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第1回 介護予防のねらいと給付内容 
−改正介護保険法のポイント− 

鏡 諭(所沢市保健福祉部高齢者いきがい課主幹) 
6月22日に改正介護保険法が成立し、その大部分は2006年4月から施行される予定です。
今回の改正に含まれる新キーワード「介護予防」をふまえ、改正までの流れと新たなサービス内容についてまとめます。
  1. 介護の社会化
 2000年4月からスタートした介護保険制度は、創設当初は「保険あってサービスなし」という言葉に表されるように、高齢者のニーズに対応できるだけサービスが円滑に整備できるか心配された。ところが実際には、サービス基盤整備のスピードは予想をはるかに上回るものであった。多くの職種の事業者が参入し、サービスの量及び種類が大きく増えた。サービス事業者は5年前に比べて2倍に、その事業規模は制度創設以前(平成11年度)と比較すると約50倍になった。
 2003年4月には、保険料が月額2,911円から3,293円と13%増となったにもかかわらず、利用者は5年間で150万人から250万人へと増加した。厚生労働省は平成18年からの第3期介護保険料は全国平均で4,300円になると試算しており、必然的に介護保険全体の財政規模は大きくなり、平成17年度の介護費用は7兆円に近づくと見込まれている。
  2. 介護の重度化
 増加するサービス利用の特徴としては、「要支援・要介護1」の「軽度要介護者」の増加が大きいことである。要介護者全体の伸びは、4年間で13%の伸びであったが、2000年4月で「要支援」291万人、「要介護1」が551万人であったのに対して、「要支援」581万人、「要介護1」が1,225万人と、2.13倍に増加した。
  また、もう一つの特徴として、「要支援」の約6割、「要介護1」の約5割が「重度化」しているという。(図表(1)(2)参照)

 介護保険の法定給付は、「要介護1〜5」は「介護給付」、「要支援」は「予防給付」と区分されている。「予防給付」は施設入所やグループホームの給付が受けられないなど、いくつかの制約がある点と、訪問介護や通所介護といった「居宅サービス」は月に6,150単位(要介護1は16,580単位)までと限度額が決められている点を除けば、特別に「介護給付」と異なったメニューにはなっていなかった。そのため、「訪問介護」の「生活介助サービス」の利用が多く、それが「介護の重度化」を進めているとの指摘があった。
  例えば、軽度の要支援者が、掃除や食事の作成など本来できる能力を持ちながらそれを使わずに、ホームヘルパー等に任せることによって、自分が持っていた能力を失う事を「廃用症候群」(※1)と規定し、それにより重度化するとしている。
 
