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第3回 若者とそろばん勘定愛知みずほ大学 伊藤 由美子[いとうゆみこ]

文部科学省が発表した大学生の就職内定率は、57.6%(2010年10月1日現在)。平成8年の調査開始以降で過去最低の数値である。さらに筆者が住む愛知県はそれより低く48.3%(2010年10月末現在)という状況である。

また、この数字が発表された10・11月は現3年生が本格的に就職活動を始める時期(大規模な合同企業説明会)と重なっていた。

さて、そのような環境下において、筆者はこの11月学生と共に合同企業説明会に参加する機会を得た。
しかも、東京と名古屋の2箇所である。
いずれの会場も大規模であり、就職環境の悪化が伝えられた時期でもあるので相当の混雑が予想された。
きっと会場は真剣な表情の学生で溢れかえり、企業のブースを駆け回る他大学の学生の姿は一緒に行った学生に大いに影響を及ぼすであろうし、圧倒されてしまうに違いないと思っていたが…しかし、予想は見事に外れてしまった。 確かに会場内は混雑していたが、何かこれまでの合同企業説明会とは異なる雰囲気であった。
入場者は絶え間なく続く一方で、どんどんと会場を出ていく学生の姿が目についた。2〜4社の企業ブースを回っただけで、または講演会を聞いただけで多くの学生は会場を後にしたのである。
その間も人事担当者は15分から45分と時間を区切って、自社の説明を繰返していた。しかしその姿は、なぜかその多くに覇気が感じられなかったのである。"何かが変なのだ"明確な理由は見つけることはできないが、経験豊かな人事担当者と学生との間に、何かしら変化が起こっているように感じたのである。

さて、ITの進展は、このような就職活動についても様々な変化をもたらしてきた。いわゆるWeb就職と称される利便性は、学生の就職活動を容易にしたし、学生集め(母集団形成)の苦労を人事担当者から取り除いてきたと思われる。もちろん、利便性がもたらす弊害は存在することは事実だろうが、概ね利便性のほうが優ってきたことに、異論はないだろう。しかし、今回筆者が感じた違和感は、その弊害とは異なる新たな変化のように思われる。

結論を述べれば、「学生は就職活動においても消費者に徹している」、ということではないだろうか。つまり、学生はあらゆる事柄に対して「情報消費者」としてのみ行動しているということなのだ。言い換えれば、就職活動もコンビニ感覚(自分の好きなものを好きな時間に好きなだけ自分のものにする)ということであろうか。かつて、製造業に対する人材派遣業の役割は、「必要な時に必要な人材を」という雇用の調整弁であった。労働力を時間単位で切り売りする、という日雇い派遣の形態や感覚と同じことが、就職活動をする意識のどこかに、あるような気がしてならない。

必要な時に必要な就職活動をする、必要な時に必要な労働をしてお金を稼ぐ、というような感覚は、大学における就職支援の現場においても大いに感じる。その場ごとに帳尻が合えばよいという、今や自分の将来につながる就職活動においても発揮されるようだ。

若者のそろばん勘定は、長期化する経済環境や労働環境の悪化が、そのような考えを生む背景の一つであることは間違いのないことではあるが、それによってより根源的な部分での変化が起こっているように思われる。
かつての経済活動の優位的主導権は川上にあったが、現在では川下に移って、それはさらに個々人という「個」に移ってきており、決定権さえも移りつつあるのではないだろうか。その現象にどのように対処するのかが、大きな課題となって、行く手に立ち塞がっている。個別の消費者に対応した戦略や個別の学生に対応した、就職支援といった状況が本格化する中で、情報消費者としての若者をどのように取り込んでいけるかが、その壁を乗り越える鍵となることは間違いないと思われる。

伊藤 由美子[いとうゆみこ]さん

伊藤 由美子
[いとうゆみこ]

愛知みずほ大学 人間科学部専任講師

学校卒業後幾つかの企業転職を重ね、1997年10月愛知みずほ大学就職指導室へ入職、学生支援を続けながら、後2001年4月より人間科学部専任講師として講義を行なっている。

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