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第2回 特別支援学校で求められる消費者教育東京家政学院大学 非常勤講師 小野由美子[おのゆみこ]

 特別支援学校高等部の先生方にお話をうかがうと、知的障害のある生徒の学校生活も消費者トラブルとは無縁でないようです。

 たとえば、PASMOやSuicaといったICカードを定期券として持っている生徒が多くいますが、電子マネーとして自動販売機やコンビニで使う場面では「おごる、おごられる」といった金銭感覚が現金に比べると薄れてしまいます。

 学校にいる間は電源をオフにすることで携帯電話の所持を認めているところがほとんどですが、貸し借りをしている人も見かけ、料金設定を定額制としていない場合には通信料が高額となる問題につながりかねません。

 学年が上がると行動範囲も広がり、放課後には映画やカラオケを友達と楽しむ生徒も出てきますが、卒業生のなかには割り勘がうまくできずにトラブルになった事例もあると聞きます。障害者の法定雇用率が一般の民間企業では1.8%となり、就職する卒業生も少なくないことから、卒業後の生活を踏まえた消費者教育が求められているところです。

  携帯電話を契機とした消費者トラブルは、前回ご紹介した東京都消費生活総合センターの「ハカセといっしょに消費者の時間へGO!」でもポイントメントセールスをはじめとする事例がわかりやすく紹介されています。

 ほかに、レンタルビデオの滞納や、借金問題に巻き込まれる事例も支援者から聞きます。知的障害があると、日常生活に支障をきたす場面が少なくありませんが、障害の程度について他人からは判断しづらく、会話ができる人の場合は実際よりも能力が高い印象を周囲に与えるため、消費者トラブルに巻き込まれやすい傾向にあります。

 周囲で見守る家族や支援者のサポートのあり方を検討し、トラブルを未然に防ぐための具体的な取組みをされている方に、江國泰介さん(NPO法人やまぼうし・就労移行支援事業所れんげ・生活支援員)がいます。

 キャッチセールスにあわないための替え歌やロールプレイを中心とした講座は、五感をフル活用する学習スタイルとして参加者から好評です。収入や支出について数字ではなく1万円ずつの「ます目」を使って確認する「視覚化」作業は、抽象的な事柄が得意でない知的障害者には大変有効な方法です。お金についてリアルな感覚を持つことではじめて、貯金や保険に対する正確な情報が役立ちます。

 消費者トラブルを防ぐといった「自己防衛力」を養うだけでなく、「私はこうした生活をしてみたい。だからお金をこう使いたい」という思いを家族や支援者に伝え、周囲のサポートを活用しながら生活する術を具体的に学ぶことが知的障害者を対象にした消費者教育では重要です。生活費以外には缶コーヒーを買うぐらいしかお金を使わず、余暇はほとんどを部屋で過ごし、せっかくの貯金も使う機会がない施設入所者は珍しくありません。

 社会福祉の領域では生活の質(Quality of Life:その人にとって意義ある生活の過ごし方)の向上が目指されており、大切なお金をどのように使うかといった価値観にまで踏み込んで考えることは、知的障害者の消費者教育や家計管理の支援のあり方を考える際には欠かせない視点です。

小野由美子[おの ゆみこ]さん

小野 由美子
[おの ゆみこ]

東京家政学院大学 非常勤講師

日本福祉大学大学院博士後期課程満期退学。横浜国立大学非常勤講師、国民生活センター調査研究員等を経て、2009年9月から消費者庁消費者安全課政策調査員。おたふくけん(多重債務者問題からみた社会福祉のあり方研究会)代表。

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