SPECIAL 02
特集2
「こんなお金の使い方、金銭感覚で子どもの心は育つのだろうか?」
素朴な疑問からスタートして現在メンバーは50人、
小学校低学年から高齢者、情報弱者に消費者教育を実践
C・キッズ・ネットワーク 代表 大森節子

大森節子
[おおもり・せつこ] 
羽衣短期大学英文科を卒業後、1973年総合商社丸紅に入社。80年に結婚を機に退社。94年、消費生活専門相談員資格取得。96年、消費生活アドバイザー資格取得。97年、C・キッズ・ネットワークを結成。2001年、こうのとり賞受賞。2003年、環境カウンセラー取得。消費生活アドバイザー受験対策講座講師、同対策問題集・通信教育教材執筆。

C・キッズ・ネットワーク連絡先:
〒665-0014
兵庫県宝塚市青葉台1-15-8
E-mail baadd802@jttk.zaq.ne.jp
http://www.jttk.zaq.ne.jp/c-kids/


 ここ数年、子どもたちの消費生活、お金に対する考え方や実際の使い方が問題になっている。「今の子どもは何か欲しい時にお金をもらい、限られた自分のお財布の中で必要なものを選択するという体験が少ないんですね」そう語るのは、7年前に同様の考え方で意気投合した主婦3人ではじめた、子ども向け消費者教育のプログラムを実践する“C・キッズ・ネットワーク”の代表、大森節子さん。神戸の生活創造センターを拠点に、その活動は当初の小学生対象から、保護者、中高生、そして高齢者にまで広がり、共感するメンバーも50人になった。

■それまで子ども向けの消費者教育はなかった
 “C・キッズ・ネットワーク”は、大森節子さんを中心に3人の主婦が集まって1997年にはじまった。商社での勤務を経て、結婚、子育ての時期を終え、大森さんは日頃から感じていた消費生活の疑問を主婦の目で、また専門的な立場から考え、消費生活の向上に役立ちたいと、96年に通商産業大臣認定(現在 経済産業大臣認定)資格である「消費生活アドバイザー」の資格を取得した。大森さんは言う。
 「子どもが幼い頃はマンション暮らしで、同じような間取りの家に同じ年頃の子どもがいる家族が住み、どの家にも同じような玩具がありました。ある家が新しい玩具を買うと、あれが欲しいと同じ玩具があちこちの家に波及し、人気のキャラクター玩具ともなると2つ3つと増えていき、飽きてくると狭いマンションですからすぐに捨てられてしまう。こんなことで子どもの心は育つのだろうか、とまず思いました。しかも、それらの玩具は複合素材のリサイクルできないものが多く、環境にもよくありません。また、食べ物も添加物などの入ったものが増えてきて、私も心配ですが、子ども自身がもっといろいろなことを知り、考える必要があると思ったんですね。でも、正直、そういう話って学校の保護者会とかご近所の人に正面きって話しにくいことでもありますよね。そんな思いがずっとあって、子育てが一段落したので、消費生活アドバイザーの資格を取得しました」

 同じ資格者で、やはり子どもの消費者教育をしたいと思っている方に出会い、何はともあれ、3人でスタート。当時は、国民生活センターに代表されるような大人向けの消費者教育、あるいは環境、リサイクルなどに関する消費者機関はあったが、「子ども向けの消費者教育」的なものは、大森さんの知るかぎり全国でもなかったという。何も手本がなく、ノウハウやシステムもないまま、文字通り手作り・手弁当ではじまった“C・キッズ・ネットワーク”。

 小学校の低学年をイメージして最初につくられた教材は、『べんりノート』『ぐりーん・ちぇっく』『おやつの城たんけんスゴロク』の3種。この3冊はいまも活用されている同ネットワークの定番教材となっているが、内容的には、金銭を考える『べんりノート』、環境チェックを通じて子どもたちの意識を変えようという『ぐりーん・ちぇっく』、そして食育に役立つ『おやつの城たんけんスゴロク』と、「いま考えると、私たちのやりたい金銭・環境・食育の3本の柱が最初から揃っていました」
 だが、つくった教材を渡すだけでは思いは伝わりにくい。そこで編み出したのが、ワークショップ形式の教育プログラム。それもお説教じみたものでは子どもたちも聞いてくれないと判断して、オリジナルのキャラクターやテーマソングを使ったパネルシアターや紙芝居など楽しめるものに仕上げた。たまたま大森さんの地元である宝塚市の公民館に託児所つきの子ども育ち講座があり、そのひとつとしてこのプログラムを行った。
 「何でも買いたがる“カイタロー”というキャラクターが、最後は本当に欲しいものだけを買って大切に使うと誓うお話をテーマソングつきで演じると、子どもたちは大喜びで、若いお母さんにも受けました。消費者教育ばかりじゃなく、それだけをイベント的にやってくれないかという要望が出るくらい、人気がでました」(創立メンバーのひとり、大島京子さん)
 続いて宝塚のふぁみりい劇場(親子劇場)で、いまも同会の活動の柱となっている「出前講座」を開催。これも大好評で、これからもやっていけるという目安がついたという。

