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第2回 あるケアマネージャーの“介護な一日” 
本橋伸恭(練馬区立田柄特別養護老人ホーム介護係長) 
今年6月の改正介護法案の成立に引き続き、10月には介護施設での食費と居住費が利用者の自己負担になることが決定しています。変わりつつある介護現場で働くスタッフは、今、どのようなことを感じたり、考えたりしているのでしょうか。都内の特別養護老人ホームにお勤めの本橋伸恭さんにお聞きしました 。
  1. 私の職場
 練馬区立田柄特別養護老人ホームに勤めています。練馬区で一番大きなホームで、建物は地下1F、地上3F。2フロアに100人のお客様がいらっしゃいます。 
  介護保険制度スタート前の平成元年オープンの施設なので、ユニットケアではなく、4人部屋です。老朽化もしているし、様々な部分の修繕を考えているのですが、金銭面はもちろん、いろんな問題があって、なかなか改装も進められないのが現実です。
 介護スタッフは全部で48人。早勤、日勤、遅勤、夜勤の4シフト制です。私は最近、日勤になることが多いです。
  2. 8月のとある一日
 スケジュールは日によってまちまち。たとえば、日勤だった今日はこんな感じ。
 
▼8:30〜8:40 出勤&朝礼
着替えを済ませて、ロビーに集合。特養のほか、デイサービスとか、在宅介護支援センター、訪問介護事業所も併設しているので、それぞれのスタッフも全員で朝礼。
▼8:40〜9:00 申し送り
夜勤と日勤のスタッフが交代する時間。利用者の状況報告。体調が悪い方がいれば、病院へお連れしたりすることもあります。そして、スタッフに欠勤者がいるかどうかもここで確認。欠勤者がいれば、私が代わりに入ります。申し送りの内容によって、私のその日のスケジュールが決まるんです。
▼9:00〜10:00 オリエンテーション
福祉関係の資格取得を目指す実習生やボランティア、見学者の方に対して、施設内をご案内します。夏休みのこの時期は、「何かボランティアをさせてください!」って、電話をくださる学生さんが多くなります。そういう方々の窓口役も私の仕事です。
▼10:00〜11:00 業務の調整
スタッフのシフト表を確認します。近ごろ、男性スタッフが多くなりました。私がこの仕事を志した高校生のころ、学校の先生には止められたんですよ。当時は女性の割合が多かったんです。女性:男性=8:2くらい。最近は逆転してきている感じがします。それから、介護保険制度が始まってからは、非常勤スタッフの割合が増えましたね。人件費を抑えるためです。……職場は週休2日制ですが、私が完全に休んでいることは、少ないかもしれない。というのも、仕事がある日は忙しくてできないことを公休日にやっているんです。たとえば、介護器具の展示会に行ったり、大学に講師に行ったり。介護職を目指す人の育成にも興味を持っています。
▼11:00〜12:00 スタッフ採用面接
これからウチで働いてくれる方だと思うと、面接にも力が入る! 「どうしても介護職!」という情熱をもった方に来ていただきたいのですが、「介護職って安定しているでしょ」と安易な考えで面接に来られる方が最近増えてきているのが、ちょっぴり残念。
▼12:00〜14:00 事務作業もろもろ
事務室のデスクに戻って、ひたすらデスクワーク。私の場合、デスクワーク:現場=7:3くらいかな。ほとんどデスクワークっていう人もいるし、訪問介護をメインでやっている人もいるし、同じケアマネ(介護支援専門員)でも働き方はいろいろです。現場が好きだし、お客様と触れ合うのが楽しいから、現場の割合を増やしたいとも思うけど、デスクワークも「自分の理想の施設を運営したい!」という夢があるからこそ頑張れます。専門学校時代、アメリカとカナダの老人ホームを視察して、カルチャーショックを受けたんです。まず施設が明るくてキレイだし、お客様が自由で生き生きとしていたから。それに比べて、日本の福祉は遅れていると思ったんです。たとえば、当時の日本の施設は、お客様の性別がわからなかった。男性も女性も同じように髪を短くさせられていたからです。洗髪をラクにしたいとスタッフが考えていたのが、その理由です。帰国以来、「日本の福祉を私が変える!」という思いで、13年間ずーっと今の仕事を続けている私。けっこうアツい男ですか?(笑)
▼14:00〜17:15 会議の準備
今は法人内全施設でITのネットワーク化を進めているので、それに絡んだ会議が続いています。お客様一人ひとりの医療面・介護面の情報をパソコン上で管理するマスターを作ったり、システム管理会社と協力してその運営を考えたり。……今日は一日施設内にいるけど、午後はもろもろの会議とか出張で外出していることも多いですね。会議の資料作りをしながら、カップラーメンで昼ごはん。コンビニのおにぎりやサンドイッチをデスクで食べて5分で終了って、……ダメですね……。
▼17:15〜??:?? まだまだ仕事
17:15の定時で帰れることは、……まず、ない。だいたい家に着くのが20〜21時くらい。早めに仕事が終わる日は、スタッフと一緒に食事(というか、飲み?笑)に出かけることもあります。自分の教え子の中にも、同じ介護の道に進んでいる子が多いので、近況報告がてら、彼らと飲みに行くこともあります。そういうときは、みんなで仕事のことをアツく語ります。
ベッドに横になったまま入れるシャワーバス。浴槽に入るときのような心臓への負担もないし、シャワーだから溺れる心配もありません。介護器具の進歩はスゴイ!
