特集1 体力づくり編
今日から実行できる体力づくりのABC―その実践的アドバイス―
日本体育大学トレーニング方法研究室 教授 関口 脩
関口 脩 
[せきぐち・おさむ]
日本体育大学トレーニング方法研究室 教授
1947年、群馬県生まれ。69年、日本体育大学体育学部卒業、同大学副手を経て、現職。健康運動実践指導者養成や公認スポーツ指導者養成の講師としても活躍。
主な著書に『筋力トレーニングマニュアル』(大修館)、『レジスタンスト
レーニング』『コンディショニングの科学』(ともに朝倉書店)など、著書多数。
 厚生労働省では、1988年から「アクティブ80ヘルスプラン」を推進し、 80歳になっても元気で生き生きと身のまわりのことも自分ででき、社会的参加もできるようにと、「運動・休養・栄養」の3要素のバランスがとれた生活習慣を確立していくためのさまざまな施策を講じてきました。
 高齢社会となり、私たちはどういう80歳を迎えられるかが今日の大きな課題で、「健康」に大きな関心が集まっているのも当然のことです。人間はじっとしている植物と違い、動くもの、すなわち動物ですから、年代に応じて適度の運動をして初めて自分で自分の体を作ったり守ったりすることができます。その手段としてスポーツがあり、運動があります。スポーツというと相手に勝つという競争意識のほうが強かったように思いますが、一般の人はやはり楽しみながらやれればいいですね。
 体は動かさないと、筋肉は萎縮し、機能も低下します。文明が発達していない時代では、日常的に野原を駆け回るとか、知恵を使って労働という名の運動をしたりしていました。それが現代では交通機関をはじめ、あらゆるものが便利になり、省力化され、体を動かす機会が少なくなりました。そこで、今日では人間としての正しい機能(すなわち健康)を維持するために、積極的に体を動かさなくてはなりません。そこで「運動」が重要なのです。
 これまでに「成人病」と呼ばれていた贅沢病も今は、「生活習慣病」と言い換えられるようになりました。例えば成人病のひとつである糖尿病や肥満などは、かつては大人の専売特許のようなものでしたが、今は子供もなる時代。人間として、というよりは動物として動く範囲が狭くなり(運動不足状態)、大人も子供も体は弱体化し、病気になりがちです。ですから、運動不足の解消、バランスのとれた食生活など、生活慣習を改善することが必要なのです。生活の中に運動、体力づくりを取り入れれば、体は若く保たれ、病気にかかる確率も少なくなります。

 そこで、運動、体力づくりですが、ここでは心肺機能を向上させる「エクササイズ」を中心に話をすすめましょう。
 心肺機能を向上させるのは、エアロビクス運動(有酸素運動)です。体内に取り入れた酸素を使ってエネルギーを再生しながら、長時間運動が続けられるもので、歩行やジョギング、サイクリング、遠泳などがこれにあたりますが(これと正反対のものが、無酸素運動といわれるアネロビクス運動で、重量挙げ、100m走や短距離ダッシュなどの瞬発系の強度の高い運動です)、体に効果があるのは全身の関節、筋肉を大きく動かすものであること、休みなく最低でも12分以上続けられる運動であること、余裕をもってできる運動の強さであること、などが条件です。
 その運動能力の限界、強度は人それぞれですが、およその目安として年齢から割り出した心拍数で推しはかります。今まで運動らしいことをあまりしたことのない人なら、[210−(0.8×年齢)]、いつも運動している人なら、[205−(0.5×年齢)]が最大心拍数で、その70〜80%がその人にとって心肺機能にいちばん効果があるといわれています。
 また、もっと楽な強度で長い時間運動をすると、体脂肪がエネルギーとして多く使われます。これは最大心拍数の60%の強度となり、つまり全力ダッシュより、早歩きのほうが脂肪の燃焼に効果的だといえます。
 運動は、頻度を多く、週に1回、1時間の早歩きよりも、30分ずつでも週に3回歩いたほうが体のためになります。体が慣れてきたら、1回のエクササイズを40分に増やすとか、パワーウォーキング(早歩き)に挑戦するなど、無理のない範囲で強度を上げましょう。

