芸能人こそ「アウトフィッター」。自然の「振動」を伝えよう タレント 清水國明さん 元素インデックスへ 閉じる
 
「あのねのね」の「赤とんぼの唄」からはや30年。最近の人はお笑いスターというより、アウトドア・アクティビストの清水さんというイメージが強いだろう。90年代から本格化した清水さんのアウトドアライフは、妻と幼い子供たちを乗せてキャンピングカーで全国を回ったエピソードや、スポーツフィッシングのウンチクでよく知られるが、それはたんなる芸能人の趣味ではなかった。自然と一体となるときの感動をたくさんの人に伝えることで、自分自身もエネルギーをもらう、文字通りの元気の素なのだ。
多くのストレスを抱えながら、それでも健気に生きている現代の子どもたちや大人たち。自然を通してそんな人たちの、心と体のまるごと健康をサポートするための施設づくりを進める、いまやベンチャービジネスの事業家でもある。
「命って『叩く』という字からなっていますよね。自分を叩いて振動を発して、それを伝えるのが僕の役目」という清水さんとの1時間。テレビ電波では伝わらない、熱いほとばしりのような振動がたしかに伝わってきた。
 
「自然学校」のツリーハウスで子どもたちと
“帰ってきた田舎もの”40代にして再び野生児の生活へ
清水國明さん 生まれが福井の田舎のV字谷の底にある小さな村で、ときどきみんなで熊狩りに出かけたり、母親が洗濯するときは、谷から谷に物干し竿を渡していたっていうぐらいに超田舎でして(笑)、そのなかでも私は自然が大好きで、誰よりも長く川に潜れるし、誰よりも高い木の上に登れる、そんな野生児のような子供でした。
  大学で京都に出て、それから芸能界入りをするわけですが、しばらくは田舎出身であることを隠していたものです。しかしそのうちお里がばれてしまって、30代から40代になるころには開き直って、また川に飛び込んだり、山に登ったりする生活を始めました。つまり“帰ってきた田舎もの”なんです。海辺のリゾートなんかでプール遊びをしていても、落ち着かない。それより森や谷に入ったほうがよほどくつろげるんです。
  人って、家族や子供のために働く時期がありますね。社会の期待に応えて頑張る時期もある。それを過ぎると今度は自分の楽しみを追求するようになる。
  私も、お笑いのころはみんなを笑かしてやろうと、それはもう一生懸命で、芸能界やファンの期待に応えてがんばりました。でも、そのうち家族や世の中の期待ではなく、自分のためだけに生きたいと思うようになりました。40代を過ぎてから田舎生活を始めたりして、ひたすら自分だけで自然を楽しんでいたんですが、それってすぐ挫折するんですね。
  やはり誰かの役に立っているということが大切。自分のためだけだとエネルギーが貯まってこない。自分の元気を人と分かち合うことで、もっといいエネルギーが集まってくる。元気を分かち合うということは、それがなくなるということじゃなくて、何倍にもなって返ってくるということなんです。
  でもそれはけっして奉仕の精神じゃないんですね。与え続けると同時に、どんどんいろんなモノが入ってくるような、そういう仕組みができると、ほんと人間元気になれますよ。
  そんな風に思えてきて、自分の趣味のための自然遊びから、その遊びをみんなに伝えるような、そういう事業やNPO活動を始めるようになりました。
 
お店で選ぶセンスより、自分たちで創り出すセンスがカッコイイ
清水國明さん 僕のように、いつかは自然の中で暮らしたいという人たちが集まって「自然暮らしの会」というネットワークが1995年に発足しました。衣食住はもちろん、遊びも自分たちで作り出そう。作れないものは結局いらないものなんだ。お店で買ったり選んだりというセンスよりは、自分たちで創り出すというクリエイティブなセンスを磨こう、と思っている人たちの集まりです。自分の意志で持つのではない、“持たされる生活”からの脱却ですね。
  で、そういうセンスは子供のころから養ったほうがいいから、全国の幼稚園や保育園を回って、子供たちと一緒にミニログハウスを木の上に作るというイベントを展開してきました。ログハウスの丸太は大人たちが切り分けて、それを子供たちが蟻の行列にようにせっせと運んでいくんです。
  これをしばらくはNPOでやっていたんですが、日本のNPOというのは、結局持ち出しが多くてね。自分たちが楽しい、それが人を楽しませることの基本のはずなのに、お金のことばかりが気がかりで、だんだん楽しめなくなってくる。
  そこで、いっそのこと事業会社の形にして、ちゃんと収益も上げながらやったほうが健全なんじゃないかと思って、2005年に起ち上げたのが「株式会社自然楽校」です。 
これまでは「お金なんか嫌いだ」と言っていたら、結局、お金に嫌われてしまったんだけれど、会社を始めてお金に謝って、お金のことを真剣に考えるようになったら、不思議なことにどんどんお金が回るようになってきましたね。
  現代社会は、人と自然が離れてしまっている。そのことがさまざまな問題の元凶じゃないかと思います。人と自然をくっつけることのできる、自然の力の活用をガイドする付き添い人──僕らはそれを「アウトフィッター」と呼んでいますが、そういう大人が少ないからです。そこで、この会社ではまずはアウトフィッターを育てよう、そして大人にも子供にも、自然にふんだんと触れる機会を提供しよう、そういうことを目的にしています。
「河口湖SHOW園」にて。ここで笑福亭鶴瓶さんの落語会やプリンセス天功さんのマジックショウなどが行われてい
 
