、私法に関する内容の充実を図るため、金融の役割、貸し手および借り手の自己責任の原則、契約の重要性について具体的に理解させ、多重債務問題にも触れるようにする」と細かく示されるようになりました。本日は、これに関連した授業実践報告をしていきます。

 

3. 消費者問題の授業実践

I. 授業の位置付け
「政治・経済」日本経済の発展と課題 消費者問題

II. 授業の目標
●取引における契約の意味を理解させる。
●消費者保護政策の理解とともに、自己の責任ある行動を考察させる。

III. 授業展開(50分×2時間)
【1時間目】

  学習内容 学習活動
導入(15分) 契約について 事例について、グループで考える。
 ・契約はいつ成立するか。
 ・どんな内容の契約でもいいのか。
 ・注意すべき内容は何か。
展開(30分) 自己責任と消費者保護行政 事例をもとに、ルールを知る。
 ・契約自由の原則
    しかし情報の非対称性
悪徳商法やトラブルを知る。
 ・特定商取引法→クーリングオフ
 ・消費者契約法→無効・取消し
まとめ(5分) 自立する消費者 消費者保護基本法→消費者保護法

「政治・経済」の「日本経済の発展と課題 消費者問題」の授業は、50分授業を計2時間行います。1時間目は、契約と消費者保護行政を取り上げます。

生徒に「家から学校まで交通費はいくらかかるか」を聞くと、パスモだから、スイカだからよくわからないという答えが返ってきます。今、電子マネーが急速に普及していますが、電子マネーは、お金を使っているという感覚が薄くなりがちです。電子マネーであってもお金を払っているという自覚は必要であり、お金を払うことの入口が契約になる、と説明します。

契約にはいろいろなものがありますが、身近な例として次のような問題を出します。

問題
塾の講習を電話で申し込み、3日後、親とともに塾に行き申込書に押印した。
翌日、講習代金を振り込んだら、1週間後に講習のテキストが届いた。契約はいつ成立するか。
(1)電話で申し込みをしたとき (2)塾で申込書に押印したとき
(3)講習代金を振り込んだとき (4)講習のテキストが届いたとき

生徒の答えは分かれます。多いのは(2)です。そこで、契約というのは口約束でも成り立つことを話すと、生徒たちは驚きます。

誰といつどのような内容で契約するかは、原則、自由に決められるため、よく考えなければいけないけれど、もしこんな契約をしてしまったらどうする?というふうに、悪徳商法関係の話に進みます。

例えば、繁華街で「モデルにならないか」と声をかけられ、コーヒーショップでモデル養成講座受講の契約をしたが、5万円もする。どうしますか?というような例題を出します。すると、「仕方なく払う」という生徒がけっこういます。

また、このような例題も出します。1年後の結婚式のために、式場を100万円で予約した。しかしわずか1週間で破局したためキャンセルしようとしたら、違約金は80%だという。どうしますか?と。生徒はこれにも「仕方なく払う」と言います。

「でも、違約金80万円は、消費者にとってすごく不利だよね」ということで、最初の例ではクーリングオフについて、後の例では消費者契約法の、一方的に消費者に不利な条項については契約を一部無効にできることについて説明します。

そして、契約は原則自由なのに、なぜこのような消費者を守る法律があるのかを考えさせ、情報の非対称性、つまり消費者側に圧倒的に情報が少ない中で契約した場合には法律で消費者を保護する必要があるのだということを説明します。

【2時間目】

  学習内容 学習活動
導入(10分) 今のおカネと将来のおカネ グループで考える。
 ・今の100万円と1年後の100万円のどちらがいいか。
 ・今の100万円は1年後のいくらと同価値か。
展開(30分) 金利とクレジットカードでの契約
キャッシュレス社会
金利の意味を知る。
クレジットカードでは何ができるか考える。
 ・買い物、ローン
クレジットカードを使うこと=借金であることを知る。
 ・金利と期間(時間)が重要:利息計算をしてみる。
まとめ(10分) 多重債務と自己破産 消費者保護行政の変化
 ・改正貸金業法
自己責任、自己管理の大切さを知る。