(※1)「廃用症候群」=身体の全部あるいは一部を使用せずにいること(活動性低下)によって、全身あるいは局所の機能的・形態的障害を生じること。
諸症状は極めて多彩であるが、(1)筋力低下、筋萎縮、関節拘縮、骨粗鬆症などの局所的廃用によるもの、(2)心・肺機能低下などの全身的廃用によるもの、(3)起立性低血圧などの臥位・低重力によるもの、(4)知的活動低下などの感覚・運動刺激の欠乏によるものに大別できるが、実際にはこの4症状がほとんど常に同時に存在している。
 このような背景から、「介護予防」を充実させて要介護者の出現を抑え、あるいは、軽度の要介護者の重度化を防ぐなどの目標が掲げられ、それが結果として財政の健全化をはかり、持続可能性のある制度の維持につながると認識されているのである。
 要介護高齢者にならない事、いつまでも元気でいる事など、誰もが望む理想の姿を目指して、介護が必要な状態の可能性を少なくする、あるいは重度化させない取り組みが、政策としての「介護予防」となる。
 こうした現状を踏まえ、介護保険制度における介護予防の意味を問い直し、それが効果的に行われるようにサービスメニューを見直し、新たな体系に組み替えたのが今回の改正である。(図(3)「介護予防サービスの流れ」参照)
  3. 「サービスモデル」の転換
 「予防」の視点を入れたサービスモデルへの転換として、医療保険福祉審議会介護給付費部会報告では、
         ア.「介護」モデルは「介護+予防」モデルへ、
         イ.「身体ケア」モデルは「身体+痴呆ケア」モデルへ、
         ウ.「家族同居」モデルは「家族同居+独居」モデルへ
の転換が求められると述べている。
 さらに新たなサービスとして、(1)筋力向上トレーニング、(2)転倒骨折予防、(3)低栄養予防、(4)口腔ケア、(5)閉じこもり防止、(6)フットケアなどを例示した。また、介護予防マネジメントについては、市町村がもっともふさわしい責任主体とし、その中心的な役割を「地域包括支援センター」が担い、指定を受けた介護予防事業者がサービスの提供を行う構造を構想した。これが後に「介護予防=筋トレ」の誤った解釈をする人が出現し、訪問介護の給付を受けている人が、要介護1及び要支援になったら筋トレしかサービスがなくなるとか、なったら筋トレしかサービスがなくなるとか、家事援助は使えないなどの誤解を生んだ。(国会答弁によれば、「新予防給付においても、家事援助を一律カットすることはない。適切なケアマネジメントに基づいて提供される家事援助は認められる」としている。)
 この予防重視型システムへの転換は、要介護認定において新たに要支援を2段階に分け「新予防給付」を創設し、要支援者に対しては状態の重度化を防ぐ軽度者を対象とするマネジメントを市町村が責任主体となり、地域包括支援センター等において実施して、要介護者を増やさない、あるいは重度化をさせない事を目的としている。
  4. 介護予防の内容
 「新予防給付」のサービス内容については、既存サービスを評価・検証し、有効なものをメニュー化して、運動器の機能向上や栄養改善など効果の明らかなサービスについては、市町村モデル事業の評価等を踏まえ、介護給付部会の議論等、今後、政・省令等を通じて市町村に基準及び費用報酬等が示される形となる。
(1) 介護予防の内容
介護保険法改正法では、「介護予防給付」として、図表(4)のように必要に応じた給付が提供される仕組みとなっている。
「介護給付」:要介護1〜5の人が対象。他保険者区域のサービス事業者でも使うことができる。
「地域密着型サービス」:要介護1〜5の人が対象。
保険者区域に所在するサービス事業者のサービスを利用できる。
「予防給付」:要支援1・2の人が対象。他保険者区域のサービス事業者でも使うことができる。
「地域密着型介護予防サービス」:要支援1・2の人が対象。
保険者区域に所在するサービス事業者のサービスを利用できる。
(2) 地域支援事業
さらに、要支援者については、高齢者人口の5%程度とし、この層を対象とした効果的な介護予防事業として、市町村を責任主体とする「地域支援事業」の創設がある。
「新予防給付」が要介護認定で、要支援となった人に対する介護予防給付であるのに対して、すべての高齢者が要介護状態にならない事を目的に設置するのが「地域支援事業」である。
1)

地域支援事業の内容

 

地域支援事業は必須事業と任意事業で構成されており、必須事業には、介護予防事業として、要介護者及び要支援者以外の被保険者を対象として介護予防サービスを提供する事業と基幹事業が予定されている。

(ア) 介護予防マネジメント事業
  要介護者及び要支援者以外の被保険者を対象として介護予防サービスのマネジメントを行う事業。
(イ)

総合相談・支援事業

  地域で生活する高齢者の案態を把握し、被保険者及びその家族の相談に応じ、行政機関、保健所、医療機関など必要なサービスにつなぐなどの支援を行う事業。
(ウ) 地域ケア支援事業
  専門的知識を有する者が協働し、個々の要介護者の居宅サービス計画(ケアプラン)の検証や介護サービスの利用状況に関する定期的な協議・支援困難事例への指導及び助言等、個々の被保険者に対してさまざまなサービスを包括的に、かつ長期間にわたり継続的にマネジメントを行う事業。
さらに任意事業としては、市町村は地域支援事業として、
1.介護給付費適正化事業、2.家族介護支援事業、3.その他事業の3事業を行うことができるとされている。
なお、高齢者虐待防止事業、 権利擁護事業は当初任意事業として提案されたが、衆議院の付帯決議で必須事業に組み込まれた。
  5. おわりに
 今回大きく改正が加えられた「介護予防」は、文字通り「介護の予防」でなければならない。そのためには、状態の変化を捉え、その効果を明らかにしていく必要がある。しかし、介護と予防の関係は、単純ではない。したがって、今後は、様々な角度からエビデンスを示していくことが、厚生労働省、自治体、事業者の関係機関の共通の課題となる。今回の改正が3年後には再度見直しにかけられることが審議の過程で盛り込まれた。「介護の予防」が本当に可能か、評価は3年後明らかになる。
<プロフィール>
鏡諭(かがみ さとし)
1954年山形県生まれ
所沢市保健福祉部高齢者いきがい課主幹
自治体学会会員(運営委員)
日本公共政策学会会員
日本成年後見法学会会員
著書に『自治体現場から見た介護保険』(東京法規出版刊、2001年)、
『介護保険なんでも質問室』(ぎょうせい刊、2002年)、
『介護予防のそこが知りたい!』(ぎょうせい刊、2005年)ほか
  発行/(財)生命保険文化センター