SPECIAL 02
特集2
情報の力で防ぐ消費者トラブル
―消費者教育の充実で意識を変えよう―
(社)全国消費生活相談員協会 理事長 藤井教子

◆藤井教子
[ふじい・のりこ]
奈良県出身。1954年、奈良女子大学理学部卒業。奈良地方裁判所民事調停委員、奈良県生活科学センター嘱託消費生活相談員、物価安定政策会議委員、国民生活審議会特別委員などを歴任。1997年より現職。

◆(社)全国消費生活相談員協会事務局
〒108-8566 東京都港区高輪3-13-22
国民生活センタービル内
TEL.03-3448-9736(代表)
FAX.03-3448-9830
ホームページアドレス http://www.zenso.or.jp/


全国の消費生活センターなどで相談業務に従事する消費生活相談員は、消費生活全般にわたる高度な知識と実務能力が必要とされる専門職です。当協会は消費生活相談員の全国組織であり、昭和52年(1977年)12月に任意団体としてスタートし、同62年11月に社団法人となりました。日々消費者と接する最前線にいて感じることは、情報は大きな財産だということです。その財産を生かし、提言や消費者啓発を行っている中から、情報・情報化ということについて考えてみます。

■週末電話相談と「○○110番」
 当協会の活動の柱の一つに、平成10年(1998年)にスタートした週末電話相談があります。週末に、東京と大阪の2か所で、消費生活に関する苦情や問い合わせを受け付けています。
 消費者相談ほどあらゆる情報が集まるところはありません。困ったときの駆け込み寺といった位置づけで認知されているのではないでしょうか。相談件数は年を追って増加し、平成15年度は初年度の約7倍、前年に比べて45%も増えています。ここ数年は金銭の介在する契約トラブルが目立って増えてきており、15年度の相談を内容別に分類すると、全体の87%をこうした「契約・解除」が占めています。携帯電話やインターネット利用などによる架空請求に悩む若者からの相談件数は、前年の3.8倍に急増。さらにサラ金・ヤミ金融の相談、高齢者の契約被害なども増加傾向にあります。トラブルに悩んでいる人は、せっぱ詰まった状態で電話をしてきます。不安な思いをじっくり聞いて、相談者の信頼を勝ち得たうえで適切なアドバイスをします。
「架空請求、悪質商法などのトラブルに巻きこまれないように」と制作されたチラシ。
 16年度からは、原則として助言にとどめていた苦情処理を斡旋にまで拡大し、救済の手を差しのべるよう努めています。
 法人化とともに始めた「○○110番」活動も着実な成果を上げています。今までに、訪問販売、クレジット、パックツアー、住宅契約問題、契約トラブルなど、さまざまな問題を扱ってきました。今後も、深刻なトラブルに悩む相談者の声をすくいあげていくことが私たちの役割なのです。


■情報を目に見える形に
 消費者相談は情報の宝庫です。相談の最前線にいると、法律の不備がよく見えてきます。それを指摘できるだけのデータを集めて、情報を目に見える形にしています。電話相談やアンケートなどの内容はカードにまとめ、データ化されます。内容別、年代別、前年比などあらゆる要素で数値化し、結果を分析します。
 一つひとつの相談は小さくても、数が集まることで傾向が見えてきます。そこから浮かび上がる問題点を指摘し、改善に向けた提案をするのも私たちの使命です。
 たとえば、「パックツアー110番」を設けて旅行会社への苦情を集めてみたら、大きな反響がありました。そこで得たデータをもとに要望書を提示したところ、各旅行会社にお客様相談窓口が作られるようになりました。ほかにも、法律の細かい表現にこだわって議論を重ねたり、法の不備を指摘して法改正につなげたり、着実な成果を上げています。これも地道な情報収集と分析のおかげです。


■消費者トラブルの未然防止に向けて
 消費者を取り巻く環境は時代とともに変化しています。平成13年施行の消費者契約法、同16年改正の特定商取引法と消費者基本法、同17年施行の個人情報保護法など、消費者を守る法律の整備は、変化を追いながら徐々に進んできています。
 事業者と消費者を対置したとき、情報の質・量ともに圧倒的に不利なのは消費者です。まして事業者が悪意を持って接してきたり、不正な情報を知らずに与えられたら、判断材料のない消費者はかなうわけがありませんよね。
 そこで、法律の意味を理解して、トラブルにあったときに落ち着いて対処できるようなノウハウが重要になります。近年、当協会で特に力を入れているのが、情報を消費者に還元する「消費者教育」、「啓発活動」です。
 その一つに、チラシやパンフレット、ブックレット、ビデオなどの作成と配布があります。多重債務、クーリング・オフ、マルチ商法など、大きな被害の出ている経済事象から、携帯電話の賢い使い方、健康、ペットとの付き合い方などの身近な事柄を取り上げて、社会生活を営むうえで必要な知識を伝えています。
 また、平成13年度より「消費者問題出前講座」を開催しています。主に高齢者を対象に、消費者問題に関する情報・知識の普及を図り、トラブルに巻き込まれるのを未然に防止することが目的です。講座は、平成16年度までに全国5,700か所以上で開講、受講者は約20万人にのぼります。受講後、消費者の権利がよくわかった、実際の場面で戸惑うことなく対処できると思うといった声が多く寄せられ、草の根から消費者意識が高まりつつあることを実感しています。


■情報を使いこなす消費者に
 消費者に対する新手の悪質商法はあとを絶たず、多重債務、振り込め詐欺など、消費者トラブルは増える一方です。国民一人ひとりが適切に対応できればいいのですが、そうはいかないのが現状ですね。
消費者へ向けたさまざまなパンフレットなど。
 相談を受けていて感じるのは、契約に無頓着な人が多いということです。たとえば、「いいです(ね)」という言葉には、「いりません」という意味と「いいものですね(いただきます)」という二つの意味がありますね。「結構です」という言い方も同様です。悪質商法といわれるものは、曖昧なところをついて契約に持ち込むものが多いですから、ずるずると業者のいいなりになってしまうこともあります。はっきりとした態度を示して断ることが大事です。
 相談者は、新聞やニュースで知っていたけれど、まさか自分が当事者になるとは思わなかったと口をそろえて話します。消費生活をしている以上、誰もが被害者になる可能性があるということを肝に銘じておいてください。失敗を教訓に、次の機会には立ち止まって考えられる消費者になってほしいと思いますね。
 いずれは、消費者同士のネットワーク作りにも取り組みたいと思っています。地域、グループが中核となって、悪質商法の問題点を理解し、困ったときはどうすれば救済されるかという情報を伝えていきたいですね。
 元気で判断力のある人が中心にいて、被害を未然に防ぎ、もし被害が出たら専門家に相談するという流れを定着させたいのです。消費者の意識を変えるには、家庭や学校での消費者教育が大切です。世代を超えて全国民が消費者なのです。情報を共有し、理解し、使いこなす―こうした消費者になることが、現代社会では必要とされているのではないでしょうか。(談)。


 
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