松本すみ子エッセイ〜中高年のライフスタイルに見る新たな生き方〜
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[第3回]おとなのためのグルメ〜メタボだって、美味しいものは食べたい!〜シニアライフアドバイザー・(有)アリア代表取締役 松本すみ子
美味しいものは人を幸せにする
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を防ぎ、国民の健康を守るという目的で、今年から新しい健康診断「特定健診・保健指導」が始まりました。メタボ扱いだけはゴメンということで、お腹周りを減らそうと、食事を控え、にわかウォーキングやフィットネスクラブで運動にいそしんでいる方々も多いのではないでしょうか。

私もなんとかメタボの烙印だけは逃れたいと必死ですが、食欲はそう簡単に抑制できるものではありません。食べることは本能。その喜びは人が生きていく上で大切なものだからです。

さて、“食の喜び”という話になると、思い出すのは1987年にデンマークで製作された「バベットの晩餐会」という映画です。その年のアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞したので、ご存知の方もいることでしょうが、ざっとあらすじを紹介しましょう。

北国の侘しい海辺の村に暮らす老姉妹の家に、一人の女性がやって来ます。フランス革命で夫と息子を殺され、命からがら逃げてきたバベットでした。家に置いてもらうお礼にと、いつしか料理はバベットが担当することに。その料理がすばらしく美味しいのです。村のお年寄りたちもいつしか心待ちにするようになります。

ある日、宝くじに当たったバベットはすべての資金で最高級の食材を買い込み、自分を受け入れてくれた老姉妹や村人を招いて晩餐会を催します。しかし、村人たちは生きたウズラや海がめなど、見たこともない食材に仰天。晩餐会では、どんなに奇妙な料理でも一切感想は語らないようにしようと話し合うのです。

そして、晩餐会の日。次々と出される料理に、人々は黙っていることなんかできなくなります。料理を口にする度に、頬はひとりでに緩み、幸せな気分がよみがえってくるのです。そして、このバベットこそ、実はパリの有名レストランのシェフだったということが明かされます。美味しいものを食べるときの人々の幸せそうな顔、顔。誰かが「心にも美味しい映画」と言っていましたが、その通りだと思います。
外食は“害食”?
つきじ田村の料理 その丹精込めた料理を“害食”と言われて、一念発起した料理人がいます。老舗の割烹として知られる「つきぢ田村」の3代目・田村隆さんです。きっかけは、ある日、店にやってきた年配のグループ。懐石コースを注文したものの、全員揃って、どの料理も決まったように半分残したのだそうです。腕に覚えのある料理人としては、とてもショックな出来事でした。

聞いてみると、その会は糖尿病患者への食事指導の会でした。患者さんを連れてきた院長は“外食は害食”と教えている人で、適正なカロリーにするために、外食は半分残すという訓練をしていたと言うのです。この言葉に、3代目は燃えました。「病気の人でも安心しておいしく食べられるものをつくってみせる!」

日本料理は比較的ヘルシーですが、会席コースをすべて平らげれば、やはり1,500キロカロリーは超えてしまいます。どうしたら、カロリーが低くても美味しい料理が作れるか。工夫に工夫を重ねた結果、とうとう750キロカロリーの会席料理を作ることに成功しました。
その後、その糖尿病患者の食事会は決まって、つきぢ田村で開催されることになりました。そして、高いお金を出しながら恐る恐る食べていた料理は、“残すもの”から“楽しむもの”に変わったのです。3代目は「喜んで食べてくれるお客さんを見ていると、努力した甲斐があったというものです」と話してくれました。

美味しいものを味わうことが、人の心を満たし、人生まで豊かにしてくれるということは、この例でもわかります。ちなみに、このローカロリー会席料理は、2〜3日前に予約をすれば食べることができます。

よく年を取ってからは「粗食がいい」と言われますが、粗食ばかりでは、栄養不足で体力が落ちたり、病気を引き起こす原因になることもあります。年をとったら、低カロリーで高たんぱくな食事を適宜とることが健康維持には大切なのです。

普段、食事に気をつけようとしても、普通の人は、栄養に関する知識をあまり持っていません。そこで、カロリーが関心の的となります。それを受けて、最近はスーパーや百貨店の店頭でも、カロリー表示をしたお惣菜なども多くなってきました。できれば、塩分の表示もしてもらいたいものです。

そういう話を食品会社の人にしたら、カロリー表示をしたら、売れなくなるのではないかという答えが返ってきました。そうでしょうか。たとえば、ケーキなどの洋菓子はバターやクリームを使っていて、高カロリーということは十分知っています。しかし、どうしても食べたいときがあり、そのときは1日の総摂取カロリーで調整して食べるでしょう。表示してあれば、むしろ買いやすいのではないでしょうか。
ローカロリーとアンチエイジングメニュー
ブフドールのひと皿 時にはおしゃれをして、家族や友人・仲間と食事に出かけ、楽しく、美味しいものを食べたい。でも、カロリーや塩分が心配。こんな人たちは、今後も増えていくことでしょう。つきぢ田村と同じように、その人たちに合ったメニューを提供しようという動きは、ほかでも始まっています。

東京高輪にあるホテルパシフィック東京のフレンチレストラン「ブフドール」では、360キロカロリーのフレンチフルコースを提供しています。30階からの眺望がすばらしいレストランでは、前菜にはじまり、スープ、魚料理、肉料理、そしてデザートまでフルコースで食べられます。

ここの料理が素晴らしいのは、カロリーが低いだけでなく、塩分も2.2グラムしかないこと。もちろん、料理は本場フランスで修行をしてきた一流のシェフが考案し調理したもの。こちらも、予約すれば誰でも食べられます。

また、アンチエイジングメニューというものも登場してきました。サーモンやオリーブオイル、香草など、老化や認知症を防ぐ成分を含む食材を使い、体にいいメニューを提供するのは東京のアンチエイジングレストラン「麻布十八番」。また、東京駅近くのイタリアンレストラン「カノビアーノ東京」にも、アンチエイジングコースがあります。

病気やメタボだからといって、じっと我慢して、食べたいものも食べないという時代は、もう終わるのかもしれません。年をとっても豊かな食生活を体験できる、これからのシニア世代はなんと幸せなことでしょう!
プロフィール
松本すみ子さん松本すみ子(まつもと・すみこ)
早稲田大学第一文学部東洋史学科卒業。IT業界で20数年、広報、販促、マーケティングを担当。2000年、団塊/シニア世代の動向研究とライフスタイルの提案、コンサルティング、執筆などを主要な事業とする有限会社アリアを設立。2002年9月、シニア世代の仲間づくり・活躍の場づくりの会「おとなのオピニオンコミュニティRyoma21」を主宰。2007年、NPO法人シニアわーくすRyoma21となる。
日経BP社の情報サイトnikkeiBPnetにて「団塊消費動向研究所」、「団塊世代のための定年準備講座」を連載中。また、nikkeiBPnetのシニアサイト「セカンドステージ」にて、プロデューサーとして企画制作を担当している。
著書に、「そうだったのか!団塊マーケット」、「心理系の仕事を見つける本」などがある。
発行/(財)生命保険文化センター 企画・編集/宮澤省三(M-CRUISE) Web Design/Ideal Design Inc.