遅咲きのすすめ
エッセイスト 安藤和津
安藤和津[あんどう・かづ]
エッセイスト
東京都生まれ。初等科から高等科まで学習院で学び、上智大学独文科卒業後、英国2年留学。俳優であり映画監督の奥田瑛二氏と31歳で結婚。現在2人の娘の母。
テレビではメインキャスター、レギュラーコメンテーターとして、多くのテレビに出演、現在はTBS系『ジャスト』のコメンテーターとして水曜日にレギュラー出演。著書は、エッセイ『愛すること愛されること』(講談社)、夫婦共作絵本『さくらうさぎ』(三起商行「ミキハウス」)をはじめ多数。また、文部省教育課程審議会委員などの官公庁の委員も数多く歴任し、現在は、下関市文化振興財団理事長、法教育研究委員会(法務省大臣官房司法法制部主催)委員として活躍。
 恋愛観とか結婚観って、特に若い人の間ではいまだに収入とか学歴とかの条件的なものが主軸になっているんじゃないでしょうか。『結婚って何なんだろう』と考えたときに、そういった価値観をもっていることが、とても不思議な気がします。
 というのも、結婚を生活の手段のひとつと考えているから不平不満がお互いに出る。女房が遅く起きて自分を朝起こしてくれなかったとか、料理をちゃんとしないとか。奥さんは奥さんで、夫の給料が安いだの、ボーナスが少なくて、思っていたような生活のレベルが保てなくなったとか……、生活の手段でお互いを見ているから、もやもやしたした関係になってしまうと思うんです。
 夫(奥田)は結婚前は売れない役者でしたし、私たちは生活面は一切関係ないところから始まって、それもゼロというよりマイナスからのスタートでした。条件ではなく、何を見たかというと、言い古された言葉ですが、人間的な魅力というか、裸の彼自身を見てということになるんでしょうね。笑いの壺と涙の壺が一緒ということなんだろうと思います。その一点がすれ違ってしまうと、長いスタンスで歩んでいくのはものすごく難しい。それは意識した結果ではなく、何が合うんだろうなと思ったときに私にはそれだったんです。見つけるまで時間は全然かかりませんでした、結婚まで半年かかっていないんですから。
 あと、私は普通に他人と会話しているときでも、場が盛り上がってないと嫌なんですね、「……」というシーンとした空白がすごく居心地悪い。でも、彼だとその「……」の違和感が全然ありませんでした。「……」だらけでも大丈夫でした。
 私自身、結婚願望は特に強かったわけじゃなかったんです。ただ、当時のことですから30歳を過ぎた女性が、母親をはじめ、「せねばならぬ」という周りからの責め、「お決まりになった?」がご挨拶がわり、人に会うたびに「ご結婚は」と言われるわけです。それってすごいプレッシャーでしょ?
 そこにもってきて、母がこの人との結婚なら、待ったかいがあったというくらいの条件の整った男性を私が蹴ってしまった。親不孝をして、そんな自分がすごく嫌だなあと思ったりもしました。そのとき、仕事をしていればまだ言い訳もつくんですが、仕事もしないで、親のすねをかじりつつ、30歳を迎えて結婚していない女なんて、いま流行りの言葉でいえば「負け組」どころじゃないですよね。
 今は時代がずいぶんよくなりました。周りの目が30代でシングルでも結婚しなさいなんて、誰も言わない。別ものという扱いもされません。
 女性もやっと自由になれたんじゃないですか、自分で選択できるわけですから。無理して結婚しなくてもいいし、一緒にいたかったらいればいいという形態もありだし、入籍しないで一緒に暮らしている人もいます。昔は同棲してるなんてとんでもない話だったんですもの。ですからすごく人生の選択の幅が広がったかわりに、どうなんでしょう、これだけ許されてしまうと、あえて結婚しないということで済んじゃうことに対してこれから先どうなっていくのかなっていう憂いはありますね。それだけ強く自分自身で生きていかれる人ばかりじゃないかもしれませんものね。
 とりあえず結婚しておくか、というのでしたらしないほうがいい。いるのも苦労、いないのも苦労で、同じ苦労はあると思いますから。
 結婚して、私自身、母からの呪縛から解き放たれた感じですが、結婚も、継続は力なりだと本当に思いました。続けることに意義があるというか。やっぱり夫婦だって愛情が少し薄くなったり、嫌なところばかり目についたりとか、誰でもあると思うんです。そんなときに自分を一歩退いて、静観して時間をかけて相手や状況を見てみると、また違う側面が見えてきて、流れが変わるんですね。樹木と一緒で、季節があり、まぶしいぐらいの緑があって、そのあと枯れるときもあるけど、また青い芽をだしますからね。根っこさえしっかりしていれば、それは継続していくと思うんです。
 その根っこって、人間的な信頼とか、尊敬できる部分とか、そういったものだと思うんです。私だって彼に対して本当にしょっちゅう頭に来ることありますよ。だって映画つくってお金すっからかんになっちゃうし、それでまた逆戻りみたいなところもあるんですけど、でも、それはそれ。クセがあったって、正直な人であるとか、真の人間性がいいとか、そういうものが根底にあればいいんじゃないでしょうか。
 私は30歳過ぎて結婚したのがよかったと思っています。まずは自分がちゃんとした大人にならないと他人の人間性も見つけられません。よく若い女の子が、いい男いないかしら、とか言ってるけど、まず自分がいい女になる努力をしてねと言いたいな。
 お互いに全部を理解し合うというのは、すごく難しいと思う、特に男と女で。いかに相手を許容できるか、受け入れられるか。「どうしてあなたってこうなのよ」と言いつつ、そんなあなただけど、いいわと言えるかどうかなんですよね。その許容範囲を徐々に増やしていくか、あるいはここまでという範囲を決めて、それを超えたら終わり、という人もいるでしょう。継続は力なりというのは、その許容範囲をお互いに広めていくことなんでしょうね。
 夫婦の輪って、すべてがぴったり一致しないとダメだと、特に若い人は思いがちですが、2つのリングが知恵の輪みたいに一部分重なっていて、そこの絆がしっかりしていれば、いいと思う。そのポイントが自分にとって何かということを探すのが、相手を理解することじゃないかしら。(談)
 
戻る