SPECIAL 05 【高齢社会】 頑張れお年寄り、もっと話してほしい
漫画家 石坂 啓

石坂 啓
[いしざか・けい]
1956年、愛知県名古屋市生まれ。78年に上京、漫画家を目指し、故手塚治虫氏に師事。主な作品に、『キスより簡単』『正しい戦争』『安穏族』『セカンドベスト』『おれになりたい男』などがあり、99年、『I'm home』で文化庁漫画部門で大賞、また同庁のメディア芸術賞も受賞。自らの妊娠・出産・育児を綴ったエッセイ集『赤ちゃんが来た』(朝日新聞社)は50万部を超える大ベストセラーに。ほかの著書に『コドモ界の人』『お金の思い出』『学校に行かなければ 死なずにすんだ 子ども』などがある。現在、テレビ朝日「スーパーモーニング」火曜日のコメンテーターとしても活躍。


 私は34歳で初めて子どもを産みましたが、それまではさんざん周囲から、早く子どもをつくりなさいと、いわれたクチです。今とは違い、女は子どもを産んで一人前、という風潮がまだはびこっていた時代ですからね。
 私自身は子どもがいなければいないで気軽だろうな、逆に子どもがいれば、それはそれで面白いだろうな、と思っていました。でも実際子ども(男の子)が生まれてみると、不自由なことがありつつも、それを面白がったり、またこんな筈では……と思ったりすることの連続で、今日までやってきました。

 私が出産した年に、出生率の低下が話題になりました。数字でいうと「1.53(人)」です。でも、この数字、低い、低いとばかりは言えない。普通はまず1人産んで、そのあとに2人目が欲しいか、1人で十分だとかの選択をすると思うんですね。結構リアリティのある数字ですよ。もし数字が「1.0(人)」以下だったなら少しは心配かもしれませんが、「3.0(人)」とか「4.0(人)」のほうが問題だと思いますよ。将来的に人口増になり、環境面からいっても大変なことになるかも……というのはおよその見当がつきます。そのあたりを少子化を憂えてるオジサンたちは考えているのでしょうか。産む自由もあれば、産まない自由もあるわけで、「強制的に産めよ増やせよ」より、自由に選べるほうが風通しのよい社会になるのは事実でしょうから。
 私はこれまでに、子どもを産んで悔やんだことは一度もありません。でも、今なら産まないだろうなと思います。というのも、イラクへの自衛隊派遣に代表されるように、日本の方向がどんどん“なしくずし”的に悪い方向へ向かっている現状があるからです。
 ここ数年の世の中の流れは異常なほどで、気がついたらアッという間に濁流にのまれるおそれがある。憲法の改正についてもそうですし、すでに戦前の弾圧に近いものが始まっているような気がします。でも子どもを持つ母親って、そのような時代の流れに驚くほど鈍感なんですね。もしかしたら徴兵制なども、今では言葉がダサいからといって、国際貢献クラブとか何とか名前をすり替えて男の子は行かされるかもしれないですよ。そんな時代になるのだったら、子どもを産んでやらないぞ、という母親が出てきても当然のことです。


 いままで平和な時代のくらしがあって、当たり前のように平和を満喫してきた。そのなかで自分の人生を考えたり選択したり、わりと呑気に過ごしてきた。だから世の中に対しての警戒心とかも薄れてきていると思います。それにツケがまわってきているのではないでしょうか。もっと動物的な勘を働かせながら、産んだほうがいいのか、産んだらまずいのかを考えてほしいと思いますね。だから、少子化という現象や数字だけを見て、一概に良い悪いとはいえないですよ。

 来年は戦後60年なんですね。どういうことかというと、60歳以下が全員「戦争を知らない子どもたち」になるということです。70歳の方だって終戦時は10歳ですから、戦争の記憶もそう鮮明じゃない。そこでもうちょっと上の世代、例えば戦争体験をお持ちの70歳代80歳代のお年寄りにもっともっと長生きしていただいて、語ってもらいたいです。戦争の悲惨さを。親兄弟が、人々が、いかに死んでいったのか、なぜ助けることができなかったのか……。どれだけ辛かったかを話して欲しい。こんな世の中を見届けるために長生きしてきたわけじゃないと思うんですよ。
 意地でも長生きして、そういうことを声高に語ることができるのであれば、高齢社会だって大いに結構。そうしたら世間も少しは考えるようになるのではないかしら。(談)


 
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