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第3回 アメリカの消費者教育の実践例から東京家政学院大学 非常勤講師 小野由美子[おのゆみこ]

 米国イリノイ州の人権擁護団体Sargent Shriver National Center on Poverty Lawに伺う機会が5年ほど前にありました。当時、そちらで実施していたプロジェクトの1つに、低所得者を対象にした家計管理支援(Financial Links for Low Income People)があり、責任者の女性の弁護士を訪ねました。お会いした際に初めて、彼女には日本での留学経験があったことを知りました。仲介者がいないにもかかわらず、私からの電子メールだけでご協力を即答して下さったことを、妙に納得したものです。

 彼女のプロジェクトの対象者の半数は黒人、2割ほどはヒスパニック系住民で、母国語は英語とスペイン語のほかに13言語もありました。経済的に厳しい生活に直面し、社会保障の知識が不十分で、高金利の貸金業者や両替商を日常的に利用し、銀行口座を持たない人が多数派です。そうした人たちに対して、行政機関や企業、研究機関が連携して取り組む民間主導の社会事業のあり方に大変刺激を受けました。

 イリノイ大学との協力で開発した教材は、家計管理や小切手の使い方、クレジット問題の解決、金融機関の利用、保険の選択、公的支援の利用などについて、小学校5年生程度で理解できる内容でした。この教材を使った研修を、イリノイ州内の大学のエクステンションサービス機関やファイナンシャルプランナーが請負い、スーパーで貼り出された事業広告などをみて興味をもった人々が参加するといった、とても興味深い取り組みでした。

 日本で銀行口座を持つことはそれほど難しくありませんが、海外では事情が異なるようです。先述のプロジェクトに参加した米国の低所得者をみると、25%の人しか預金口座を持っていませんでした。イギリスの社会保障の受給者2,300万人のうち、銀行口座を利用できるのはその4分の1とのことです。こうした金融機関を利用できない「金融排除(Financial Exclusion)」にある人々を「金融弱者」と呼ぶ人もいます。

 日本では少々驚くような消費者を取り巻く環境ですが、日本でも金融機関の店舗統廃合で利便性とサービスの低下を感じる人は少なくありません。こうした問題を改善するためには、社会システムを検討する方法と、消費者の生活そのものを軸にアプローチする方法があると思います。どちらかというと消費者教育は後者で、安全や選択などの消費者の権利を意識しながら、社会との関わりを前提に、主体的に生きていくための教育実践の積み重ねだと私は考えています。

 消費者庁のホームページに掲載されている「消費者教育体系化シート」は、ライフステージ(幼児期、児童期、少年期、成人期、高齢期)と領域(安全、契約・取引、情報、環境)別に、消費者教育を実践する上での目標が盛り込まれており参考になります。

 一方で、言葉や年齢、性別、障害の有無などを問わずに共有できる「ユニバーサルデザイン」が有効な事柄もあるように思います。これまでの私のエッセイで取り上げた知的障害者の方々を対象にした支援プログラムを検討する作業は、私達の生活に共通して必要な視点の気づきを得られる大切な機会だと考えています。

 最後になりましたが、浅学の身でありながら、消費者教育について自由な発想で書く機会を頂戴し、おつきあい下さいました方々に心から感謝申し上げます。

小野由美子[おの ゆみこ]さん

小野 由美子
[おの ゆみこ]

東京家政学院大学 非常勤講師

日本福祉大学大学院博士後期課程満期退学。横浜国立大学非常勤講師、国民生活センター調査研究員等を経て、2009年9月から消費者庁消費者安全課政策調査員。おたふくけん(多重債務者問題からみた社会福祉のあり方研究会)代表。

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