 

■楽しく、わかりやすく、ユニークなプログラム
 もちろん、そのシステムやノウハウの構築にはそれなりの時間がかかったが、ある程度プログラムがかたまり、「出前講座」も増えてくると、自然とメンバーも増えていく。また時代も、子どもにも消費者教育が必要だという風潮がでてきた。それも学校からの依頼というよりも保護者がその必要性を感じて、“C・キッズ・ネットワーク”の活動に共感してくれたのだ。
 確かに、近年の子どもたちの現金に対する認識、お金の使い方は親がほおっておけない状況にある。かつては日常的に行われていた少額の硬貨を大事に握りしめ、駄菓子屋さんに行ったり、目標を決めてお年玉やお小遣いを貯金するという習慣が、今は少なくなりつつある。コンピュータ・ゲーム機に代表されるように玩具も高額になり、少子化の影響で祖父母が安易に大金を孫に渡したり、その大金を無造作にポケットに入れ、子どもだけで価値もわからず一万円札で買い物をすることもある。またプリペイドカードや携帯電話の普及でふだん現金を使う機会が減っていることもあり、金銭感覚が育ちにくい状況にある。
 「お小遣いの範囲でやりくりするということが、中学生でも体験出来ない時代です。欲しいものを我慢するという気持ちも育っていない生徒が多いです。そしてそのまま、高校大学に進み、社会人になってカード破産ということにもなりかねません」(大森さん)
 そこで“C・キッズ・ネットワーク”の役割が重要になってくる。当初は小学生および保護者を対象にしていたのが、99年には中学・高校生、さらには2001年からは高齢者もその対象になる。
 プログラムは実にユニークだ。小学校低学年向けとしては前述のパネルシアターや紙芝居のほか、大型のパネルを使った「拡大省エネカルタ」「拡大おやつの城たんけんスゴロク」、ワークショップでは「みんなでお買い物」など、中学年向け「地球のドクター」など、小学校高学年向けに「おやつ調査隊」や「プレゼントの値段」など、中高生の教材として「CONSUMER PASSPORT」や「省エネなるほどすごろく」など、実際に参加者が演技に参加する「悪質商法ロールプレイ」、そして講座の復習を最後に確認する「○×クイズ」など、対象年齢に応じて多彩だ。
 「楽しく、わかりやすいがモットーで、もちろん対象に合わせたプログラムづくりを心掛けていますし、写真やメッセージカードなどを用意し、言葉での説明はできるかぎり少なくしています。そして、教えるのではなく、ワークショップの作業を通して気づいてもらうことを大切にしています。また、時代に合わせてメンテナンスも随時行っています」

 そのメンバーは、消費生活アドバイザーのほかに、消費生活専門相談員、消費生活コンサルタントのいずれかの資格をもっていることが条件だ。現在、20代から60代まで幅広く約50名、主婦や消費者センター相談員、教師、企業OBなど、年齢や社会的環境もさまざま、男女の制限はないが男性のメンバーは2人、「企業人としての体験を生かし、対外的な書類をつくってくださったり、他団体との連携など、その存在は大きいですよ」と、大森さん。

中高生の教材である大きなサイズ「省エネなるほどすごろく」
小学生低学年用の「おやつの城たんけんスゴロク」
 
  「同じプログラムをいろいろなメンバーがいろいろな場所で講座を行い、それぞれ報告書として提出していますので、自分が担当する場合の参考になりますし、プログラムのメンテナンスも短時間ですみます。これは個人ではなく、グループとして活動している最大のメリットだと思います。そのうえ、同じプログラムを出来る講師がたくさんいますから、学年全体や5クラス同じ講座などのオファーにも対応可能です。また、緊急事態にも他のメンバーがリリーフ登板できます」

