野口悠紀雄
[のぐち・ゆきお]
東京都生まれ。1963年 東京大学工学部応用物理学科卒業。1964年 大蔵省入省。1969年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校経済学部大学院修士号取得。1972年 エール大学経済学部大学院博士号取得。一橋大学経済学部教授、東京大学教授などを経て、2004年よりスタンフォード大学客員教授。2005年より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。
専攻:公共経済学、日本経済論。
主な著書に、『情報の経済理論』(東洋経済新報社、1974、日経経済図書文化賞受賞)『予算編成における公共的意思決定過程の研究』(共著、大蔵省印刷局、1979、毎日新聞エコノミスト賞受賞)『財政危機の構造』(東洋経済新報社、1980、サントリー学芸賞受賞)『バブルの経済学』(日本経済新聞社、1992、吉野作造賞受賞)『金融工学』(共著、ダイヤモンド社、2000)他
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「整理」に関する基本的な真理は、つぎのことである。すなわち、「整理ができるかどうかは、時間とスペースに依存する」。
整理するための時間を十分に持てる人にとって、部屋や机の上を綺麗に維持するのは、困難なことではない。しかし、忙しい人は、整理などやっていられない。なぜなら、整理とはそれほど緊急を要することではないからだ。机の上や部屋が乱雑に散らかっているのが快適でないことは明らかだが、それでも仕事を続けることはできる。緊急の締め切りに追われている人にとって、仕事場の環境の快適化など、二義的なことだ。そんなことに時間を使うより、目の前に迫った締め切りに対処しなければならない。だから、整理は後回しになる。
また、不用品を格納するために十分なスペースを持つ人にとっても、整理は楽な仕事である。当面必要のないものは、目につかない場所に移してしまえばよいからだ。倉庫や納戸の中にモノが溢れていようと、仕事場や応接室は綺麗にできる。
以上は、家財道具などをも含めた一般的な整理についてのことだが、本稿の主題である「情報」についても、同じことがいえる。
第一に、ヒマな人にとって情報の整理はそれほど難しい仕事ではない。一日中整理だけやっていることも不可能ではないだろう。情報の整理が難事になるのは、「そんなことをやっている時間の余裕はない」からなのだ。
第二に、当面使わない情報を格納するのに十分なスペースをもっている場合には、やはり「整理」は簡単だ。これは、とくに書籍や書類など、モノ(主として紙)に化体された情報の場合には、自明なことである。本や書類の整理が難事になるのは、「それを格納する場所が十分にない」からだ。
以上を考慮すると、情報の整理や活用に関して一般に言われていることがいかに無益であるかが納得される。
通常言われる情報整理の基本は、資料や書類を内容にしたがって分類することだ。つまり、「まず分類し、それにしたがって置き場所を区別せよ」という方法だ。われわれは、子供の頃から「整理は分類なり」と教えられてきたので、「分類しない限り検索はできない」と信じ込んでいる。こうして、仕事関係の書類なら、連絡文書、名簿、保証書、使用説明書、マニュアル類、経理関係書類などと分類し、それぞれ別の場所に置く。論文コピー、新聞切抜き、報告書などの資料は、事務関連書類とは別にする。そして、資料であれば内容別に区別し、報告書ならプロジェクトごとにまとめる。場合によっては、処理済み、未処理、要返信、重要書類などという区別をする。われわれは、これこそが「正しい」方法であると信じている。
しかし、これは本当に正しい方法なのだろうか? 実は、これこそが最大の問題なのである。
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