松本すみ子エッセイ〜中高年のライフスタイルに見る新たな生き方〜
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[第2回]ふたたび、学びの季節〜これからどこで学びたいと思いますか〜シニアライフアドバイザー・(有)アリア代表取締役 松本すみ子
大学にシニア専門の学部が誕生
岩手大シニアカレッジの卒業式 2年ほど前、60歳になったばかりの知人の女性から「大学院に入りました」というメールが届きました。それによると、ある大学の通信制大学院人文学部教育専攻課程に合格したというのです。彼女は、ご主人の転勤に伴い、地方に転居しました。今後も転勤があるとすれば、通信制の大学院を選ぶのは賢い選択です。通学が難しい人には、こういう方法もあるのだなあと感心したものです。

しかし、その2年後の今年3月には、彼女からもっと驚くようなメールが届きました。今度は、「某保健福祉大学大学院博士課程への入学が許可されました」というもの。研究テーマは、「高齢者の地域でのグループ活動で老人性うつの発症を予防できるか」だそうです。彼女の勉学意欲は着々と達成されているようで、メールは「なにより勉強が好きなんです」と結んでありました。

加齢に伴い肉体は衰えますが、知性はむしろ蓄積されていきます。暗記力や瞬発力は衰えても、年齢と共に判断力や分析能力は高まり、若いときには理解できなかったことが、理解できるようになったりします。これから定年を迎える団塊世代も、彼女のように、多くが学びの場へ向かうでしょう。

この4月、立教大学に50歳以上を対象にした「立教セカンドステージ大学」が開講して話題になっています。聞くところによると、資料請求者は約1,000人、そのうち応募した人は170人、さらに書類選考と面接を経て、実際に入学した人は96人(男性50人、女性46人)だったそうです。

入学者の平均年齢は約60歳(男性62歳、女性59歳)。驚いたことに、80歳代が2人もいました。もっと驚いたのは、現役で仕事を持っている人が23人も入学したこと。人は50歳を超えたあたりで、人生後半の生き方に思いを馳せるようになります。そういう意味で、このあたりで学び直しと再チャレンジをしたいという気持ちになるのかもしれません。
信州大シニアカレッジでの授業風景 今までも、多くの大学が社会人を対象として、カルチャースクールの拡大版ともいえるオープンカレッジやエクステンションセンターという形の学びの場を提供してきました。しかし、最近は、それとも少し違った動きが始まっています。それは、学部や大学院に中高年枠を設定し、正規の学生として受け入れるという試みです。

立教セカンドステージ大学もそのひとつの動きなのです。同大では座学だけではなく、旅行会社、自治体、企業などとタイアップして、海外や地方の文化、歴史を体感できる実習も取り入れるとか。また、授業は昼間だけでなく夜間にも行い、1年の本科修了後に、希望者はさらに専攻科へ進学することもできるそうです。

実は、このような中高年入学の先駆けといえるのが国立の広島大学でした。広島大学は2001年から、50歳以上の学生の受け入れ枠を設ける「フェニックス方式」を始めました。また、埼玉大学も06年度から、経済学部夜間コースに50人のシニア枠を設けました。埼玉大学も国立大学です。

国立大学といえば、団塊世代が受験したころには難関校でした。合格すれば、「国立に入れたなんて、すごいねえ」と言われ、先生も友人も親も一目置いてくれたものでした。その国立大学がなぜ今、中高年世代の受け入れに熱心なのでしょうか。
入試のハードルは低く、負担は軽く
北大シニアカレッジでのウェルカムパーティー 団塊世代の若いころとは違い、今の日本は少子高齢社会です。加えて、都市への人口集中化が進んでいます。大学はどこも若い世代の学生を集めるのに四苦八苦しています。これは国立大学も例外ではありません。特に、地方にある大学にとっては。そこで目をつけたのが、まだまだ若くて元気で向学心にあふれた団塊世代を中心としたシニア世代というわけです。

もちろん、私立大学でも同様です。こうした取り組みに共通するのは、入学選考のハードルを低くしていることです。暗記問題などは、大人はとても18〜19歳の若者にかないません。しかし、今までの社会経験で培った知識や経験では負けません。そこで、シニアの入学試験は学習動機や社会経験を重視したものとなっています。

立教セカンドステージ大学でも、出願書類は履歴書、課題エッセイ、年齢を証明する書類の3種類だけです。また、例えば2年間の履修期間を4年間に延ばすとか、経済状況を考慮した授業料の負担軽減策などの優遇策を設けた大学もあります。入学のハードルを低くし、多くの中高年世代の関心を集めようとしているのです。
ハードルは入試だけではありません。収入のないリタイア世代には、大学の入学金と学費は大きな負担となります。そこで、少しでも負担を減らして、入りやすくする工夫も始まりました。立教セカンドステージ大学も、登録料8万円に年間受講料25万円と、比較的負担の少ない金額に設定されています。

また、関西国際大学は60歳以上を対象に、シニア奨学金、学費分割納入制度などを利用できる「シニア特別選考」を実施しています。大阪商業大学は、社会人入試の合格者のうち55歳以上を対象に、年齢に1万円をかけた金額(60歳の場合は60万円)分の学費を差し引く制度を設けています。シニア世代には嬉しい制度です。

さて、大学の動きで、もうひとつ目新しいニュースといえば、国立大学とJTBが協力して開催している「シニアサマーカレッジ」があります。このプログラムがスタートしたのは2006年。まず、山口大学と弘前大学が夏休みの2週間をシニア世代に開放しました。これが好評だったこともあって、翌07年には、参加する国立大学が5校に増加。そして、最近発表された08年度の計画によれば、「シニアカレッジ」と名称変更し、新しく琉球大学、さらに初めての海外ロケーションとして、台湾大学が参加するとのことです。

このような大学の取り組みは中高年世代にとっても大歓迎でしょう。もともと欧米などでは、一度社会に出てから、さらに専門知識を高めるために入学してくる社会人学生が珍しくはありません。でも、日本では、そういう形での学びと働きの相互作用が実現しにくい状況にありました。

だから、リタイアを契機に「大学で学んでみたい」、「もう一度大学で学びなおしたい」という潜在的な願望を持つ人が多いのではないでしょうか。カルチャーセンターでは満足しないような人には、よりアカデミックな大学での学びが魅力的に思えるのでしょう。
これから来る“第二の就学期”。あなたはどこで、何を学びたいと考えているでしょうか。その思いは、決して実現不可能ではないのです。
プロフィール
松本すみ子さん松本すみ子(まつもと・すみこ)
早稲田大学第一文学部東洋史学科卒業。IT業界で20数年、広報、販促、マーケティングを担当。2000年、団塊/シニア世代の動向研究とライフスタイルの提案、コンサルティング、執筆などを主要な事業とする有限会社アリアを設立。2002年9月、シニア世代の仲間づくり・活躍の場づくりの会「おとなのオピニオンコミュニティRyoma21」を主宰。2007年、NPO法人シニアわーくすRyoma21となる。
日経BP社の情報サイトnikkeiBPnetにて「団塊消費動向研究所」、「団塊世代のための定年準備講座」を連載中。また、nikkeiBPnetのシニアサイト「セカンドステージ」にて、プロデューサーとして企画制作を担当している。
著書に、「そうだったのか!団塊マーケット」、「心理系の仕事を見つける本」などがある。
発行/(財)生命保険文化センター 企画・編集/宮澤省三(M-CRUISE) Web Design/Ideal Design Inc.