松本すみ子エッセイ〜中高年のライフスタイルに見る新たな生き方〜
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[第1回]大人に復活する音楽の楽しみ方〜聴くより、見るより、参加型〜シニアライフアドバイザー・(有)アリア代表取締役 松本すみ子
 日本の歴史の中で、今のように、中高年齢者が脚光を浴びた時代はあったでしょうか。ほんの少し前まで、市場調査の対象となる年齢は59歳まででした。それが今では、シニア層は若者に次ぐ、重要なマーケットとなっています。その元となったのは、やはり突出して人口の多い団塊世代です。
  団塊世代は厳密には1947〜49年の3年間に生まれた約700万人のことですが、今では50年、51年生まれも入れることが多いようです。そうすると、人口は約1千万人です。この人たちの動向は無視できません。彼らの青春時代は日本の新しい文化の幕開けでした。欧米の影響を色濃く受け、独自の文化やライフスタイルが花咲きました。
  その世代が、もう一度、自由な時間を手に入れようとしています。彼らがシニアになった時、どのような生き方を選択するのでしょうか。今までのようなステレオタイプのシニア層をイメージしていていいのでしょうか。
そんなことを思いながら、今回から3回に渡って、団塊世代の新たなライフスタイルのカタチを探ってみたいと思います。
「青春の音楽」を取り戻そうと動き出している団塊世代
ライブハウスでは夜な夜な、「オヤジバンド」が出現 いよいよリタイアする団塊世代は、各方面から大きな期待が寄せられている一方で、一般に、男性は仕事一筋の人が多く、自分自身の趣味や特技を見つけることは苦手な人が多いと言われています。確かに、その傾向もあるのですが、どうして、どうして、人生を愉しむ術を心得ている人も少なくはないのです。そのひとつが音楽の楽しみ方です。

以前、東京・赤坂にあるライブハウスを取材したことがありました。この店のお客さんのほとんどはスーツ姿のサラリーマンらしき中高年男性。最初は、みな静かにウィスキーの水割りなどをチビチビなめていますが、適度にアルコールがまわった頃、その中の2人ほどが動き出します。

背広を脱ぎ、ネクタイを外し、舞台に上がったと思ったら、ギターを抱え、音の調整を始めました。すると、もう1人がドラムの前に。最初の男性が「今日はベースギターがいないんだけど、誰かやってくれませんか」と呼びかけると、それに応えて、客席の後方から、誰かの手が上がりました。こうして、この夜だけの“にわかバンド”が出来上がったのです。

そして、エレキギターを響かせて、ベンチャーズやグループサウンズの演奏が始まりました。演奏中の彼らは、とても、先ほどまでの“しがない中高年”には見えません。店内は拍手喝采。何より演奏した本人たちが大満足です。思う存分演奏した後は、同じような別のグループが引き継ぎます。こうして、夜な夜なオヤジたちの演奏は繰り広げられていくのです。

団塊世代の男性は、現役時代は“働き蜂”とか“ワーカホリック”などと言われ、文化や芸術に親しむ機会を失っていました。これは彼らだけのせいではありません。日本の社会が高度成長を維持するために、男性は“企業戦士”として、女性にはそれを支える“専業主婦”としての役割を求めた結果でもありました。しかし、その役目もひと段落しつつあります。今、彼らは若い日の浮き立つような気分を取り戻そうとしているのです。
団塊世代は10代の最も多感な時期に、ビートルズやベンチャーズ、ローリングストーンズといった欧米の音楽の洗礼を受けました。それに影響されて、ギターを弾いたり、アマチュアバンドを組んで活動していた若者もたくさんいました。グループサウンズや反戦フォーク、カレッジフォークなどというジャンルも経験しています。音楽には多くのメッセージが込められ、当時の若者にとっては自己主張の手段のひとつでもありました。

もうひとつ、団塊世代の音楽として忘れてならないものに、ジャズがあります。学生時代は「ジャズ喫茶」が全盛でした。町のいたるところにジャズ喫茶があり、主にアメリカのジャズミュージシャンによるレコードが流れていました。当時の全盛はジョン・コルトレーンやMJQ(モダンジャズカルテット)などの即興的なジャズ。コーヒー1杯で、ひたすら粘ったものです。

