Web.02 いのちを守る
次代に伝えたい「エコ・クッキング」のススメ 三神彩子さん 東京ガス株式会社 「食」情報センター主幹、チーフエコ・クッキングインストラクター、エコスタイルコーディネーター
人のいるところ「くらし」がある。一人ひとりのくらし方ひとつでこの星に影響を与えることはできると考え、最近ようやく「ロハス」※が注目されてきているが、日本ではだいぶ前から東京ガスが「エコ・クッキング」を提唱してきた。料理だけでなく、「買い物」「料理」「片付け」の一連の流れを通して、環境にやさしい食生活を送ろうという提案だ。その普及・促進・指導に携わる三神さん。一人の母親・生活者としての視点を忘れずに、一人ひとりの心にエコの種を蒔くような気持ちで、今日もインストラクターの指導や執筆、講演活動に追われる。
※1 「ロハス」とは、「Lifestyles Of Health And Sustainability 」の頭文字 LOHAS。健康で環境を破壊せず、持続維持できるライフスタイルをしていこうというアメリカの社会学者 Dr. ポール・レイの研究により誕生した概念を表現した言葉
※2 「エコ・クッキング」は東京ガス株式会社の登録商標です。
 
お湯を沸かすときからエコを意識する
 エコ・クッキングとはひと言で言えば、環境のことを考えた食生活を送りましょう、という提案です。私たちは「火」を用いることから、人間としての「くらし」を営むようになりました。いま、限りあるエネルギー資源を消費しながら生きていることを、毎日のくらしからどれだけ意識していくか、これが地球全体のいのちのために大切になってきています。
  ガスを使ってヤカンでお湯を沸かすという料理の基本一つとっても、知っていると知らないでは大違いということがあります。たとえば「強火にしたほうがお湯が早く沸いてよい」というのは誤解です。ヤカンの底からはみ出した炎は空気を温める効果はあっても、お湯を沸かす上ではムダが多いのです。中火で沸かしたときが、エネルギーは最も効率よく使われます。
 お鍋でお湯を沸かすときも、蓋をしないよりしたほうが、強火にするならば鍋底が小さいより大きなほうが熱効率が高く、エネルギーのムダなくお湯を沸かすことができます。ヤカンに水を入れて沸かすより、熱効率の高い給湯器のお湯を注いで沸かしたほうが、ガスの使用量もCO2の排出量も抑えられるという事実もあります。
 料理の後片づけも、環境のことを考えるチャンスです。マヨネーズ大さじ1杯をそのまま流しに捨てると、魚が棲めるようなきれいな水に戻すには、浴槽13杯もの水が必要だと言われています。「マヨネーズは油があるからね」とおっしゃる人もいるでしょうが、ではお醤油ならどうでしょう。醤油大さじ1杯の汚れも、やはり浴槽1.7杯分の水が必要なんです。
エコ・クッキングメニュー
 そんなことあらためて言われなくても経験的にわかっていたり、「おばあちゃんの知恵」として教わった人もいるでしょう。けれども、知っているようで知らないこともたくさんあります。そういう小さな気づきが広がれば、私たちの暮らしはもっと楽になるし、それがひいては地球環境を守ることにも繋がる。そういう思いから、東京ガスが料理教室のなかでエコ・クッキングに取り組み出しのが、1995年のことでした。
 
 最初の頃、「エコ」は「エコノミー」の略だと勘違いされて、「節約料理」とか「ケチケチ料理」のことだと受け止められたこともありました。エコロジー的な提案に確かな手応えを感じるようになったのは、2002年ぐらいからでしょうか。国民レベルですすめる地球温暖化対策の一環として、エコ・クッキングが注目されるようになったんですね。東京ガスが開くエコ・クッキング講座の受講生も、この3、4年は毎年5000人規模で増え続けています。
 

 家庭科の教科書でも「エコ・クッキング」が記載されるなど、最近は一般向けの料理教室だけでなく、小中学校の家庭科の時間などに、出張授業を開く機会も多くなりました。一昨年度は受講した子供たちが1万3千名を超えるまでになりました。親と子が一緒に参加できるエコ・クッキング講座も人気です。
 
 たんに気分的にエコであるというだけでなく、東京家政大学と共同で、それを数字的に裏付けるための研究も東京家政大学の長尾教授のご尽力を得て、実施しています。たとえば、青菜を色よく茹でるには、葉っぱの重量の6〜7倍のお湯が必要と、これまでの料理の常識として言われてきました。が、実際に家庭で行うにはムリがあります。そこで、実験の結果、3倍で十分という結論に達しました。
 

