消費者教育推進法制定に寄せて 名古屋経済大学名誉教授 小木 紀之
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企業の社会的責任(CSR)とは一般的に、企業が様々な活動を行うプロセスにおいて、利益を優先させるのではなく、ステークホルダー(消費者、取引先、地域社会、株主、従業員など)との関係を重視しながら、社会に対する責任や貢献に配慮して、長期にわたって企業が持続的に成長することを目指しての一連の活動をいう。

企業にとっても、このような社会的責任を果たすことは、環境効率向上によるコスト削減、企業イメージ向上によるブランド価値の向上など様々なメリットがある。

CSRに代表される企業の社会的責任及び社会貢献活動の論議はメセナ(企業の文化・芸術支援活動)やフィランソロピー(個人及び企業による社会貢献活動)などといった言葉がにわかに脚光を浴びた1990年代を経て、いまや常時、マスメディアをにぎわす企業の戦略的経営活動の一環としての位置づけにシフトしつつある。

わが国における社会貢献活動の近代化(導入)は1985年のプラザ合意による急激な円高以降、欧米諸国に進出した日本企業が欧米流の社会活動に刺激を受け、実践化に向かったことに端を発したと言われている。

1980年代以降、恒常的な社会からの要請を受けながら、一方でバブル崩壊後の企業不信に対する企業倫理・企業責任への対応策や他企業との差別化のツールとしても、社会貢献活動が徐々にではあるが、わが国においても浸透しはじめて来ている。

いまや企業にとって経営戦略上、欠かすことのできない活動の一つとなっていることを知っておく必要があろう。

話題提供であるが、アメリカで、このフィランソロピー(個人及び企業による社会貢献活動)の論議にしばしば登場する人物が「ジョン・ハーバード」である。

1630年、イギリスの清教徒(ピューリタン)であるジョン・ウィンスロップが、1,000人の移住者を率いて、新大陸のマサチューセッツに到着した。

マサチューセッツにはバージニアの植民地と異なり、信仰上の理由や政治的圧迫からの解放を目指した人々が多かった。入植後のわずか6年後の1636年に彼らは学校(大学)を設立した。

「我々が家を建て、生活に必要なものを作り、神の礼拝にふさわしい場所を築き、自治政府を打ち立てた今、次に我々が願い求めているのは、学問を推し進め、それを永遠に子孫に伝えることである」(出口正之『フィランソロピー』丸善ライブラリー参照・引用)。

1637年マサチューセッツへの移民を試みた30歳の青年はボストンの厳しい冬の寒さに耐えかね、次の年(1638年)この世を去ってしまった。青年は死の直前、自分の財産半分と400冊の蔵書を設立されたばかりの大学に寄贈した。

その青年ジョン・ハーバードの心根(こころね)に感じたボストンの人たちは青年の名前にちなみ、大学の名前をハーバード大学と命名した。「利他主義」に対するボストニアンの心根も聞こえてくるようだ。

アメリカ人のフィランソロピーの深さを感じざるを得ない。「企業も社会の一員である」との認識が高まれば、消費者の企業をみる眼も錬成されるに違いない。

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小木 紀之(おぎ のりゆき)

小木 紀之
(おぎ のりゆき)


ノートルダム清心女子大学・長崎大学各助教授を経て名古屋経済大学経済学教授。
その間、放送大学客員教授(消費者問題論)歴任。
現在、日本消費者教育学会名誉会長。
名古屋市消費生活審議会長、岐阜県消費生活安定審議会長を務める。
平成24年度 消費者支援功労者表彰(内閣総理大臣表彰)受賞。

 
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