各部屋は「〜番地」という名前に。病院ではなく、お客様の「家」だからです。
100人分の洗濯物を洗うので、大型洗濯機がフル稼働。施設内では病院みたいなおそろいのパジャマじゃありません。着るものは、ご自分で着たいものを用意していただいています。自分の家で自分の着たい服を着るって、当たり前の感覚ですよね?
  3. 改正介護法案について思うこと
 事務室で最近話題になるのが、改正介護法保険法について。今後、経営としてどのような状態になっていくかとても不安を感じています。個人的には、要介護区分が細かくなったほうがいいと思っていたので、平成18年4月からの「要支援1」「要支援2」が増えることは大賛成。それから、介護予防もとても大切なことだと思うけど、実際には採算がどうなるのか。国が年度の途中で法律を改正するっていうのは、かなりスゴイことです。それだけ国の財政が苦しい状態にあるっていうことなんでしょうね。
 10月には食費と居住費がお客様の自己負担になりますね。それに合わせて、栄養ケアマネージメントの研修に参加しました。今後はお客様ごとの食事量を細かくチェックしたり、より効率的に栄養を摂取できる方法を考える必要があるんです。
  4. 日ごろ考えていること
 自分がこの仕事を始めたころには、介護に関する法律が、こんなに変わっていくとは想像していなかった。スタッフには「勉強しなさい」って言っているんです。これだけ介護環境が変わっているのだから、目先のことだけじゃなく、5年または10年先の福祉の形、福祉全般を見ていく必要があると思います。
 それから、今後はサービスの標準化が求められていくでしょう。スタッフが変わっても同じサービスを提供できるよう、マニュアル作りを始めました。これは事故を防ぐためでもあるし、お客様同士に不公平感を生まないためでもあります。でも、実際、お客様それぞれに状態は違うわけなので、臨機応変なサービスも求められている。今は、サービスの標準化と、介護内容の個別化のギャップに頭を悩ませているところです。
 事故防止のために、いつも私がスタッフに言うことは、もう一つ。それは、事故が起こるのは“介護の根拠を見出せていない”、“気付きが足りない”からだということ。“根拠がある介護が大切だ”ということ。サービスのたびに、スタッフには「なんで?」って、考えてもらいたい。たとえば、この方がなぜ車椅子に乗るのか、とか。その理由を考えれば、適切な介護の仕方とか、介護器具・用品が選べるからです。
 いろいろ大変なことも多いけど、お客様の笑顔に毎日救われます。この気持ちは、この仕事を始めて13年たった今でも、私の中ではずっと変わらないんです。
<プロフィール>
本橋伸恭(もとはしのぶやす)
1972年生まれ
介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネージャー)
専門学校卒業後、区立特別養護老人ホーム勤務
現在、練馬区立田柄特別老人ホーム介護係長、女子栄養大学ホームヘルパー2級講師、練馬区介護保険審査員
元東京都立大泉学園高等学校福祉コース市民講師
  発行/(財)生命保険文化センター