SPECIAL 03【情報】 「情報」に含まれる「常識」に注意しよう
NHKキャスター 池上 彰
顔写真

池上 彰
[いけがみ・あきら] 
1950年、長野県松本市生まれ。73年、NHKに記者として入局、松江放送局に赴任。76年、広島県の呉通信部に転勤。79年、東京の報道局社会部に転勤、警視庁、気象庁、文部省、宮内庁などを担当。この間、NHK特集で教育問題やエイズ問題を制作。89年4月から5年間、首都圏向けニュースキャスターを務め、94年4月から現在も放送中の「週刊こどもニュース」のキャスターとして活躍。現在、報道局記者主幹。主な著書に、『そうだったのか! 現代史』(集英社)、『池上彰の情報力』(ダイヤモンド社)などがある。


■日本でも知られるようになったテレビ局
 イラクで発生した日本人人質事件。このニュースをきっかけに、「アルジャジーラ」というテレビ局のことを知った人もいると思います。私が担当している「NHK週刊こどもニュース」で、「アルジャジーラ」とはどんなテレビ局かを解説したところ、「イラクのニュースを伝えているので、イラクのテレビ局だと思っていましたが、そうではないのですね」という声が寄せられました。
 そうです。イラクのテレビ局ではないのですね。中東の小さな国カタールのテレビ局です。
「アルジャジーラ」とは、「半島」という意味。アラビア半島に住むアラブ人を対象に放送している衛星テレビ局なので、この名前があります。カタールの首長(つまり王様)が、1996年に私財を出して設立した放送局です。
 中東の放送局は、各国とも国営放送で、政府を批判することは許されていません。ところがカタールの首長は、「アルジャジーラ」の放送内容には介入せず、報道の自由を最大限に尊重しています。その結果、「アルジャジーラ」は、これまでアラブ世界でタブーだった政府批判も含め、歯に衣着せぬ放送を出すようになります。他国の政府批判、政府高官の汚職の報道など、次々に放送します。
 これにはアラブ各国政府が怒りますが、相手は衛星放送。空から情報が降ってくるので、止めることができません。せいぜい自国に駐在する「アルジャジーラ」の記者を国外追放することしかできません。
 この放送内容が、これまで国営放送に飽き飽きしていたアラブの民衆の心をつかみます。「アルジャジーラ」は、一躍アラブ世界で最も信頼されるテレビ局になったのです。

■アラブの視点を伝える放送
 アメリカで発生した同時多発テロ事件の後、アメリカはアフガニスタンを攻撃しました。アメリカ軍の最初の攻撃の様子を首都カブールから中継したのは、「アルジャジーラ」だけでした。私たちは、「アルジャジーラ」の放送によって、アメリカのアフガニスタン攻撃を知ったのです。
 そして、イラク戦争。アメリカの放送局は、アメリカ軍の様子を詳しく伝えました。しかし、伝えられるのは、「攻撃する側」の情報ばかり。イラク国民がどんな様子なのか、それを伝えたのが、「アルジャジーラ」でした。イラク国民の被害状況を、刻々と伝えました。「アラブの視点」から放送を続けたのです。

 

■情報は複数の視点で分析しよう
 「アルジャジーラ」のモットーは、「ひとつの意見があれば、別の意見もある」です。
 私たちが、いつも入手している情報には、その情報を発信している側の「常識」が含まれています。その情報をそのまま受け取っていると、いつしか受け手の中にも、その「常識」が形成されます。
 でも、世の中には、ほかの「常識」もあるのです。
 「アルジャジーラ」は、テロリストから送りつけられたメッセージまでそのまま放送してしまうため、「テロリストの片棒をかつぐことになる」という批判も受けています。
 でも、この放送は、「世界には、そんな見方もあったのか」ということを、私たちに教えてくれます。世の中には、まったく別の「常識」があるものだ、と痛感するのです。
 私たちは、いつも膨大な情報に囲まれて暮らしています。受け取る情報を、いちいち吟味している余裕はないのが実情でしょう。
 でも、ときにはちょっと立ち止まって、「待てよ、この情報に含まれている常識は、そのまま受け止めていいものなのだろうか」と考えてみる。そんなことが、必要とされているのではないか、と思うのです。それが、一方的な「思い込み」でない、柔軟な発想を身につける訓練になると思っています。


 
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