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第3回 「老後は田舎で」と思い立ったら 
熊本隆司(田舎移住専門コンサルタント、NPO法人田舎暮らしフォーラム理事長)
  リタイアメント後は田舎でのんびり暮らしたい、という希望をもつ人は少なくないようです。田舎暮らしを始めるにあたって、まずどのようなことを考えればよいのでしょうか。ご自身も田舎への移住を実現し、田舎暮らしを希望する人のためのコンサルティングをされている、熊本隆司氏にアドバイスをしていただきました。
  「リタイアメント・バブル」の到来が田舎暮らしニーズを拡大
  財務省・財政総合政策研究所の試算によれば、2007年に1947年出生組が定年に到達し、「団塊世代の定年」に区切りがつく2010年までの間、大量のリタイア人口が日本経済に多大な影響を与えるという。そして、この団塊世代の中の一部に「老後は田舎で」と考える人々が相当現れることが予測される。ふるさと暮らしを望む人々を対象とした国土交通省の調査では、定年退職をきっかけにふるさと暮らしを始めようとする人が、全体の40%を超える存在となっており(資料参考)、「リタイアメント・バブル」という定年退職者の底辺拡大にともない、田舎暮らしをスタートする人口も急拡大することだろう。
(資料)ふるさと暮らしを始めたい時期
(資料)ふるさと暮らしを始めたい時期
国土交通省「大都市部に暮らす中高生のUJIターンに関してのアンケート調査」(2004年1月)より
  田舎暮らしへの期待
一関郊外の須川高原。毎朝こんな景色を見ながら暮らせるのはとても贅沢だと感じる。
  都会にいると、狭い家に狭い庭、隣近所と密接な距離感があって、隣人の顔も全くわからない。街へ出かければ混雑した電車や人の波にのまれ、毎日ストレスや都会の喧騒に溺れそうになる。刺激的な都会の生活から抜け出し、自然を肌に感じ、ゆったりと自分のリズムを確認しながら生活するライフスタイルを送りたい。こんなふうに田舎暮らしを夢見る人は多いだろう。
  四季を通じた豊富な自然と澄んだ空気、吸い込まれそうな夜空に輝く数えきれない星。そんな環境を体いっぱいに受け止めながら、自分のペースで思い思いの生活ができれば、どんなに素晴らしいことだろうか。田舎へ移住し、水や空気の環境変化で喘息やアトピー等の症状が改善されたという例を聞くことも多い。私自身も、子供の頃から持病の気管支喘息に苦しめられていたが、田舎へ移住後、数年間でかなり症状が和らいだ。何が功を奏したのかは不明だが、都会の喧騒やストレス、汚染された自然環境から開放されたことだけは間違いない。田舎暮らしはさまざまな角度から、人間そのものの体質改善効果も期待できそうだ。
  また最近では、インターネット等の通信手段や交通網の発達により、一般的な社会生活を送るために都会に執着する必要性も低くなってきた。
  田舎暮らしの準備と対策
  そもそも「田舎」という地域やエリア等の定義は存在しない。「あなたにとっての田舎」が「田舎」なのである。地方へ旅行した時、風景を見て思わず「こんな田舎で暮らしてみたい!」と思うことがあるだろう。是非、あなたの田舎暮らしをできるだけ具体的にイメージしてみてほしい。そこからが田舎暮らし実現の第一歩となる。
たとえば
  1. 地域や四季のイメージ(特に北国の場合、冬の実態の把握が必要)
  2. 住む家とその周囲の環境設定
  3. あなたのライフスタイル
  4. 家族のライフスタイル
  5. 老後の生きがい構築(趣味やライフワーク……etc.)