「森と湖の楽園」にある様々な施設
楽しく自然に触れる森の中のエンタティンメント・タウン
清水國明さん そのためには施設のクオリティをもっと向上させなくちゃいけない。けっして豪華さを競うのではありません。洗練されたガイドシステムで、今までにない充実した自然体験を提供できる施設です。
  また、日本には小児ガンで苦しむ子供さんが20万人もいますが、そういう子たちが病棟を離れて一日ゆっくり遊べるような施設がない。ヘリポートや無菌室を設置し、医師や看護師を常駐させた、森の中のエンタティンメント・タウン。僕らはそれを作ろうとしています。アメリカにはあるんですよ。採算はなかなか取れないけれど、大企業や大富豪がスポンサーになってサポートしている。僕もNPOのときいろんな企業を回ったけれど、握手だけで終わりでした。だったら会社を作って、信用を得れば、ビジネスとして出資してくれる人もいるんじゃないか、というわけです。
  芸能人ビジネスとテーマパーク事業を合体させようということですからね、どちらもそう簡単じゃない。でも、芸能人の仲間たち、笑福亭鶴瓶さんや清水アキラさん、プリンセス天功さんらが賛同してくれて、集客エンジンとして森の中の劇場に出演してくれています。そこに集まったお客さんたちにいろんな自然体験もしてもらっているんです。多くの人がリピーターになってくれています。
  僕はこれでも事業家としてなかなかのプレゼンテーターですからね(笑)、清水國明にではなく、人と自然を結びつけるという事業理念に賛同したという人がいて、出資金も4億円ほど集まりました。当面は、なんとか株式を公開して上場企業になるのが目標です。
 
真っ直ぐ立っている筒ならば、宇宙のエネルギーさえ呼び込める
清水國明さん 人間は「筒」のようなものだと思うことがあるんですね。地上からスクっと生えている竹筒のようなもの。その筒が傾いているときはエネルギーが入らないですよ。宇宙のエネルギーは、まっすぐ降りてきますからね。まっすぐ立っているときは、スポポポ、スポポポ、なんでも面白いぐらいに入ってきて、自分が元気になっていく。
  なんかこのごろ、仕事も入らないな、出資も決まらないなっていうときは、自分の筒がナナメっているとき。どんなに事業が大変なときにもね、考え方が間違っていない、つまり真っ直ぐ筒が立っていさえすれば、奇跡のようなことも起きてうまくいくものです。
  逆説をいうようですけれど「計算高く生きない」ということでしょうか。もちろん人間損得を考えて生きているし、僕だっていま経営者の立場だから、こうやって話していてもいろいろ計算ずくのところはあるんですよ。でも、そういう計算する時間をなるべく少なくはしたい。そのかわり、たとえば、山の中でぼーっと焚き火が燃えるのを眺めているような、そんな時間を少しずつ増やそうとはしますね。焚き火にあたっているとき、「この燃料費の原価はいくらぐらいだろう」なんて考える人いませんものね。
「森と湖の楽園」にある様々な施設
 
「自然暮らしの会」代表でもある清水さん。「ログハウス・セルフビルド教室」で率先して汗を流す
「計算高く生きないこと」焚き火を見つめる時間を増やそう
清水國明さん 要は切り替え、損得や儲けを考える時間と、そうじゃなくて自然のなかで柔らかい脳波を出しているような時間とを、いかにうまく切り替えるかってことでしょう。
  僕の場合はいま河口湖が拠点ですから、東京から河口湖に戻るときは、途中、富士山が大きく見えだしたころに、気圧の変化を感じて自動的にスイッチがオンになるようになっています(笑)。逆に、東京で仕事があって行くときは、もうなんていうか、海に潜るときみたいに息を吸って止めたまま、ブクブク、アクセクと仕事をこなすんです。海の底の魚をモリでついて、それを獲物にしてまた河口湖に戻っていく、そんな生活です。
  他の人だってそうでしょう。都会の仕事に疲れると、どこか田舎に行ってそのストレスを発散したくなる。都会のストレスって何かを使い続けて疲れるというより、便利な暮らしの中ですっかり使うのを忘れた肉体や精神の一部が、「おい、そろそろオレを使ってくれよ」と悲鳴を上げている現象だと思えるんですね。 寝たって全然解消されないんですよ。そういうときは、自然の中に行って体を丸ごと使うようなアクティビティがいいですね。熱い、寒い、痛い、臭い、虫に刺された、擦り傷を作った、というような経験が必要。自然の中には、それが全部揃っています。
  人が元気なときは、激しい振動を起こしているんですね。それが共鳴して人に伝わる。自然の中にいると葉っぱや樹木や蝉の声の振動に共鳴して、人も元気になる。芸能の「芸」って、くさかんむりでしょう。芸能人はもともと自然の振動を伝える能力のある人種なんです。僕はいま河口湖のツリーハウスに住んでいますから、木の振動を感じることがよくあります。だからいまこそ、「芸」能まっただなか。その振動を世の中のすみずみにまで広げていく仕事をもっとしたいですね。
 
清水國明さん
【プロフィール】

しみず くにあき
1950年福井県生まれ。1973年、原田伸郎とのコンビ「あのねのね」で芸能界デビュー。京都産業大学法学部卒業。芸能界きってのアウトドア派、スローライフ実践者として、自然体験イベントや講演活動を全国的に展開している。キャンプやカヌー体験など、子どもたちの生きるチカラを育む自然体験講座やログハウスやカヌー、ツリーハウス作り、農業体験など、中高年の充実したスローライフを応援する「株式会社自然樂校」を設立。富士山麓の森の中に、日本初の総合アウトドアパークとして「森と湖の楽園」をオープン。
 
発行/(財)生命保険文化センター Interview & Writing/広重隆樹
Photo/吉村隆 Editor/宮澤省三(M-CRUISE) Web Design/Ideal Design Inc.