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かづきれいこさん メイクアップには心を元気にする力がある フェイシャルセラピスト かづきれいこさん

「リハビリメイク」「フェイシャルセラピスト」という言葉を世に広め、その実践を通して、やけどや傷あと、体のアザなど外見上のトラブルを抱える人の心を救ってきたかづきれいこさん。メイクアップには見た目の美しさではなく、心を元気にする力があると言う。自身が、生まれつき心臓に穴が開いていたことが原因で、冬になると顔が真っ赤になることに悩み、コンプレックスをいだく女性だった。顔と心の関係を、自分の経験を通して学び続けてきた。その精力的な活動には、日本人の美意識さえ変えようというパワーがある。

メイクアップで変えることができる自分。その自信が新しい人生の一歩に
かづきれいこさん やけど、事故や手術の傷あと、アザなど、顔や身体に外見上のトラブルを持つ人のための化粧を「リハビリメイク」と名付け、独自に技術を開発し、全国に広めてきました。施術・指導例は、この20年間で3万人以上にのぼります。
 リハビリメイクは、傷やアザを隠すことを目的にしているのではありません。メイクでいつでも隠せるという自信をもつことで、自分の素顔を受け入れ、元気に生きていく力をつけることが大切なんです。つまり、最終的には元気に社会に復帰し、自身のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を高めていただくことが狙いです。だからこそ、あえて「リハビリ」という名前をつけました。
 たとえば、口唇裂の手術の痕にコンプレックスをもっていて、それが原因で、ずっと結婚せず、働く意欲もわかずに無職のままでいた43歳の男性がいました。リハビリメイクで、その痕はすっかり目立たなくなりました。血流マッサージと眉を整えることで顔全体の印象も若く見えるようになりました。そのとたんに自分に自信が蘇ってきて、働く意欲が芽生え、仕事を探し始めるようになったのです。
 あるいは、顔に大きなアザをもって生まれた若い女性。「お姉ちゃんはきれいなのに、どうして私だけ」と、小さいときからずっと親を恨んできたといいます。リハビリメイクをするうちに、みるみる表情が変化してきました。メイク完成後は「ほんとはお母さんを恨んでなんかいない」とぼろぼろと涙を流されました。リハビリメイクにより、自分の人生を肯定する気持が生まれてきたのです。その力でそれまでの長い間の心のつかえを取り払うことができたのです。
ホンモノとウソを瞬時に見抜く繊細な心の持ち主たちを前にして
リハビリメイク外来は一対一で行われ、みるみる患者の表情が変わっていく 誰だって自分の顔とは一生のつきあいなんですから。他の人を恨んでいても仕方がありません。自分自身を受け入れ、つき合っていくしかないんです。
 だから傷跡を隠しているうちは、まだコンプレックスから解放されたとはいえないでしょう。
 リハビリメイクには、患部を隠す技術だけでなく、相手の「美」を瞬時に見きわめ、引き出す能力が必要です。外来では最初にほぼ完璧に患部を隠して、その人ならではの「美しい部分」を強調します。そのことで自分の顔を「きれい」だと思えるようになり、好きになるんですね。その時、はじめて患部が気にならなくなるんです。その後徐々にメイクを薄くしていき、その分、チャームポイントを強調するメイクを教えていきます。そうすると、傷があっても魅力的な自分を少しずつ発見していくようになるんです。
 患者さんには「メイクはメイクです。落としたら傷は出てくる、そのことを忘れないように」と言います。ありのままの自分を受け入れてもらいたいからです。そのかわり練習すれば必要な時に自分で隠せるようになるという自信がつくと、傷のあることが気にならなくなるんです。
 患者さんの傷の様態はさまざまでも、トラウマを持ち、心が硬い皮に閉ざされている人がほとんどです。そうした人々は、他者に対してとても警戒心が強く、敏感です。これまでも、下手な同情や哀れみに、いやというほど接してきた人たちなのです。だから、自分が接している人間が、ホンモノなのか、ニセモノなのか、瞬時に見抜いてしまいます。
 下手に同情心だけで近づこうものなら、「あなたがアザをつくれば、わかるわよ」と、さらに心を閉ざしてしまいます。けれども反対に、「ああ、この人はホンモノなんだ」ということがわかれば、次第に心を開いてくださいます。
リハビリメイクのキッカケは生まれつきの心臓病を克服した体験
かづきれいこさん 私自身が、生まれつきの心臓病で、寒い季節は血流が悪くなり、顔が真っ赤になってしまうという症状に子どもの頃から悩んできました。イジメにも遭い、「顔より心が大事」と言われても、きれい事に過ぎません。短大に入り、赤い肌を隠すための厚塗りのお化粧で顔を上げて歩けるようになると、“顔と心と体は実は密接に繋がっているんだ”と、思うようになりました。