  そして、田舎暮らしを実現するにあたり、「家族の同意」が必ず必要なものだと私は考える。家族の同意がなければ田舎暮らしの撤退を余儀なくされることさえあるからだ。田舎の不便さを受け入れる心構えも必要だろう。地域格差はあるが、上下水道の配備環境は都心とは格段に遅れているし、公共交通機関は発達しているとは言い難い。日常の足は自家用車になるため、老後の移動手段や医療や介護について考慮する必要もある。
  田舎物件を手に入れる前に
  田舎暮らしを決断される人の多くは、自然環境が豊富な郊外の山村や高原、海辺などの物件に憧れる。田舎移住を決断し、早速思い切って住宅を購入したり、土地を入手し、建築されようとする人も多いだろう。しかし、見知らぬ土地への移住という一大プロジェクトのリスクを回避するために、最初は賃貸物件に最低1年、できれば3年くらい住み、地域に順応しながら様子をみることをおすすめする。
  1. 移住する時に希望する環境と、移住後、時間が経つにつれ、希望内容に変化が生じる可能性がある。
  2. 住宅メーカーや業者の評価がわかってくる。
  3. 近所付き合いや仕事、コミュニティ関係から、有効なコネクションがもてる。
  4. 何らかの理由により田舎暮らしを撤退しなければならない場合に損失が少ない。
一関郊外に建築した、我が家のフィンランドログ。ログや建材は、すべてフィンランドから取り寄せたもの。フィンランド人と日本人の合作で完成した。
 
 実際に住んでみると地域住民から生の情報が入るし、物件探しに時間をかけ家族全員が納得できる理想の場所を確保することができる。
  もしも、移住当初から自宅を手に入れるのであれば、入手までの調査期間を十分確保し、何度も足を運びながら検討を進めてほしい。近所の住民や地域活動の内容等も知っておかないと、後で後悔することになりかねない。よほど資金的に余裕のある人以外は、簡単にやり直しがきかないので慎重に検討することが望ましい。
  また、よくリゾートの別荘地暮らしと田舎暮らしを一緒にする人がいるが、実態はかなり異なる。確かに別荘地も都会から離れた所にあるが、その多くは都会の人が集団で田舎に確保した「都会の飛び地空間」であることが多い。そして、別荘地暮らしでは生活コストを下げるのはなかなか難しいことも覚えておいてほしい。
  地域に順応するコツ
少し郊外に出かけると田園風景が広がる。広い空に浮かぶ雲が印象的。四季折々の風景を楽しめる。
  地域に順応するには、その地域を知ることが一番である。地域のルールや習慣、地理そして方言などにも慣れなければならない。一番のコツは、近所付き合いを大切にすることだろう。都会では近所付き合いは薄いが、田舎では近所や地域のプライベートへの干渉がものすごく濃いと感じる。門や玄関に鍵をかけず、近所の人がアポイントもなくドンドン上がりこんできて、長話をしてゆく。しかし、この干渉の抵抗感をなくすことにより、手に入るものは計り知れない。住む土地によって濃淡はあるだろうが、共同体の一員であるという自覚を持つことである。地域の行事や寄り合い等を無視してはいけない。
  最近の田舎の過疎化への対策として、都市部からの移住を歓迎する地方自冶体も増えている。本格的な移住を前に体験ツアーや農業体験等を実施している地域もあるようだ。田舎暮らしを決断する前には、入念な下調べや体験も必要だろう。
  最後に
  私は横浜生まれの川崎育ち、そして東京都内勤務のサラリーマンという田舎とは縁遠い環境から、理想の田舎暮らしを実現した。しかも老後ではなく、働き盛りの33歳という年齢で実行したことにより、バイタリティあるライフステージを自然が豊富な理想の環境で過ごせている。移住当初は、現地の習慣やコミュニティに戸惑いや不安があったが、今では地域にも溶け込み、なじめるようになった。ひとえに家族の努力と地域住民の温かい受け入れがあったからだと感謝している。
<プロフィール>
熊本隆司(くまもとたかし)
田舎移住専門コンサルタント、NPO法人田舎暮らしフォーラム理事長
1964年生まれ。
1998年、13年間の東京サラリーマン生活に終止符を打ち、岩手県一関市へ移住。県内の食品商社へ入社。移住4年後に郊外の山林を購入し、念願のログハウスを建築、理想の田舎暮らしを実現する。
現在は個人向けに田舎暮らし実現のノウハウ支援や情報発信やセミナー活動、地方企業向けにUIJターン転職者雇用のコンサル業務を開始。岩手と東京を飛び回る生活を送っている。
メールマガジン「サラリーマンの為の田舎暮らし(移住)実現の秘訣」発行
「幸せな田舎暮らしを実現するホームページ」(http://www.liveinease.com/)運営
  発行/(財)生命保険文化センター