2時間目は、もう少しお金そのものに重点を置いた授業になります。お金のことを考えて賢い消費者になりましょうという授業です。

まず、いくつかわかりやすい質問をします。
「今日の100万円と1年後の100万円ではどちらがいいか?」これは、1年後のことはわからないので、今すぐ使える今日の100万円のほうがいいということになります。
「では、今日の100万円と同じ価値なのは1年後のいくらか?」と質問すると、例えば105万円という答えが返ってきます。それは、今日銀行に100万円を預け、年利5%で1年後に105万円もらうことと同じだということで、金利についての説明につなげます。

金利という言葉に生徒はあまり馴染みがありません。親から小遣いをもらって何不自由なく生活している生徒たちにとっては「金利ってなに?」という感じです。そういう生徒たちに、身近な例から金利とは何かを理解させる授業を行います。

次にクレジットカードの話をします。日本で発行されているクレジットカードは3億枚を超えたそうですが、今では学生向けのカードもあり、その内容も学生にとって魅力的なものになっています。限度額は、平均してショッピング100万円、キャッシング50〜100万円程度です。

そこで、もしそのカードで100万円を借りたら利息はどうなるか、年利15%で計算してみます。計算が苦手な子のために、72を年利で割ると元金が2倍になる年数がわかる「72の法則」についても話します。

借金をするときは、金利をきちんと見て、どれだけ増えるかを覚悟した上でないと借金をしてはいけないと言っています。生徒たちは、この72の法則だけはよく覚えています。

【図:クレジットは借金!】
【図:クレジットは借金!】



18歳からクレジットカードを持てるという現状から、生徒の家庭環境に配慮しつつ、当事者意識を持つよう促しますが、生徒の興味・関心には温度差があります。自分は慎重な性格だからカードも使わないし、悪徳商法にもひっかからないと考える生徒もおり、リスクについては時間があればさらに詳しく話をしています。

10年前、2人の日本人がノーベル賞を受賞した年にノーベル経済学賞を取った人は、経済学者ではなく、ダニエル・カーネマンという心理学者でした。カーネマンの「プロスペクト理論」によると、人間は「損をする」状況に置かれるとリスクを取りたがる、損に敏感な性質があるとのことです。

ですから投資をして少し損が積み重なってくると、これを取り戻そうとしてさらに損が膨らむことがあります。生徒たちにもなるべく自分のこととして考えられるよう、いろいろな考え方や理論を紹介しつつ、リスクについて理解を深めていきます。

 

4. 金融の授業実践

I. 授業の位置付け
「政治・経済」現代経済の仕組み 資金の循環と金融

II. 授業の目標
●金融の役割と金融政策について理解させる。
●社会の変化に伴い、金融も変化していることに気付かせる。

III. 授業展開(50分×2時間) 

  学習内容 学習活動
導入(10分) 金融とは 貨幣と通貨、キャッシュレス時代
金融市場
 金利とは何かを知る。
展開(40分) 金融政策 日本銀行の役割
 マネーストック、コールレート、政策金利について理解する。
展開(40分) 金融の自由化・国際化 日本版ビッグバン
ゼロ金利政策と量的緩和政策
 金融システムの安定化や金融政策の変化を理解する。
まとめ(10分) 金融と私たちの生活

金融についての授業では、金融の役割、金融政策、金融の自由化・国際化、これらと私たちの生活のかかわりについて学びます。具体的には、金利変動の要因・影響、それによる生活への影響などを扱います。生徒には馴染みのない金融ですが、お金は日々ダイナミックに動いているので重要語句をおさえつつ身近な事例を紹介します。

1度で理解させるのは難しいので、一時的な知識の習得にとどまらず、日銀の政策等に興味を持たせ続けるために、授業の後も、折に触れて金融のトピックを繰り返し取り上げていくことが大切です。このため私は「時事ノート」を実施しています。これは、興味を持った記事の要約と自分の感想を一人ずつ順番にノートに書かせ、授業の冒頭5分で発表するというものです。

やはり、授業で経済のことをやれば経済のニュースを取り上げることが多くなります。また、友達が発表したテーマに興味を持つ子もいます。ノートには「つぶやき」のコーナーもあり、次の生徒がそこに自由な書き込みをします。このようなことをしつつ、生徒の興味をなるべく絶やさないように工夫しています。

お金についての授業は家庭科でも行われると思いますので、家庭科の先生方ともすりあわせをして調整していきたいと思います。生徒にとってお金は使うものでしかないのが現状ですが、きちんとお金について考えさせるという姿勢が大切だと思っています。

 
 

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