子育ても仕事も、ある程度のメドがつき、自分自身を振り返る余裕がでてきた時、こういうことが少しずつ思い出されてきて、「やっぱり、ジャズっていいな」となるようです。とはいえ、今、彼らが楽しむ方法は、青春時代とは異なります。現代の大人のジャズシーンはより活動的になっているようです。
受け身型から参加型へ。団塊世代が提示する「新たな中高年」像
NPOメンバーで構成する「TMC Ryoma」のライブ 私が仲間たちと立ち上げたNPOのサークルのひとつに「ジャズ同好会」があります。このサークルは毎月1回、ライブハウスで定例会を開催しています。定例会には団塊世代はもとより、上は80歳代までの方が参加することがありますが、みな、プロや有名演奏家の歌や演奏を聴きたいと思って集まってきているわけではないのです。一番の理由は、自分のギター、サックスの演奏、ボーカルを披露する場を求めているということです。

このサークルも初めは、青山の「BODY & SOUL」、六本木の「Alfie」や「サテンドール」などのライブハウスを巡り、プロの演奏を聴くことを楽しんでいました。しかし、次第に、それでは飽き足らなくなってきました。何しろ、仲間を見渡せば、ギターやピアノやサックスやドラムを、それなりに演奏できる人がいるのですから。そして、とうとうNPOとメンバーの名前を取って、「TMC Ryoma」というセッショングループをつくり、仕事の合間に、演奏活動に乗り出しました。

再度、ジャズにはまった理由をメンバーの1人はこう言います。「昔は、よくジャズを聴いていたのに、就職、結婚という過程で、ジャズのことはすっかり忘れていました。ある日入った店で、大好きだったジャズの曲が流れていることに気がつきました」。そして、『無性にジャズピアノを弾いてみたい!』と思い、すぐに音楽教室に通い始めます。そこで同じ思いを持つ同年代の仲間と出会うのです。ジャズと仲間と美味しいお酒。今では、それが明日へのエネルギーになっています。
このように、今、私の周りでは、再び音楽にかかわろうとする人、それも、自ら演奏して楽しむ人が増えています。高校時代の同級生は、当時結成していた女性だけのフォークグループを復活させて、できればコンサートを開催したいと密かに狙っています。知人は、子育て後、再びコーラスグループに入って、オーストリアまで遠征し、地元のコーラスグループと共演してきました。

必ずしも、演奏ができる人だけではありません。楽器ができないとしても、ボーカルという手があります。別のメンバーは、単にジャズが聴きたくて参加しているうちに、仲間に背中を押され、最初はダメダメを繰り返していたものの、今ではステージに立って歌っている自分がいると言います。1年前には考えられなかった自分の姿だそうです。

大人のための音楽教室もたくさんできています。初めて演奏する大人が学ぶ際に何より大切なのは、とにかく好きな曲をひとつマスターすること。大人の音楽は基礎を学ぶよりも、いかに楽しめるかが大事です。

おとなしく聴いたり、見たりするよりも参加型。うまいかどうかは、そう問題ではなく、自分が楽しいかどうかが大切。これからは、こうしたアクティブなシニアたちがますます増えていくことでしょう。団塊世代は受身であるよりも、自ら行動する参加型ではないでしょうか。これは、もしかして、音楽に限らないのかもしれません。
プロフィール
松本すみ子さん松本すみ子(まつもと・すみこ)
早稲田大学第一文学部東洋史学科卒業。IT業界で20数年、広報、販促、マーケティングを担当。2000年、団塊/シニア世代の動向研究とライフスタイルの提案、コンサルティング、執筆などを主要な事業とする有限会社アリアを設立。2002年9月、シニア世代の仲間づくり・活躍の場づくりの会「おとなのオピニオンコミュニティRyoma21」を主宰。2007年、NPO法人シニアわーくすRyoma21となる。
日経BP社の情報サイトnikkeiBPnetにて「団塊消費動向研究所」、「団塊世代のための定年準備講座」を連載中。また、nikkeiBPnetのシニアサイト「セカンドステージ」にて、プロデューサーとして企画制作を担当している。
著書に、「そうだったのか!団塊マーケット」、「心理系の仕事を見つける本」などがある。
発行/(財)生命保険文化センター 企画・編集/宮澤省三(M-CRUISE) Web Design/Ideal Design Inc.