実践編/Part-1 家庭でできるカンタン運動【道具いらずの3大エクササイズ】

 まずは、家庭で、しかも道具もいらないエクササイズを紹介しましょう。それも上半身、コア(腹部)、下半身と、体全体をカバーする「3大エクササイズ」。この3つを日々行うことで、効果は絶大、立派な体力づくりになります。
 ひとつめは、おなじみの腕立て伏せ。これこそ筋力トレーニングの王様で、腕や胸はもちろん、いろいろな形でやることで、肩や背中にも効き、これで上半身は完璧です。
 次に、その上半身と下半身をつなぐコア、体幹部のことですが、特にここが弱いと腰の入らない、全体がしっかりしない体になってしまいます。いわゆる腹筋運動ですが、ここでは安全で効果の高いクランチャーを紹介します。最後にスクワットで下半身のトレーニング。サッカー選手や自転車の選手、スピード・スケートの選手のような見事な大腿部、とまでいかなくても、肉体の老化は脚の筋肉の萎縮(筋力低下)から始まるわけですから、必須のトレーニングといえます。

《プッシュアップ》腕立て伏せ
 腕を肩幅に開き、両足を揃える。脇をしっかり締め、まっすぐ伸ばした肘を90度になるまでゆっくり曲げ、そしてゆっくり元に戻す。
 この基本のフォームで正しいやり方をマスターしたら、さらに効果をあげるために、床につく腕の間隔を肩幅よりもっと広げればもっと胸に作用するし、逆に腕の間隔を狭めれば、効果は胸より腕や肩に。さらに負荷を高めたかったら足先だけを台などに乗せ、下半身を高く上げたり、また、片腕だけでやってみるのもいい。
 また、女性など力が弱くてできないという人は、膝を床につけた状態からの腕立て伏せや、壁に向かっての斜め立ち腕立て伏せを。壁から1歩下がって立ったまま手をつき、腕を屈伸する。それで軽いように感じたら、徐々に壁から離れればいい。
10〜12回ぐらいやって1分間休憩し、1〜3セット全部で30〜36回できればオーケー。

《クランチャー》腹筋
 腕を肩幅に開き、両足を揃える。脇をしっかり締め、まっすぐ伸ばした肘を90度になるまでゆっくり曲げ、そしてゆっくり元に戻す。
 この基本のフォームで正しいやり方をマスターしたら、さらに効果をあげるために、床につく腕の間隔を肩幅よりもっと広げればもっと胸に作用するし、逆に腕の間隔を狭めれば、効果は胸より腕や肩に。さらに負荷を高めたかったら足先だけを台などに乗せ、下半身を高く上げたり、また、片腕だけでやってみるのもいい。
 また、女性など力が弱くてできないという人は、膝を床につけた状態からの腕立て伏せや、壁に向かっての斜め立ち腕立て伏せを。壁から1歩下がって立ったまま手をつき、腕を屈伸する。それで軽いように感じたら、徐々に壁から離れればいい。
最初は10回、休憩1分間で、1〜3セット行う。

《スクワット》脚の屈伸
 下半身の筋肉にまるごと全部作用するのが、この運動。まず肩幅程度に脚を開いて立ち、頭の後ろか胸で腕を組み、しゃがみこんでゆく。大きくゆっくりと息を吸いながら、大腿の前面が床に平行になるくらいまでゆっくり体を沈める。そして息を吐きながら立ち上がり元に戻す。上半身はまっすぐ、むしろ胸を張って、お尻を後ろに突き出す感じだ。顔はまっすぐ前を見続ける。早く動けば楽だが、それでは効果は薄い。「ゆっくり」脚に重さを感じながら動かすことが効果を高める。
10回やって、1分間休憩、1〜3セット行う。

