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第6回 恋愛という病
作家・医学博士 米山公啓エッセイ
「今年は講演が多く、母校でも10年ぶりの講演」

 ある精神科の先生と話をしていたら、今、結婚障害という言葉があるのだという。つまり独身の男性が増えているのは、一種の精神的なものが問題で結婚できないのではないかというのだ。
  つまり恋愛のできない男性が増えているというわけだ。
  いま見合いという、半ば強制的な結婚システムがほとんどなくなってしまったので、恋愛ができないと結婚できなくなってしまったのだ。
  ところが恋愛の方法はだれも教えてくれない。だから、女性とつきあっていくのが苦手な男性は、なかなか恋愛から結婚というコースへ進めなくなってしまったのだ。
  これだけ自由に恋愛ができる時代になって、かえって恋愛ができないというのだから不思議な感じがする。
  私が大学病院時代はまだ携帯電話がなく、院内のポケットベルが連絡を取る方法だった。今なら、メールも携帯もあるのだから、彼女からメールアドレスさえ聞き出せば、いくらでも、つきあっていくチャンスは作れるだろうにと思う。連絡を取るには、ずいぶん楽?になったように思うがそうでもないようだ。
  先日、恋愛をテーマに男性を対象に講演をしたが、実に反応がなかった。
  いつもは認知症予防の話で、場内の反応はいいのだが、あれほど最後までシーンとしていた講演会は初めてだった。
  それだけ真剣なのか、あるいは感情表現できないところに問題があるのか、よくわからなかった。
  その講演会の後半は、女性陣たちとのちょっとしたパーティがあった。しかし、そこでも圧倒的に女性のほうが積極的で、女性のほうから連絡先を男性から聞きだしていた。
  時代は変わったようだ。あるいは、そういった会に出てくる男性に問題があるのかわからないが、とにかく女性のほうが真剣で積極的である。

 私はあるWEBサイトで結婚相談や恋愛相談をやっているので、恋愛や結婚の悩みを聞くチャンスが増えた。その悩みに対して、大脳科学的なアドバイスをしている。
  脳科学の面から恋愛をきちんと研究している機関はない。日本の医学研究はあくまで病気が主体だから、恋愛は病気ではないので、だれも研究費を出さない、だから研究もできないというわけだ。
  日本の医学研究の欠点でもあるが、健康な人のデータがあまりに少ないのだ。
  アメリカでは恋愛中の脳の変化を研究していて、明らかに脳の中に変化が起きていることを証明している。つまり医学的にみて、恋愛は一種の病的状態とも言えるのだ。
  だからこそ、大脳科学的なアドバイスは意味があるということになる。
  結婚できない最大の理由は、自分を客観視できずに理想が高いということである。これは他の結婚相談所でも同じようなデータがある。
  選択が増えると幸福になれないとか、満足度が下がってくるという研究もある。
  つまり、何人もの人に会って、お見合いをしていると、たとえ結婚しても、あの人にしておけばよかったと損失感のほうが大きくなってしまい、結婚しても後悔することになる。現代は多くの人に会えるチャンスは作ろうと思えば作れるのだが、そのために比較ばかりして、自分の理想はますます高くなっていくので、理想の結婚相手は永遠に見つからなくなってしまうわけだ。
  「給料の倍の法則」というのがまだあるようだ。これは500万円の年収がある女性が結婚する場合、生活レベルを維持するには2人分必要と考え、年収1000万円の相手を望むというものだ。
  ところが、そういった高給取りはとっくに結婚しているので、いくら探してもいないというわけだ。
  その恋愛講演のパーティで、参加した女性たちと話をしたが、「やはり顔がよくないとダメです」という。
  見てくれが第一選択基準であることに驚いてしまうが、話をする前ではそれしか選択基準がないので、しょうがないと言えばしょうがない。

「恋愛中の脳の中」by yoneyama

 私は脳科学の視点から男脳や女脳の違いを本に書いてきたが(「なぜ女は「しゃべらない男」にイライラするのか?」中経の文庫)、よくよく考えれば、恋愛、結婚というものを大学でも社会でも教えてくれない。あくまでも実践的に学んでいくしかないところがおかしいように思う。
  人生において恋愛や結婚は非常に大きな問題である。ところが結婚式をどうするか新婚旅行はどこへ行くかという情報は山ほどあるが、正面切って恋愛はこういうもの、結婚とはこんな問題があるというような講義を聴くチャンスはない。
  テレビドラマでは、ワンパターンの恋愛ドラマであり、結婚がゴールで終わってしまう。ところが、実際の人生は結婚から全く違うものが始まることをだれも教えようとしない。
  病気がらみの純愛小説(「世界の中心で愛を叫ぶ」など)がいまだに売れていて、読みたい気持ちはわかるが、それは実際の人生には役立たない。
  映画「卒業」が、私の青春時代の恋愛映画であるが、当時、世の中の規制を打ち破って、好きな人のところへ走っていくというシーンが新鮮であった。
  「卒業」は決して純愛映画でもなく、自分の好きな女性の母親と不倫関係になるというストーリーで、なかなかリアリティの高い映画だった。
  恋愛は脳科学的にみれば、異常な状態である。相手のすべてを許し、理性でコントロールが利かなくなり、欲望のままに突っ走ってしまう。
  脳内ホルモンの影響で、一緒にいなければ、満足できなくなって、暴走を続けるようになる。
  しかしどうも最近はその恋愛という暴走ができなくなったのか、理性がコントロールしてしまうのか、大恋愛という言葉は死語になりつつあるように思う。 
  恋愛は子孫を残すための、遺伝子に組み込まれた仕組みである。
  子育てのし難い社会に育ってきていると、意識的にブレーキがかかってしまい恋愛をしなくなってしまうのかもしれない。
  社会が安定してしまうと、子孫を残すという意識が薄れていくのかもしれない。人類が危機的状況であれば、遺伝子が作動して、子孫を残せという命令を出し始めるのかもしれない。
  恋愛講座に来ていた多くの男性は、どうもその遺伝子のスイッチが入っているとは思えなかった。
  少子化が問題にされるが、恋愛、結婚ということを医学的にきちんと研究すべき時が来ているのではないだろうか。

プロフィール
米山公啓(よねやま きみひろ) 氏名:米山公啓(よねやま きみひろ)
生年月日:1952年5月10日 出身:山梨県甲府市生まれ、 愛知県岡崎市・東京都福生市育ち 身長・体重:180cm・87kg 職業:作家、医師(医学博士)。
【専門】神経内科。脳卒中、認知症、老人医療、健康論、医療経済。
超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・痴呆問題にも取り組む。外勤先の天本病院(東京都多摩市)にて在宅医療にも10年以上参加。健康管理部において、ニコチンガムを使った禁煙教室を実施した。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職。本格的な著作活動を開始。
【執筆活動】1990年に看護雑誌(エキスパートナース)にエッセイの連載を始めたのをきっかけに、現在では医学ミステリー、小説、エッセイ、医療実用書などを手がける。 年間10冊以上のペースで書き続けている。
代表作:『医者の半熟卵』、『医者の個人生活366日』、『午前3時の医者ものがたり』(集英社文庫。『もの忘れを防ぐ28の方法』、『脳が若返る30の方法』(中経出版)などが10万部を超えるベストセラーに。また『健康という病』(集英社新書)も5万部を超える。
「米山公啓のホームページ」 http://yoneyone.com

新刊:『脳がどんどん若返る生活習慣』(ソフトバンク新書)

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