文字サイズ変更
  • フォントサイズ大
  • フォントサイズ中
  • フォントサイズ小
閉じる
第4回生活設計のすすめ
流通科学大学商学部教授 田村祐一郎[たむら・ゆういちろう]

 だいぶ前のことである。ある老人クラブで講演を頼まれた。先方の話しでは、「会員は十数名、いずれも70歳以上ですが、みなさんお元気で好奇心一杯です」という。少考の末、テーマとして「生活設計」を選んでみた。多少は皮肉めいた気持ちがあったことは否めない。

 「生活設計シート」を持参して書き込んで頂いた。ご老人たちは熱心に記入し、「こんなに面白いものは初めて」と言われたものである。うかがってみると、「平均寿命まであと何年かある、幸い心身ともに壮健だから、短くても充実した人生を送りたい、それを考えるのにこのシートは実に役立つ」と言われた。なんとも恐れいったものである。

 「生活設計」というのは比較的最近の造語である。「人生設計」プラス「生活管理」プラス「資産運用」といった幅広い意味がこめられているが、どちらかといえば老後への準備、それも老後用の資産運用という意味合いがこい。

 ところで、日本人が初めて “自分の人生を目で見る”という体験をしたのはいつのことであろうか。おそらく昭和40年ころに営業職員さんが勧誘にさいして提示した「生活設計表」ではないだろうか。勤め始めた筆者を早速訪ねてきた職員さんが見せてくれたのを覚えている。実はこれを書くためにヒナ形がほしくて探してみたが、見つからなかった。もっとも、今ではフィナンシャル・プラニングでふつうに見かける「ライフサイクル表」のことである。

 記憶によれば、一枚の紙に表が印刷されていて、夫=父を一番上に、その下に順に妻=母、こどもたち、祖父母などを書きこむ。次に夫=父の年齢を基準に家族の重要な出来事が書き込まれる。例えば父○才の欄に子どもの小学校入学と書き、同じく○才で家の購入といったように書く。年収や大きな出費を書き込む欄もあったようにおもう。

 漠然と想像するのとことなり、この表によって一目で人生を「みる」ことができる。なるほど人生というのはやみ雲に前に進むものではなく、ときには立ち止まって自分と家族の人生や生活をふり返る一方、計画という要素を入れて未来を想うことができるし、そうすべきときがあることがわかる。人生をヴィジュアル化したという意味で、生命保険ははからずもその後の日本人の人生観に大きな影響を与えたように思う。

 ちなみに筆者もあと1年たらずで定年である。大学しか知らないから、別のことをしてみたいという思いがつよいが、それでは何をすればよいのか、未だに分からない。かつて講演を聞いて頂いたご老人にみならって「生活設計シート」に記入してみようか、そうすればいい智恵が湧いてくるかも知れない、と考えている昨今ではある。

プロフィール
田村祐一郎[たむら・ゆういちろう]氏

田村祐一郎
[たむら・ゆういちろう]氏

流通科学大学商学部教授

専攻分野
保険;リスク・マネジメント

学歴
昭和42年、神戸大学大学院経営学研究科商学専攻修士課程修了、平成2年、商学博士(神戸大学)。

職歴・経歴
昭和42年小樽商科大学講師、46年助教授、49年長崎大学助教授、58年教授、平成元年姫路独協大学教授を経て、11年流通科学大学商学部教授、現在に至る。
著書
「生活と保険―生活保障システムにおける生命保険」
「社会と保険―社会・文化比較の鏡としての保険」等多数
訳書
モートン・ケラー「生命保険会社と企業権力」等

閉じる
発行/(財)生命保険文化センター Web Design/Ideal Design Inc.