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WEB.02 私の元素 森永卓郎さん B級コレクションばかりでも、迷いなき私の人生。
 
世界のミニカー、グリコのおまけ、コーラの空き缶、有名人の名刺……40年にわたるさまざまなコレクションを、森永卓郎さんはあえて「B宝」と名づける。ンボーで、オカだけれど、ューティフル」。すでに自宅よりも大きな倉庫を購入し、いずれはコレクションを精選して展示する「B宝館」という博物館を開くのが夢。オモチャ集めのためにお金を稼ぐという、その“本末転倒人生”。そこまで彼を熱狂させたミニカーの魅力を尋ねた。
 
1 異国の地で少年の孤独を紛らわせたもの異国の地で少年の孤独を紛らわせたもの
森永卓郎さん ミニカーのコレクションに目覚めたのが9歳のとき。私の父は毎日新聞の海外特派員で、当時の赴任地がウィーン。そこに家族も帯同したんです。ウィーンというと日本人には何か香しいイメージがありますが、実は部外者を受け入れない閉鎖的な街でしてね。私はドイツ語なんて片言も喋れないのに現地の小学校に入れられて、周囲から無視されたり、いじめられたり……。言葉がわからないから悪口を言われているのかどうかもわからない、という状態で、当然友達なんてできません。
  そんなとき、唯一の遊び相手になってくれたのがミニカーなんです。今風にいえば「引き籠もり少年」の大切な趣味だったんですね。
  今から10年ほど前に、おもちゃのコレクターで知られる北原照久氏(横浜ブリキのおもちゃ博物館館長)と出会ったとき、「北原菌」に感染して熱病が再発。それからはハイピッチで増えて、今は2万点ぐらいになりますか。
 
2 人は本末転倒というけれど……人は本末転倒というけれど……
森永卓郎さん 珍しいものだと、40年ほど前、英国スポットオン社が発売したエリザベス女王専用車のミニカーというのがあります。これは、女王の人形を車の中に入れようとしたら入らないので足を切っちゃった。それが王室の逆鱗に触れてすぐに発売中止、という曰く付きのものです。
  定価の高いものだと、トミー創業30周年記念の「ブルーバードSSS」。純金製でダイヤ入り、100万円。奥さんに「ホンモノの車と同じくらいの値段で、動かないオモチャ買ってどうすんのよ」と怒られた。僕は、「押せば動くんだけど」と反論しましたけどね(笑)。
  昨年、自宅のそばに、自宅よりも立派といわれる2階建ての倉庫を建てて、そこにコレクションを移しました。でもほとんどが段ボールの中に入ったまま。アルバイトを雇って分類・整理するだけで2年はかかる、ということに思い至ったのが今年のお正月のことです。
  そもそも、僕はなんのために稼いでいるのかといったら、コレクションのためかもしれない。稼ぎはオモチャを買うための手段。ギャラを珍しいオモチャでくれるという人がいれば、どんな仕事でも引き受けちゃいます。
  ふつうの人から見たら本末転倒ですよ。でもね、最近、お金の使い道もわからないのに何億と稼ぐ人がいるけれど、私にはそっちのほうがわからない。私が10億円使えるとなったら、死ぬまで何年でもオモチャに投資できる。高いのになると市場には1台800万円もするようなものもありますから。アラブの王様が買い求めているようなの。こういうのは10億あったら僕が全部買い占めたい。つまり、お金の使い道はいたってシンプルで明確。迷いのない人生ですよ。
 