■教材やプログラムに終わりはない、つねに現在進行形で将来を見据える
 最近メディアを騒がせ、社会問題にもなっている「オレオレ詐欺」や「架空請求」に対しても、“C・キッズ・ネットワーク”では、高齢者対象の講座で対応している。特に高齢者に対する悪質商法の被害が目立ちはじめ、内閣府から(社)全国消費生活相談員協会への委託事業として「出前講座」が行われるようになった。“C・キッズ・ネットワーク”のメンバーで(社)全国消費生活相談員協会の会員は、消費者センターや地域コミュニティからの講座依頼を受け大忙しだ。
 「最初は子どもたち対象に始めたんですが、だんだん対象が広がりました。これも時代の要請だと思うのですが、情報弱者といわれる高齢者の方々、知的障害者、中度難聴者に対しても、新しい通信手段のITについてのメリット・デメリットをやさしく紹介したり、悪質商法についても紙芝居やロールプレイを通じて体験的講習を行っています。受講生のみなさんはなかなかの役者揃いで、オーバーに演技したり台詞を話してくれますので、楽しい雰囲気のなかにも撃退法をしっかり身に付けていただいています」
 ほかにも農水省の食育実証研究助成に採用された和歌山大学の赤松純子先生との共同開発プログラム「コンビニ食ってどんな食?」では、仮想コンビニでのランチメニュー選びから、バランスの取れた食生活への提案を高校生中心に出前講座しています。まじめな主婦が多い高齢者には体調が悪いときなどに中食 を利用した簡単なメニューを紹介するなど、3本柱のひとつ「食育」をここでも行っている。
 「食育」ということに関していえば、高齢者よりむしろ若いお母さん方に聞いてもらいたいと大森さんは言う。
 「本当に教育が必要なのは子どもをもつ若いお母さん。もちろん一概には言えませんが、子育てのなかでも食はいちばん大事な要素であるはずなのに驚くほど関心が薄いんですね。興味はテーマパークや趣味、ファッションなどで、子どもにはコンビニ食ですませるとか……」となかなか手厳しい。だからこそ、“C・キッズ・ネットワーク”では保護者対象の食育プログラムにも力をいれている。
 「高齢者講座では最後には、相談員協会の先輩が作ってくれた消費者契約法を解説した『契約法音頭』(『炭坑節』の替え歌)」を歌ったりしますが、これが盛り上がるんです」
 ワークショップや講座の参加者からも、「こんなにわかりやすく、楽しい講座は初めてだ」という声に集約されているように高い評価を得ている。また、現在は教育学部の大学生や家庭科教師の研修会などでの教材や教育プログラムの紹介、消費者センターや生協との連携により、さまざまな年齢層に対応した講座や教材の提供、そして講師の養成にと活動の場を広げている。ちなみに、2003年の「出前講座」は小学校28講座、中学校7講座、高校31講座、指導者向け4講座を含め115講座を数えるが、いいことづくめではない。
 発足して7年、“C・キッズ・ネットワーク”はどこからも金銭的な支援を受けていない。そのため、メンバーは仕事や家事などの多忙な時間をやりくりしての参加となり、相応の報酬もままならず、事務局費も十分に支払えていない。
 「会の継続、健全な発展を考えると、確かに経済基盤は不安定で、メンバーの好意に支えられているのが現状です。また、新しい教材やプログラムの開発には時間と経費がかかります。これも助成金を申請しないと困難な状況です」
 プログラムの主な依頼元である学校では、こうした消費者教育のための予算は計上されていない。
 「消費者教育を受ける権利は先進国では常識です。日本では公教育のなかできちんと学ぶことができません。2003年度から高校の家庭科のカリキュラムに取り入れられましたが、受験科目ではありませんから、進学校では軽視されがちです。小学校低学年から段階を踏んで系統だった消費者教育が受けられるように、行政への提言をこれからも続けたいと思っています」
 さらに今後の方向として、「誰が講師をしても、わかりやすくきっちりした一定の効果があげられるような教材とプログラムを開発し充実させること。同時に講師の育成にも力を入れて学校における消費者教育を支援する活動を続けたい」と大森さん。
 来年夏には、学校教師の研修会にも呼ばれて島根で講座を開く。それは、教師自身への消費者教育という意味だけでなく、その教師を通じて、消費者として自立した意思決定ができる子どもを育てるという意味からも、絶好の機会となるだろう。
 “C・キッズ・ネットワーク”のプログラムも年々改訂され、終わりがない。まさに現在進行形で「7年前は、『消費者教育って何ですか?』と聞かれたぐらいで、まさかこんなに広がるとは思わなかった」という“C・キッズ・ネットワーク”は、前方をしっかり見据えて活動を展開している。

 

【表-1】公民館親子講座のプログラム事例
◎対象:低学年親子 ◎ワークショップ:「やってみよう省エネなるほどカルタ」
◎ねらい:省エネの必要性や具体的に何ができるかなどを、ゲームを楽しみながら親子で学習するプログラム

内容
所要時間
内容 準備物
導入
15分
会と講師の自己紹介。今日の講座について ホワイトボード マグネット
フォトランゲジー
写真を見ながら省エネの必要性を考える OHP(または拡大写真)
省エネカルタ
60分
カルタの内容について考える
拡大カルタでチーム戦
拡大カルタ 景品 省エネカルタ
環境ビンゴ
15分
環境ビンゴで環境マークを覚える ビンゴシート 環境ビンゴシート 景品

【表-2】高齢者講座

内容
所要時間
ねらい・ポイント 準備物
高齢者を狙う悪質商法。被害に遭った時は?
15分
講師と会の紹介「クーリングオフ」「消費者センター」「消費者契約法」 パンフレット キーワードを書いた紙 マグネット
悪質業者撃退訓練
15分
撃退グッズの説明 意思表示の練習 ロールプレイ うちわ 葉書 製作型紙 悪質業者変装グッズ
悪質商法スゴロク
30分
スゴロクを楽しみながら、「クーリングオフ」「消費者センター」などについての理解を深める 拡大悪質商法スゴロク ビッグダイス ポストイット マグネット
○×クイズ
15分
今日のお勉強をクイズで確認 ○×パネル 賞品
契約法音頭
10分
炭坑節の替え歌で「消費者契約法」への理解を深める 歌詞カード配布用 歌詞カード掲示用 マグネット
感想・質問
5分
アンケート アンケート用紙  えんぴつ
 
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