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美味しいものを食べたいという気持ちは永遠です! 四川飯店グループオーナーシェフ 陳建一さん

人気テレビ番組『料理の鉄人』で中華の鉄人として活躍。明るいキャラクターと確かな腕前で全国に名を馳せた陳建一さんは、ハードなスケジュールをものともしないバイタリティの持ち主だ。日本に麻婆豆腐を紹介するなど四川料理の神様といわれた故陳建民氏の伝統を継承しつつ、料理人として新たな挑戦を続ける陳さんにパワーを保ち続ける秘訣をお聞きした。

陳建一さん
【ちん・けんいち】
1956年東京生まれ。玉川大学卒業後、麻婆豆腐などの四川料理を日本に紹介し、四川料理の神様といわれた父、故陳建民氏のもとで修行を積む。現在は父の後を継ぎ、四川飯店グループの代表として全国16店舗を統率しながら、自らも鍋をふるう。人気テレビ番組『料理の鉄人』(フジテレビ系)では、中華の鉄人として番組初期から最終回まで活躍した。『陳建一のうま辛でご飯がおいしい四川料理』『鉄人陳建一の中華料理』など著書多数。
四川飯店赤坂本店のホール
陳建一さん
陳建一さん
四川飯店名物料理の「麻婆豆腐」
陳建一さん
発行/(財)生命保険文化センター
Interview & Writing/福田智生
Photo/吉村隆
Editor/宮澤省三(M-CRUISE)  
Web Design/Ideal Design Inc.
喜んでくれるお客様がいるからこそ料理人でいられる
陳建一さん 料理の道に進もうと決意したのは高校生の頃です。いろいろな人から「子どもの頃から料理人になると決めていたんですか?」って聞かれるんだけど、そんなことはなくて、たまたま家庭環境がそうだっただけの話。まあ、僕の両親は絶対に料理人にすると決めていたみたいですけどね。特に母親は、夜寝かしつけるときには必ず「お前は大きくなったらコックになるんだよ」とささやいていましたから(笑)。僕自身は、周囲の子どもたちと同じようにプロ野球選手やカーレーサーにあこがれる普通の子どもでした。ただ、その頃から食べることが大好きだったのは事実。食べに行ったお店や料理番組で美味しそうなものを見つけると、あとから自分で作ったりもしていました。今にして思えば、それが料理人への第一歩だったのかもしれません。
  子どもの頃、よく作っていたのはマカロニグラタンやスパゲティナポリタンです。当時、喫茶店なんかで流行っていて、初めて食べたときに「こりゃ、うまい!」って驚いたんですよ。で、友だちにも食べさせたいなと。本屋でテキストを買ってきて、レシピを見ながら一生懸命作りました。たぶんまずかったと思うんだけど、みんな「おいしい」って言ってくれて、調子に乗っちゃった(笑)。それからはいろいろなものを作って、近所の連中や家族に食べさせていました。
  実はこれって、料理人にとってすごく大切なことなんです。というのも、料理は食べた人が「おいしい」と言ってくれるからこそ作りたいと思えるもの。今だって、一生懸命作ったものを食べてお客様が喜んでくれたときの達成感は格別ですし、それがあるから料理人を続けていられる。もちろん、それはプロだけじゃなくて主婦だって同じ。家庭でご主人が美味しい料理を食べたいと思ったら、まずは奥様の料理を「おいしい」と褒めてあげること。それが一番の方法ですよ。
料理長も食材を切る人も料理を運ぶ人もみんな仲間
陳建一さん 大学を卒業してから親父のもとで本格的に料理の修業を始めましたが、本音を言うと、僕は最初、外の店で働きたかったんです。料理人に限ったことではありませんけれど、親元にいるとどうしても甘えが出るじゃないですか。それが嫌だった。でも、どうしても親父が許してくれなかったんです。「ぜんぶ私が面倒をみる」ってね。実際、親父はストロベリーみたいに甘かった(笑)。食材の切り方を間違えたりしても文句ひとつ言わないんですよ。おまけに、社長の息子に意見を言う人なんていないし、先輩も含めてみんなが僕に気をつかう。ものすごくやりづらかったですよ。
  ただ、自分のためにならないと思ったので、一歩も二歩も下がって目上の人を立てるようにしましたし、人間関係を学びました。だから、今の自分がいる。親父に甘えて調子に乗っていたら大変なことになっていたでしょうね。
  料理人ひとりの力でお客様を満足させることはできません。考えてみてください。お客様と直接ふれ合うのは誰ですか? ホールのスタッフですよね。その人が無愛想で態度が悪かったらどうですか? 誰だって嫌な気持ちになるでしょう。料理長も、食材を切る人も、下味をつける人も、料理をテーブルへ運ぶ人も、全員が仲間で、ひとつのチームなんです。これは自分が社長になった今でも常に意識していますね。新しく入ってきた人たちに対しても、食事に行ったり、話を聞いてあげたり、コミュニケーションをとる機会を増やすように心がけています。だから、部下というよりも仲間と思える。
  それと、僕がなんとかここまでやってこられたのは、親父を超えるとか、親父の味を継承することを意識しすぎなかったからだと思います。もちろん、最初はそう思うこともありましたけれど、親父と僕は違うし、僕には僕の料理がある。尊敬はしているし、継承すべきところは継承していますけれど、あくまでも僕は僕でしかない。早いうちにそのことに気づいたのも大きかったですね。
趣味はゴルフ。老後は世界中のゴルフ場でプレーしたい!
「すぐにでもプロになれる」と言われるほどの腕前。大好きなゴルフが陳さんにとっての「元素」だ。 今まで一番忙しかったのは、やっぱり『料理の鉄人』に出演していた頃ですね。収録スケジュールがかなりハードだったし、本業が忙しい中で番組の初期から最終回までずっと出演していましたから。それでも、睡眠不足で悩んだことはないですね。僕はいつでも、どこでも熟睡できるんです。移動中の飛行機の中とか、電車の中とかね。唯一寝られないのがゴルフに行く前の日。遠足前夜の子どもと同じで、ワクワクして眠れなくなっちゃう。それぐらいゴルフは好きですね。一応、ハンディキャップは9でシングルプレーヤーなんですけれど、ピリピリとした雰囲気の中でスコアにこだわる競技ゴルフはあまり好きじゃありません。気のおけない仲間と楽しむエンジョイゴルフ。それが一番。ゴルフは高齢になってからも楽しめるので、ずっと続けていきたいし、老後は世界中のゴルフ場でプレーしてみたいですね。
  そうやって考えると、やっぱり楽しいこと、やりたいことがあるから元気でいられるんだと思います。僕は小さい頃から食べることが好きで、美味しいものをもっとたくさん食べたいし、みんなにも食べてもらいたいと思っていた。だから料理人になった。その欲求は今も変わらないどころか、「もっとおいしいものを!」とさらに高まっています。世界中には僕が食べていないものがまだまだたくさんあるし、料理の世界は本当に奥が深いですからね。例えば調味料ひとつとってもそう。最近では、オリジナルのラー油を開発しようと思っているんですよ。忙しくてなかなか研究する時間がなかったりもするんですけれど、それでもやりたいと思えるのは美味しいものを食べたいという強い気持ちがあるから。
  僕にとっての料理やゴルフがそうであるように、仕事でも趣味でもいいから、なにか夢中になれるものを持つこと。そして、気のおけない仲間をつくること。これがいつまでも元気であり続けるための秘訣だと思います。