3 ときには「時間をお金で買う」こともときには「時間をお金で買う」ことも
森永卓郎さん ミニカーの新製品はコレクションを始めたころからつきあっているショップの人がいて、彼が私に成り代わって注文してくれています。いわば、「なりゆき買い」ですね。シリーズの欠番や中古品はネットオークションやフリーマーケットで買います。
  ネットオークションは最後の最後に立ち会えないと負けちゃうんですよね。昨年は仕事が忙しくて勝率1割。でも競り落としたら競り落としたで、ラジオで視聴者から文句を言われる。「森永は年収300万円生活だなんて言っているくせに、カネの力で僕の入札をひっくり返した」なんてね(笑)。
  ネットオークションで、こうしたコレクターグッズの流通は劇的に変わりました。グリコのおまけは、これまで流通市場がなかったのが、ものすごく大きなマーケットになった。レアアイテムが売りに出されるスピードも速くなり、欠番も揃いやすくなりました。
  コレクターにとってこういう買い方が必ずしも正しい道だとは思わないけれど、ときには「時間を金で買う」ということも必要でね。でも、私は別に人の企業を乗っ取ったりはしないんで。可愛いものです。
 
4 ミニカーは世界経済を映し出すミニカーは世界経済を映し出す
森永卓郎さん 経済の専門家としてもひと言言っておかないといけませんね。ミニカーは実は世界経済を映す鏡でもあるんです。
  僕がコレクションを始めた1960年代は、ヨーロッパ製のミニカーが全盛期のころでした。ミニカーって、ふつう射出成形のアルミダイキャストで作ります。細かいパーツや塗装を考えると、それなりの技術力や工業力がないと作れない。それでいて労働集約的ですから、人件費も安くないといけない。
  技術力と人件費がちょうど見合っていたのが、60年代のヨーロッパ。70年代には日本に生産地が移り、80年代は東南アジア、そして90年代以降は中国の圧勝です。その時代に、いちばん勢いのある軽工業の集積地がミニカーの生産地になる、という法則が確認できます。
  コレクションという行為自体も、経済学的には面白いテーマです。私が集めるのは、他にもコーラの空き缶とか、有名人の名刺とか、B級なものばかり。経済的意味や合理性はほとんどありません。それでもなぜ人は狂ったようにそれを集めるのか。経済学の概念でいう「合理的経済人」なんてのは、実はいないんでね。人はときに恋愛、宗教、悪質商法、バブル……さまざまなものに「狂う」。コレクションもその一つ。その意味を身をもって考察するのが僕のライフワーク、なんです。
  そもそもオモチャというのは、ほんらい機能性ではなく、人の感性に訴えかける「感性商品」です。その感性のなかでも「可愛い」ものをつくるのは、日本のお家芸。「アニメ」や「フィギュア」など、いわゆる「萌え」系の商品のなかでも、世界市場で圧倒的な競争力をもつのは、日本人がつくる「可愛い」キャラクターです。なにせ日本語の「可愛い」はそのまま、「kawaii」で世界に通用してしまうのですから、その経済的影響力はバカにできません。
  いま日中間がギスギスしていますが、上海の日本総領事館で日本の国旗が焼かれたときに、僕もたまたま近くにいましたが、けっしてテレビで放映されるような状態ではありませんでした。僕は、中国のヲタク青年らと日本のアニメの話をしていて、一緒に肩抱き合って「萌え!」とか叫んでいた。政治が対立しているときにでも、国民同士ではそういった文化交流で心が通じ合っている。これはある意味、スゴイことじゃないですか。
  世界中が共感できるような感性商品を、これからも日本の産業の基盤にすえればいいのに、と思います。 
 
森永卓郎さん 趣味が高じて一冊の本になった。『ミニカーからすべてを学んだ』(エイ出版社、2004年)。ミニカー棚の作り方から世界経済までを縦横に論じる。
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[プロフィール]
1957年東京生まれ。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、日本経済研究センター、経済企画庁、三井情報開発を経て、91年に三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。同社経済・社会政策部主席研究員を経て、現在客員研究員。獨協大学経済学部教授テレビ朝日系「ニュースステーション」コメンテーターなど、テレビ・ラジオでも活躍。専門はマクロ経済、計量経済、労働経済、教育計画。主な著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)など多数。
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