実践編/Part-2 ヘルシー・ウォーキング【姿勢を正してリズミカルに】

 極論すると、人間の健康は歩くことを前提に組み立てられています。まず骨と筋肉の関係。脚には全身の筋肉の3分の2が集中し、太い骨が通っていて、絶えず脚を使ってこそ筋肉と骨は鍛えられ、動かさないと細くなります。次は脳との関係です。筋肉は収縮するたびに脳に刺激を与えます。筋肉には緊張筋(赤筋)と相性筋(白筋)とがあり、特に脳と密接な関係があるのは緊張筋で、その多くは体の下半身に集中しています。ですから、歩くことで脳につねに刺激がいくというわけです。さらに、歩かないと腰(腰椎)が歪み、痛みに泣くことになります。
 ほかにも心肺機能を高める効果もありますし、また、肉体に表れる老化は、まず脚の筋肉萎縮による筋肉低下です。その結果、歩行がすり足になり、つまづきの要因となり、転倒するケースが非常に多くなっているなど、歩くことと健康は密接な関係があります。しかも簡単にできる運動です。
 といって、ただ歩くのではなく、どうせ歩くなら正しく歩きたいものです。その歩き方にもハウ・ツゥーがあります。姿勢、リズムなど、正しい歩き方を身につけましょう。
 「ウォーキング」に関するさまざまな本には、健康を維持するためには「1日1万歩、歩くべし」と書かれています。その基準は、理屈としては1万歩くらい歩くと1日の運動量として必要最小限の300キロカロリーが消費できるというものです。[表-1]
 最初は、1回15分から30分、慣れてきたら徐々に伸ばしていきます。天候が悪い時は無理をせず、いい時に楽しく、リラックスして歩きます。まず、10分間歩いて、息が切れないかをチェック。そして目標心拍数は、[200−年齢=最高心拍数]と想定し、トレーニングはその60〜80%の範囲ならオーケーです。週に3回、1回に最低でも10分間は歩き、距離よりも時間を目安に歩くことが長続きするコツです。そして歩くことに慣れたら、だんだん歩幅を広くして、速く歩くことに挑戦してみましょう。

実践編/Part-3 ストレッチング【息を止めず、反動をつけず、頑張り過ぎない】

 ストレッチングとは、トレーニングの前後に行う柔軟体操のことで、筋肉温を高め、筋肉や関節の柔軟性を高める効果があります。また、それだけではなく、スポーツ傷害の防止やトレーニングで疲れた筋肉をリラックスさせ、疲れの要素をいち速く取り除く効果もあります。加えて、精神感情面への影響も大きいものがあります。
 ウォーキングやジョギングの前にはウォーミングアップ・ストレッチング、終わったあとも緊張した筋肉をクールダウン・ストレッチングでほぐします。ほかにも早朝スタートのゴルフをする前のストレッチング、これをやるとやらないとでは、スコアメイクの上でも影響がありそうです。
 ここでは、比較的疲れの出やすい腕・肩・首の部位と脚のストレッチングを紹介します。特に、腕や肩は不摂生が過ぎると激痛すらともないます。ほかの部分に比べ、動作もおおげさにならず場所もとりませんので、室内で手軽にできます。ストレッチングのコツは、息を止めない・反動をつけない・頑張り過ぎないことです。

腕のストレッチング
手の先を膝の方に向けて両手、両膝をつき、腰をゆるやかにおろしていく。腕の前面がじんわり伸びているのを感じよう。5〜30秒間伸展する。
首のストレッチング
両手を腰の後ろにまわして肘を曲げ、一方の手でほかの手首を握り、引きながら引っ張られる方向へ頭をゆっくり倒す。首と肩がじんわり伸びる。引かれた腕の肘は深く曲げないように。左右各5〜30秒間、じっくりと伸ばす。
背中のストレッチング
床に正座し、両手を体の前につく。その姿勢のまま腰を後ろに引き伸ばし、胸を静かに床につけるように。背中はそらせない。5〜30秒間静止して伸展。
脚(アキレス腱)の
ストレッチング

片方の膝を立てて座り、もう一方の脚は正座。腰を浮かせながら体重を前方にもっていき、曲げた方のアキレス腱が伸びているのを感じよう。左右各5〜30秒間。
肩のストレッチング
片腕を胸の前から肩にかけて交差させ、もう一方の腕で固定する。押さえた方の腕に力を入れ、もう一方の腕の付け根と肩が伸びているのを感じよう。肘を上げぎみにするとより効く。ゴルフのプレイ前にやると効果的。左右各5〜30秒間。
脚(股関節と大臀筋)
のストレッチング

脚を伸ばして座り、一方の脚を曲げて両手で胸へ引き寄せ、抱え込むように。股関節の柔軟性養成が望める。お尻から腰にかけての伸展を感じよう。左右各5〜30秒間。
 
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