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第1回 高齢者の消費者被害を防ぐには財団法人消費者教育支援センター主任研究員 柿野成美[かきのしげみ]

 「お年寄りを騙すなんて絶対に許せません!」

 高齢者の消費者被害の現状とその対策をテーマにした大学の講義後、学生の多くはこのような感想を書きます。

 全国の消費生活センターには、高齢者に多い「お金」や「健康」の不安につけこんだ悪質商法の相談が数多く寄せられています。悪質な事業者は、法改正の網の目をくぐって、あの手この手で高齢者を狙い続けているのです。騙しのプロである悪質業者の手に、老後の暮らしを支える高齢者の預貯金が渡っていく現状に対し、「許せない」という感覚は、とても大切なことではないでしょうか。

 今から6年前、私は内閣府のプロジェクトで、高齢者の消費者被害防止を目的とした消費者教育の在り方を調査する機会がありました。

 印象深かったことは、高齢者ご本人を対象とした意識調査で、高齢者は消費者トラブルに対する被害者意識が薄いのではないかという傾向が見えたことです。悪質業者はやさしい言葉で近寄ってきて、孤立しがちな高齢者の話し相手になってくれます。自分の子や孫より頻繁に訪ねてきて、やさしい言葉をかけてくれる若い販売員を本当の孫子のように慕って、高額な契約をするケースも見られます。

 さらに調査では、被害にあっても誰にも相談しない高齢者像も見えてきました。被害にあったことを恥ずかしく想い、自分が悪かった、誰にも迷惑をかけたくないと「勉強代」として高額な費用を払い続ける方もいるそうです。

 この場合、従来のように高齢者を集めた講座を開講し、ご自身の学習を深めていただくことはとても重要ですが、それに加えてまわりの人たちが普段から様子を気にかけ、被害に気づいた時は、相談につなげる体制を整えることも欠かせないのではないか、という課題が見えました。

 この報告書は、翌年、「高齢者の消費者トラブル見守りガイドブック」として、高齢者のまわりの方々(主に民生委員、介護ヘルパーの方々)を対象にした教材へと発展しました。「見守るくん」という犬をキャラクターにして、高齢者と接する場面で想定される具体的な声かけをイラストで表現し、その事例の気づきと対応のポイントをまとめています。

 今年5月には、消費者庁ができて初めての消費者月間で「守ろうよ、みんなを!〜なくそう!高齢者の消費者被害〜」をテーマに、全国各地でイベントが行われました。中央では関連団体による見守りネットワーク連絡協議会を開催したり、先の見守りガイドブックが改訂されるなど、広がりを見せています。

 冒頭の学生の感想の中には、最後に次の一文が加えられている人がいました。
「離れて暮らしているおばあちゃんに、今日の話をしてみたいと思います」

 全国各地では、地域の消費者被害を減らすために高齢者の見守りや啓発活動に従事する方々も増えています。自分が被害にあわないようにする学習から、もう一歩踏み出して自分の家族や地域に暮らす高齢者に向けるやさしさが、問題解決の糸口になるのだと思います。

柿野成美[かきのしげみ]さん

柿野成美
[かきのしげみ]

財団法人消費者教育支援センター主任研究員

静岡大学教育学部卒業、お茶の水女子大学大学院修了後、平成10年より財団法人消費者教育支援センターに勤務。 これまで中央省庁や地方自治体等の教材作成や調査報告書、大学の非常勤講師、高等学校家庭科、中学校の技術家庭科の検定教科書などに従事。 学校や地域における消費者教育の普及を目指して、全国各地に講師として出向いている。

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