 さらに、エコ・クッキングの定量的分析と教育効果についての研究も進めています。全く同じメニューで調理しても、エコ・クッキングのノウハウを身につけた後では、ガスで40%、水で70%、ゴミで60%もの節約に繋がるという結果が得られました。「こんなに違うんだ」と、実験に参加してくれた学生はもちろんですが、私たち自身が驚きました。
水を70%も節約。エコ・クッキングの驚くべき効果
楽しくなければ、エコじゃない
 「エコ」というと、どうしても窮屈なイメージ、誰かに言われて「やらされている」感がぬぐえません。けれども、それでは長続きしませんよね。やはり楽しいことが大前提。お料理だったら、美味しいことが大前提です。
 
 地元で採れた旬の食材を使った料理は、たしかに美味しい。でもそれで終わるのじゃなくて、旬の食材を使うということは、環境的にも意味があるということに気づいて欲しいんです。本来、夏が旬の野菜を冬に作るには、暖房費が余計にかかります。地場の食材を使わずに、わざわざ遠いところのものを運んでくれば、それだけ運搬にかかわるエネルギーも膨大になります。
  レストランで何かを注文するときも、できるだけ地元の旬の食材を選ぶようにすれば、それがエコに繋がるんですね。
  エコ・クッキングでは「料理」そのものだけでなく、その前後、つまり「買い物」「片づけ」も含めた3つの側面から、限りある資源を大切に、ムダなく活用する暮らし方を提案しています。それは食材や料理だけでなく、さまざまな生活シーンに応用できるはず。
 たとえば、クリーニングのハンガーを回収してリサイクルするお店が増えてきましたが、これなども、ハンガーをごみの分別収集に出すよりよほど楽だし、合理的だと思いませんか。環境に配慮した商品やサービスを選ぶということは、たしかに少し値段的には高くなるかもしれないけれど、結果的に自分たちの生活を楽しく楽にすることに繋がるのではないでしょうか。
  私自身、エコ・クッキングを提唱する企業人の顔とは別に、一人の母親、一人の生活者としての顔があります。ときには小5の娘から「ママのそれって、エコじゃないんじゃない」と“批判”を受けることもある母親です。(笑)なんでもかんでもパーフェクトにやろうとするのはムリ。自分にできるところから一つずつ始めればいいんです。突出した一人がいきなり百歩進むのより、100人が1歩ずつ進むことのほうが、歩みは確実ですよね。
 そんな小さな積み重ねを、みなさんの心に種を蒔くようなつもりで、これからも提案していきたいと思います。人びとの暮らしのなかに、エコのアンテナを少しずつ広げること。それが私の役目だと思っています。
企業としての環境への取り組み
〜燃料電池でエネルギーが変わる、くらしが変わる〜
 東京ガスの「エコ・クッキング」の取り組みは、これまで同社が培った省エネや環境対策に関するノウハウをわかりやすく社会や家庭に還元しようという試みの一つ。京都議定書以降、二酸化炭素など温室効果ガスの削減対策は焦眉の課題になっていますが、CO2排出量の削減はけっして容易ではなく、1990年と2003年の実績対比では、排出量実績が産業部門ではなんとか90年レベルを維持しているのに対して、家庭部門ではむしろ増える傾向を見せていて(※1) 、「エコ・クッキング」の提案が注目される背景はこんなところにもあります。
  今までのエネルギーではこの地球の資源に限界がある以上、時間の問題となっていますが、新エネルギーとして期待されているのが「燃料電池」。同社では最先端の技術を駆使した燃料電池コージェネレーションシステム「ライフエル」など、家庭用の省エネ機器の開発・普及にも力を入れています。同システムは、発電したときに発生する熱を利用して60℃のお湯をつくり、貯湯タンクの中に貯え、お風呂やシャワーに使えるという無駄のないシステム。家庭における地球温暖化対策の切り札として注目されています。1軒の家が「ライフエル」を1年間利用した場合、CO2の削減量は約1.3トン分にもなります。これは1,300平米の森林が1年間に吸収するCO2量に相当します。
  環境問題に向けた個人の意識変革は、こうした企業の意識変革とも連動しながら、社会を変えていくエネルギーとなっていくのです。

※1 グラフ
日本の二酸化炭素排出量推移と目標
グラフ−日本の二酸化炭素排出量推移と目標
最新のデータは以下参照
「日本の部門別二酸化炭素排出量の推移」
(全国地球温暖化防止活動推進センター)
コラム
三神彩子さん 東京ガス株式会社「食」情報センター主幹として同社が提唱するエコ・クッキングの普及・促進・指導に携わるかたわら、一児の母でもあり、日々の生活の中でも親子でエコ・クッキングを楽しみながら取り入れている。また、エコ・クッキングのホームページの製作やメールマガジンの発行、インストラクター養成講座の開催などでも活躍。著書に「エコで素敵に暮らす」(近代映画社)、「今日からできる!エコ・クッキング」(近代映画社)、「エコ・クッキングでおもてなし」(近代映画社)の他、東京ガス発行「エコ・クッキング読本」「エコ・クッキングノート」他を製作。

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