  その後、結婚して、30歳のときに心労で倒れた時に、心臓に穴が開いていることがわかりました。手術を受けて完治し、冬でも顔が赤くならなくなり、体も羽が生えたように軽くなって、すっかり解放されたことを覚えています。それから美容学校に入学し、本格的に勉強し始めました。
 メイクのおかげで自信をもてるようになった私自身の経験があるからこそ、トラブルをしっかりカバーしながら、短時間でできるメイクの技術を学んで、必要としている人に伝えたくなったのです。
 ただ、日本のメイクアップというのは、流行やおしゃれの方ばかりに関心が向きがちで、心を元気にするということは、あまり追求していません。そこで、独自に研究を重ね、一般に使われるのと同じ化粧品で、本人の負担にならない、くずれにくいメイク法を考案しました。
 こうした技術は、傷跡のメイクだけでなく、老化によるシミやシワなどにも応用できるものです。たんに外見上のテクニックとして有効というだけでなく、メイクによって元気になると、内面にオーラのようなものが生まれて、それが見た目の老いをカバーしてくれるのです。
「メイクは人を元気にする力がある」──そのことに気づいた私は、その後、リハビリメイクの考え方や技術を伝えることを、自分のライフワークにしました。
 カルチャーセンターの講師として、活動を開始。メイクボランティアにも力を入れ、今でも老人ホームや少年院、更正施設などに伺っています。
 活動も広がり、現在では全国で約140か所のカルチャーセンターで講座ができ、大学の授業にまで広がりました。
 メイクを指導するために教材として化粧品を開発し、その中のひとつに「かづきイエロー」があります。赤味やシミを目立たなくし、肌に透明感が出る色です。最近では傷跡などの凸凹はメイクでは限界があるため、テープメーカーと共同で「かづき・デザインテープ」というものをつくりました。伸縮性がよくて肌の動きにぴたっと密着し、そのうえ目立ちにくくテカらないので、テープの上からもメイクができます。今ではアンチエイジング方法にも応用しています。
医療機関と連携しながら、生涯学び続け、教え続ける
大学での講義の様子。学生にも人気の講義 1995年からリハビリメイクを研究し始め、2000年から大学病院等でボランティアを行ってきました。近年、日本医科大学や東京女子医大、大阪市立大学医学部付属病院にはリハビリメイク外来が開設されました。先生方のお力のおかげでメイクがエビデンス(研究データ)となり学会発表し、論文ができました。こうしたことが実現できたのは、医療機関の協力があってこそです。「顔を美しくするのではなく、心を元気にすることが大切」という私の考え方に賛同してくださる方が徐々に増え、何より「これからの医療に必要だろう」と言ってくださるお医者様の声が私の励みになりました。
 おかげさまで、現在は講演などで全国を忙しく飛び回っています。しかし私1人では全国で必要としている人にメイクはできません。そのためインストラクターの養成にも力を注いでいます。
 リハビリメイクというちょっとしたきっかけが、その人のその後の人生を明るく変えることに繋がれば、これほど嬉しいことはありません。私のメイクはオリジナルで師匠はいません。今までお会いしたすべての生徒さんが私の先生でした。
 私も今年で57歳になります。みなさん、そんな歳には見えないとおっしゃってくださいますが、エステも特にしていないし、毎朝、ふつうにメイクするだけです。でも、朝のお化粧をしているとき、気持がシャンとなるんですね。そういう気持の変化こそが、アンチエイジングの最大の秘訣じゃないかしら。
 こうした顔と心と体の関係、人の外観と社会との関係については、もっともっと研究していきたいと思います。2008年から早稲田大学の感性領域総合研究所というところで客員教授をさせていただいています。テーマは「外観の社会学」。若い学生たちと触れあうことで、私もまた元気をもらっています。
かづきれいこさん かづきれいこさん

リハビリメイクを通じて、多くの人が抱える問題にメンタルな面からも取り組むフェイシャルセラピストでもあり、またその養成に力を注ぐ。女性の側に立ったユニークな理論は、多くの女性に支持されており、広い世代の雑誌やTVなどで活躍。また、学会誌にリハビリメイクに関する論文を発表し、メイクの価値を高めるために企業、病院、大学、学会、公共団体などで講演活動を実施している。NPO法人フェイシャルセラピスト協会理事長 新潟大学歯学部臨床教授・早稲田大学感性領域総合研究所客員教授・東京女子医科大学非常勤講師・日本医科大学形成外科学教室非常勤講師・大阪市立大学大学院医学研究科形成外科学非常勤講師・大阪大学歯学部招へい教員・広島大学歯学部非常勤講師・日本歯科大学新潟生命歯学部歯科矯正学講座非常勤講師、他に創業ベンチャーフォーラム幹事でもある。

かづきれいこ公式ホームページ「REIKO KAZKI」

発行/(財)生命保険文化センター Writer/広重隆樹 Photo/田中誠 Editor/宮澤省三(M-CRUISE) Web Design/Ideal Design Inc.
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